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市場原理ではなく、自然の流れに沿った生産・消費関係の再構築を/山極寿一氏「現論」

2022年08月16日 | 環境問題
総合地球環境学研究所長・山極寿一氏の「現論」(奈良新聞 2022.7.31付)を読んで、目からウロコが落ちた。見出しは〈自然の流れに逆らう市場 食物が地球をつなぐ〉だ。同所の公式HPには、
※トップ写真は、フリー写真素材サイト「PAKUTASO」から拝借した

山極所長による寄稿。冒頭、ロシアの侵攻によりウクライナの小麦輸出が滞ってアフリカ諸国が深刻な食糧危機に陥っているという現状を例に引き、生産過剰でありながら食物が人々に平等に行き渡っていない世界の悪循環の現状を指摘、「山・森・里・川・海は大気や水の流れによって有機物や無機物が循環して生態系を保持している。多様な生物がその循環の役割を担っている。食物もその自然の流れを壊さないように循環させなければならない」と述べています。

全文は記事画像を見ていただくとして、特に私の目を引いたところを抜粋しておく。

本来、その土地の性格に合わない物を、湿地を埋め立てるなど環境を変えて大量に作り、世界市場に流通させることがグローバル経済によって加速した。

アフリカではコーヒーや紅茶、アジアはアブラヤシのプランテーションが急増した。最近はバイオエネルギーの資源となるトウモロコシの大規模生産が加速している。しかし、これらの価格は国際企業によって押さえられ、いくら生産しても現金収入は増えない。

さらに、自然を改変して農地や牧草地に転換したことによって、それまで二酸化炭素を吸収し固定していた自然の力が失われた。現在、野生生物の多様性が高い森林は陸地の3割しか残っておらず、畑地と牧草地が4割に達している。それは今や陸上にいる哺乳類のバイオマス(生物重量)の9割以上を占める人間と家畜を食べさせるために存在する。



ところが、世界で生産される食物の3分の1が廃棄されているのに、飢えている人々が約7億人もいる。明らかに生産過剰でありながら、食物が人々に平等に行き渡っていないのである。

この悪循環を正すためには、市場原理によって物資を流通させるのではなく、自然の流れに沿った生産と消費の関係をつくることが必要である。そして、温室効果ガスの主役である二酸化炭素を削減できる資源や手法には、世界がその価値を認めて資金を拠出する。

消費者の注文に応じて生産するようになれば、大量生産、大量廃棄は緩和される。物をなるべく循環させる経済である「サーキュラーエコノミー」が必要な時代なのである。


ACジャパンの「おむすびころりん一億個」という広告はよく知られている。〈日本国内の食品ロスの量は年間およそ643万トン。これは、わたしたち一人一人がまだ食べられるおにぎり1個を毎日捨てているようなものです〉。その一方で世界に飢えている人は約7億人もいるとは、どこかが間違っている。

物を循環させる経済への転換は容易ではないだろうが、人類はそろそろ目を覚ますべき時だ。

コメント
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