毎月1回(第3水曜日)、奈良新聞「明風清音」欄に執筆させていただいている。今月(3/21)掲載されたのは「奈良と薬の古~い関係」、大和当帰の供給拡大などをめざす「漢方のメッカ推進プロジェクト」の話である。前阪祥弘さん(県知事公室審議官)のおかげで、プロジェクトの全貌を知ることができた。では記事全文を紹介する。
※トップ写真は「大和当帰葉」。近鉄百貨店奈良店地下の「大和情熱野菜」で購入(3/17)
奈良県では古くから漢方生薬(薬用作物)が栽培されてきた。代表が大和当帰(やまととうき)だ。当帰はセリ科の多年草で、県南部・東部をはじめ日本各地で栽培されてきた。なかでも品質の高いのが県産の大和当帰で、根は鎮痛、補血の薬などに使われる。3年前、高取町が大和当帰葉のエキスを使った入浴剤を発売したので自宅の浴槽に入れてみたところ、体が芯からぽかぽかと温まったのには驚いた。
シャクヤクも、もとは観賞用ではなく薬用作物として栽培されてきた。当帰とシャクヤクを使った漢方薬に「当帰芍薬散」という婦人薬がある。キハダ(黄柏)は古くから腹痛などの生薬として「陀羅尼助(だらにすけ)」や「三光丸」などに使われてきた。
推古天皇の薬猟(くすりがり)は『日本書紀』に登場するし、正倉院宝物には60種類の薬と「種々薬帳(しゅじゅやくちょう)」という献物帳が残る。奈良県には置き薬(配置売薬)の伝統があり、製薬メーカーの創業者には本県出身者が多い。
これらを背景に、生薬・漢方薬の供給拡大や食品・化粧品など新たな用途の開発を進めるのが県の「漢方のメッカ推進プロジェクト」だ。
平成28年度と29年度には、文化庁が認定する「日本遺産」に「奈良の薬」として申請したが惜しくも、いずれも認定を逃した。30年度には申請をせず「『奈良の薬』見送り」と報じられたことは記憶に新しい(本紙平成30年2月6日付既報)。認定の見送りを知って「プロジェクトが行き詰まったのかな」と勝手に勘違いしていたが、決してそうではなく、プロジェクトは着々と進められていた。
同プロジェクトを担当する前阪祥弘さん(県知事公室審議官)にお話を伺った。「漢方の生薬のうち国産は約1割です。約8割が中国からの輸入物で生薬の需要増、自生の薬用作物の減少、人件費の上昇などの影響で輸入価格は高騰しています」「そこで国内生産が求められますが、栽培期間が長い、農薬が使えない、安定供給が難しい、などの問題があります」。
漢方薬というと縁遠い感じがするが、葛根湯やカコナール、ナイシトール、鼻炎薬の小青竜湯など、身近なところで使われている。生薬のサフランやシナモンはカレーのスパイスにも使われ、奈良に工場のあるハウス食品は、もとは薬種原料店として、船場で創業された会社である。
大和当帰など生薬の増産が急務となっている。前阪さんは「昨年秋には充実した『ヤマトトウキ栽培マニュアル』を作り、本年1月には生産者向けの説明会を開きました。県産大和当帰だけを使ったエキス製剤を県内企業と開発していて現在、厚生労働省に承認申請中です。生産拡大に向けた課題は少なくありませんが、生産者の皆さんの熱い思いのおかげで、大和当帰の収穫面積と栽培戸数は、ともにプロジェクト開始前の2.1倍になりました」。
人生100年時代を迎え、未病(病気に向かいつつある状態)を改善し、副作用の少ない漢方薬には注目が集まる。県の各部局をはじめ製薬・食品メーカー、外食産業、農業法人などが参画する漢方のメッカ推進プロジェクトで、県が誇る漢方を大いに普及させていただきたいと願う。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)
3月17日、オープンしたばかりの「大和情熱野菜」(近鉄百貨店奈良店地下)を訪ねると、大和当帰の「葉」がたくさん並んでいた(根は生薬だが、葉は非医扱い)。早速買って帰り、細かく刻んで野菜サラダに混ぜてみると、ちょうどパクチー(コリアンダー、香菜)のような味わいだった。同じセリ科の仲間なので、味も似てくるのか。食べた後、身体が内側から火照ってくるようで、これは冬には欠かせない。
実は今回の話は上海の医師・藤田康介さんから「大和当帰、最近はどういう状況ですか?」という質問を受け、全く答えられなかったので、これはイカンと一念発起して取材させていただいたものだ。「日本遺産見送り」で意気消沈していたが、プロジェクトが着々と進んでいることが分かり、安心した。
皆さん、引き続き「漢方のメッカ推進プロジェクト」にご注目を!
※3月30日追記
今井町町並み保存会の若林会長から、私のFacebookにこんなコメントをいただきました(30日午前10時)。「○○地黄丸」とは、八味(はちみ)地黄丸のことかと思います。
大和はまさに漢方のメッカだった 今井町の北1キロの地黄町(じおうちょう)、地黄の栽培地だったと聞いています 当然今井町にも製薬会社や売薬を生業にした家が多かったです 昨年購入した古民家も江戸から明治期には製薬をされていたことがわかり、新薬の届け出の書類には漢方薬の名前ばかりです。
ちなみに私は長年未病対策に○○地黄丸を常用していますが1時ひどかった頻尿、夜尿症が収まりました「〇〇地黄丸」は、体を温め、体全体の機能低下に元に戻していく処方で「気」「血」「水」 を増やし、めぐらせる生薬と、体を温める生薬の組み合わせで、頻尿や軽い尿もれ、残尿感、 夜間尿などを改善していきます。
また、「腎気丸(じんきがん)」の別名があるように、昔から“腎虚(じんきょ)”に対して用いら れてきました。漢方でいう腎とは、現代医学でいう腎臓だけでなく、副腎、膀胱、そして生殖器 を含めた総称です。「〇〇地黄丸」は、腎のはたらきを良くする生薬を主薬に8種類の生薬が 配合され、新陳代謝機能を高めて中年以降の保健薬・治療薬として効果があります。と効能がうたわれていますが体に合っているようです。
※トップ写真は「大和当帰葉」。近鉄百貨店奈良店地下の「大和情熱野菜」で購入(3/17)
奈良県では古くから漢方生薬(薬用作物)が栽培されてきた。代表が大和当帰(やまととうき)だ。当帰はセリ科の多年草で、県南部・東部をはじめ日本各地で栽培されてきた。なかでも品質の高いのが県産の大和当帰で、根は鎮痛、補血の薬などに使われる。3年前、高取町が大和当帰葉のエキスを使った入浴剤を発売したので自宅の浴槽に入れてみたところ、体が芯からぽかぽかと温まったのには驚いた。
シャクヤクも、もとは観賞用ではなく薬用作物として栽培されてきた。当帰とシャクヤクを使った漢方薬に「当帰芍薬散」という婦人薬がある。キハダ(黄柏)は古くから腹痛などの生薬として「陀羅尼助(だらにすけ)」や「三光丸」などに使われてきた。
推古天皇の薬猟(くすりがり)は『日本書紀』に登場するし、正倉院宝物には60種類の薬と「種々薬帳(しゅじゅやくちょう)」という献物帳が残る。奈良県には置き薬(配置売薬)の伝統があり、製薬メーカーの創業者には本県出身者が多い。
これらを背景に、生薬・漢方薬の供給拡大や食品・化粧品など新たな用途の開発を進めるのが県の「漢方のメッカ推進プロジェクト」だ。
平成28年度と29年度には、文化庁が認定する「日本遺産」に「奈良の薬」として申請したが惜しくも、いずれも認定を逃した。30年度には申請をせず「『奈良の薬』見送り」と報じられたことは記憶に新しい(本紙平成30年2月6日付既報)。認定の見送りを知って「プロジェクトが行き詰まったのかな」と勝手に勘違いしていたが、決してそうではなく、プロジェクトは着々と進められていた。
同プロジェクトを担当する前阪祥弘さん(県知事公室審議官)にお話を伺った。「漢方の生薬のうち国産は約1割です。約8割が中国からの輸入物で生薬の需要増、自生の薬用作物の減少、人件費の上昇などの影響で輸入価格は高騰しています」「そこで国内生産が求められますが、栽培期間が長い、農薬が使えない、安定供給が難しい、などの問題があります」。
漢方薬というと縁遠い感じがするが、葛根湯やカコナール、ナイシトール、鼻炎薬の小青竜湯など、身近なところで使われている。生薬のサフランやシナモンはカレーのスパイスにも使われ、奈良に工場のあるハウス食品は、もとは薬種原料店として、船場で創業された会社である。
大和当帰など生薬の増産が急務となっている。前阪さんは「昨年秋には充実した『ヤマトトウキ栽培マニュアル』を作り、本年1月には生産者向けの説明会を開きました。県産大和当帰だけを使ったエキス製剤を県内企業と開発していて現在、厚生労働省に承認申請中です。生産拡大に向けた課題は少なくありませんが、生産者の皆さんの熱い思いのおかげで、大和当帰の収穫面積と栽培戸数は、ともにプロジェクト開始前の2.1倍になりました」。
人生100年時代を迎え、未病(病気に向かいつつある状態)を改善し、副作用の少ない漢方薬には注目が集まる。県の各部局をはじめ製薬・食品メーカー、外食産業、農業法人などが参画する漢方のメッカ推進プロジェクトで、県が誇る漢方を大いに普及させていただきたいと願う。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)
3月17日、オープンしたばかりの「大和情熱野菜」(近鉄百貨店奈良店地下)を訪ねると、大和当帰の「葉」がたくさん並んでいた(根は生薬だが、葉は非医扱い)。早速買って帰り、細かく刻んで野菜サラダに混ぜてみると、ちょうどパクチー(コリアンダー、香菜)のような味わいだった。同じセリ科の仲間なので、味も似てくるのか。食べた後、身体が内側から火照ってくるようで、これは冬には欠かせない。
実は今回の話は上海の医師・藤田康介さんから「大和当帰、最近はどういう状況ですか?」という質問を受け、全く答えられなかったので、これはイカンと一念発起して取材させていただいたものだ。「日本遺産見送り」で意気消沈していたが、プロジェクトが着々と進んでいることが分かり、安心した。
皆さん、引き続き「漢方のメッカ推進プロジェクト」にご注目を!
※3月30日追記
今井町町並み保存会の若林会長から、私のFacebookにこんなコメントをいただきました(30日午前10時)。「○○地黄丸」とは、八味(はちみ)地黄丸のことかと思います。
大和はまさに漢方のメッカだった 今井町の北1キロの地黄町(じおうちょう)、地黄の栽培地だったと聞いています 当然今井町にも製薬会社や売薬を生業にした家が多かったです 昨年購入した古民家も江戸から明治期には製薬をされていたことがわかり、新薬の届け出の書類には漢方薬の名前ばかりです。
ちなみに私は長年未病対策に○○地黄丸を常用していますが1時ひどかった頻尿、夜尿症が収まりました「〇〇地黄丸」は、体を温め、体全体の機能低下に元に戻していく処方で「気」「血」「水」 を増やし、めぐらせる生薬と、体を温める生薬の組み合わせで、頻尿や軽い尿もれ、残尿感、 夜間尿などを改善していきます。
また、「腎気丸(じんきがん)」の別名があるように、昔から“腎虚(じんきょ)”に対して用いら れてきました。漢方でいう腎とは、現代医学でいう腎臓だけでなく、副腎、膀胱、そして生殖器 を含めた総称です。「〇〇地黄丸」は、腎のはたらきを良くする生薬を主薬に8種類の生薬が 配合され、新陳代謝機能を高めて中年以降の保健薬・治療薬として効果があります。と効能がうたわれていますが体に合っているようです。
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