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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

幸せの行方

2012年06月10日 | 映画(さ行)
甘そうな題名に騙されるなかれ



                * * * * * * * * * 


この何やら甘そうな題名に騙されましたが、シリアスで怖いストーリーです。
大富豪の御曹司であるデビッド(ライアン・ゴズリング)が、
ごく一般家庭で育ったケイティ(キルステン・ダンスト)を見初め、
周囲の反対を押し切って結婚します。
しかし、ケイティの妊娠が判明してから、幸せの歯車が狂い始める・・・。
デビッドは子供の頃、母親の自殺を目前で見てしまったというトラウマを抱えています。
そのせいか、どこか人格が壊れている。
ライアン・ゴズリングというのは、こんなふうにどこかちょっと壊れている感じが似合うんですよね・・・。
先日見た「ドライヴ」でもわずかながらにそういうところが読み取れて、
なるほど、あの男にも多分危うい過去があるに違いない・・・。
明るくて人をひきつける魅力のあるケイティに、キルスティン・ダンストの起用もハマっていて、
けれどもまた、幸せなはずの結婚がどんどん息苦しいものになっていく様も見事です。
そしてまた、根っこにはやはり“父親に認められない息子”、という構図。
父の期待にそってあとを継ぐのは弟の方なのです。
根深い問題が山ほど・・・、
けれど傍からは為す術もありません。
切ないですね。



今作は、実在の不動産王セイモア・ダーストの息子、
ロバート・ダーストの周辺で起きた夫人失踪事件と殺人事件を元に映画化したもの。
実際の妻の失踪は20年も前に起きたことなのですが、
どうにも夫が怪しいということで掘り起こされ、話題になった事件なんですね。
だからこの作品の内容は、もちろん想像であるわけですが、
かなりのリアリティを感じさせます。

人の心の奥底の不思議さ、不気味さ、真実の捉え難さ・・・。
そういう意味でも、怖いですよね。
そうそう、彼の別荘付近から犬の骨が発見された事実から、
あのハスキー犬の登場となったのでしょう。
犬の視線に勝手に意味を見出してしまうという描写も、よくできています。
(しかし、許せん!!)

幸せの行方... [DVD]
ライアン・ゴズリング,キルスティン・ダンスト,フランク・ランジェラ,フィリップ・ベイカー・ホール
Happinet(SB)(D)


「幸せの行方」
2010年/アメリカ/101分
監督:アンドリュー・ジャレッキー
出演:ライアン・ゴズリング、キルステン・ダンスト、フランク・ランジェラ、フィリップ・ベイカーホール、クリステン・ウィグ

「なのはな」 萩尾望都

2012年06月09日 | コミックス
著者の祈り、私たちの祈り

なのはな (コミックス単行本)
萩尾 望都
小学館


                   * * * * * * * * *  

今作は月刊Flowersにて、"シリーズここではない★どこか"の一環として発表されたものです。
なので、しばらくすればいつものコミックスにまとめられたのだろうと思います。
けれどもこの度、単行本として独立して発行されたこの本の意味は、
手に取ればはっきりとわかります。
2011年3月11日。
私たちの心にしっかりと焼きついた重い出来事。
でもそれはそのとき限りのことではなく、そこから始まる新たなイバラの道のスタートであったわけです。
著者の3.11への思いが見事に結集した本となっています。


巻頭の表題作「なのはな」は福島県に住む家族のストーリーです。
小学6年のナホの家は農家ですが、放射能の避難区域にあったため、
別のところに住んでいるのです。
たまたまあの日、浜の方へ出かけていたおばあちゃんは、未だに帰りません。
「今度の一時帰宅の時には何を持ってこようか」、
そんな会話がなされます。


ナホの心を占めるのは、同じく放射能に汚染されたチェルノブイリのこと。
自分の家のこと。
帰らないおばあちゃんのこと。
破壊されてしまったそれまでの穏やかな生活。
両親やお兄ちゃん、おじいちゃんもいて
一応は充足した生活を送っているように見えるのですが、
根底にはどこにも持って行きようのない怒りや悲しみがあります。
少女の混乱した心が昇華されていく様に、
涙を誘われてしまいました。
今作は私たちの"祈り"でもあります。


そして、短編を3つ挟んで、
巻末に今作の続編として「なのはな―幻想『銀河鉄道の夜』」があります。
夢のなかで、宮沢賢治の"銀河鉄道"にのり、
おばあちゃんとめぐり会うナホ。
短編3つの中休みの後にまた泣かされて・・・。
方言もいいですね。
生活感があって、ほっこりじんわりときます。
私にとってはとても大事な一冊になりそうです。


中の3つの短編は、夢のエネルギーとして期待された原子力を人に例えた寓話的作品。
余りにもテーマがストレートで、あまり情緒はありませんが^^;

「なのはな」萩尾望都 小学館
満足度★★★★★

決闘の大地で

2012年06月08日 | 映画(か行)
痛快、キムチウエスタン!!



                      * * * * * * * * * 

韓流スター、チャン・ドンゴンの海外作品初主演です。
少し前に「マイ・ウェイ12000キロの真実」という作品をいたく面白く拝見したので、
チャン・ドンゴンには興味がありました。
そしてまた、これがなんと西部劇なんですよ~。
B級っぽかろうとなんだろうと、こんな面白そうなものを見逃す手はありません。


凄腕の戦士ヤン(チャン・ドンゴン)は、敵一族と長年戦いに明け暮れて生きていました。
ある時ついに敵を皆打ち倒し、最後の生き残りが一人の小さな赤ん坊だけになったのです。
それは敵一族の姫なのですが、
彼はその子の笑顔のあまりの可愛らしさに、赤ん坊を殺すことができない。
けれども、それは彼の属する一族への裏切り行為なのです。
裏切り者にあるのは死のみ。
彼は赤ん坊を連れ、海を渡り、遠くアメリカ西部へ逃亡します。
いやはや、日本と言わず太平洋を超えてアメリカまでとはスケールが大きいですよね!
またその彼一人を抹殺するために一族を引き連れて渡航してしまう追手もすごい。
費用対効果というのを考えないんですかね??? 
まあ、ここで逃亡成功例を作るわけには行かない、という一族の壮絶な掟なのですねえ・・・。



さて、ヤンは人口50人という非常に寂れた西部の町にたどり着きます。
そこはサーカスの芸人たちが住んでいる町。
ヤンは町の人達に受け入れられて、クリーニング店の仕事を得、
生まれて初めて、ごく普通の人間らしい生活をします。
殺戮のための剣は封印。
しかし、そんな穏やかな日々はつかの間・・・。
実はこの街には時折ならず者たちが襲撃してくる。
だからこそこの街はこんなに寂れていたわけなのですが・・・。
ヤンは剣の封印を解き、町の人々と共ににならず者たちと対決する覚悟を決めるのです。
しかしそんな時、更にまた東の国からヤンの追手たちが迫ってくる・・・!!

二重の敵を相手に、さあどうなる!!
ってことで、否が応にも盛り上がってしまうのです。



私は、これは「カムイ外伝」の西部版だと思いました。
組織を抜けたがゆえに、その組織から抹殺される宿命を背負い、
必死に追手を交わしながら生きていく。
けれどそんな中で、ごく普通の平和な生活をほんのひととき得るのですが、
決して長くは続かない・・・という、このパターン。
・・・好きなんですよね~。
いっそ、ここにもエイリアンが登場して、
敵対するみなで協力してエイリアンと対決するなんていうのはどうでしょう。
うふふ。



町にいる飲んだくれの爺さんが名優ジェフリー・ラッシュで、
しかし、ただの飲んだくれではなかった、という隠し味あり。
ならず者のボスは“歯並びフェチ”だったりして、これも妙に可笑しい。
チャン・ドンゴンの殺陣もカッコイイですし、
是非皆様にも見てもらいたいですね。
痛快です!! 
キムチウエスタン!!

「決闘の大地で」
2010年/ニュージーランド/100分
監督:脚本:イ・スンム
出演:チャン・ドンゴン、ダニー・ヒューストン、トニー・コックス、ジェフリー・ラッシュ


わたし出すわ

2012年06月06日 | 映画(わ行)
大金を手にした人の行動に出る人間性



                         * * * * * * * * * 

函館が舞台の“お金”にまつわるストーリー。
故森田芳光監督・脚本作品です。


東京から故郷の北海道函館に戻った山吹摩耶(小雪)。
どうしてか、彼女は莫大な財産を持っているのです。
けれど、身なりは質素で、越してきた部屋もごく普通。
引越し業者への心付けになんと10万円入っていたりするのに、まず驚かされます。
彼女は、高校時代の友人たちに、彼らの夢を叶えるためにと、無償で大金を差し出すのです。
しかし、お金を受け取った人々の行く末は・・・。



どう見ても、そう簡単に使いきれなさそうなお札の束がいくつも・・・。
けれど、身につかないお金など持つものではありません。
マヤは善意でそれをやっているようでいて、
実は大金を掴んでこれまでの生活を持ち崩していく人々の哀れな変貌を楽しんでいるのでは?とすら思えてきます。
清らかな天使のようでいて、悪魔のようでもある。
小雪さんがそんな雰囲気をうまく出していますね。
大金を手にした人たちの行動には、その人の人間性がそのまま現れてしまうようで怖いくらいです。



1万円の小型冷蔵庫を寝室において、ベッドの上で冷たい飲み物が飲める。
なんて贅沢、なんて幸せ。
・・・確かに、それ以上を望めばきりがない。
そこそこの生活が出来れば、十分幸せなんですよね。



それにしても、“白い恋人”の空き缶に無造作にしまわれる札束。
そこそこの生活でいい・・・なんて言いながら、
ちょっぴり憧れたりして。
いやはや、人の欲には際限がない。
全く、全く・・・。

わたし出すわ [DVD]
小雪,黒谷友香,井坂俊哉,山中崇,小澤征悦
角川書店


「わたし出すわ」
2009年/日本/110分
監督・脚本:森田芳光
出演:小雪、黒谷友香、井坂俊哉、小池栄子、仲村トオル

少年と自転車

2012年06月05日 | 映画(さ行)
自転車を駆る野生児の行き着くところ



                  * * * * * * * * * 

今作に登場する少年=シリルのワイルドさに、まず、目を見張ります。
この物語はそんなところから 始まります。


シリルはホーム(養護施設)に預けられているのですが、
父親が突然引越し、連絡が取れなくなってしまったのです。
父の居所を確かめようとするシリルを職員が引き止めるのですが、
その職員を蹴飛ばし噛み付き、施設を脱走しようとするシリル。
その場を失敗した彼は、次には学校からの脱走を図ります。
偶然飛び込んだ病院の待合室。
そこにいた見知らぬ女性サマンサにしがみつき、帰らないと意地を張る。
そんなたまたまの出会いだったのですが、
サマンサはシリルの里親となり、週末を共に過ごすことになったのです。



シリルは自分の欲求にとても忠実なのです。
それを邪魔するものには容赦なく反抗する。
近頃の映画やTVドラマに登場する“子供”は、
繊細すぎるし、また物分りが良すぎたりもします。
ほとんど大人のミニチュア版です。
本来子供ってこういうふうにわがままで、無駄に感情エネルギーを放出するものだったのでは・・・?
なんだかそんな感慨にふけってしまいました。
これは暴れ馬だ!!と私などは思ったのですが、
いみじくも作品中の非行少年は、シリルをブル(闘犬)と呼んでいました。
いつも赤い服を身に着けているのは、
うかつに近寄るなという危険信号のようですね。
自転車をアクロバティックに乗りこなし、塀や木を難なく駆け登る。
この野性児が、どうにも気に入ってしまいました。


さて、この孤独でトゲトゲしい少年を救い上げたサマンサは、
美容室を営む独身女性。
父に捨てられたシリルを哀れに思ったのでしょう。
しかし、その彼女の信頼をもシリルは裏切ることになるのです。
捨てられた子犬のようなシリル(犬は犬でもブルドックですが)は、
とにかく自分に親愛を示してくれる人物になついてしまうもののようです。
しかし、それはやはり相手が悪かった・・・。


私達が胸を打たれるのは、サマンサの無償の愛。
恋人に「この子か俺か」と迫られて、子供のほうを選んでしまいます。
こんな扱いにくい子供なのに・・・。
これはやはり母性愛に違いありません。
見返りを求めず、包み込むような愛。
けれども押し付けがましい訳でもないんですよね。
この自然体がなんとも心地よい。
今や育児放棄や虐待の話を聞くことが多いですが、
私たちは本来こういう気持ちを持っているはず。
こういう気持ちを持てることこそが大人なのかもしれないと思います。



行き場をなくしたシリルが自転車を飛ばして戻った先は・・・。
たった一人でもいい。
自分を愛し、理解しようとしてくれる人があれば人は生きていけるものです。
血のつながりは関係ない。
サマンサの深い愛と、シリルの闘犬のような猛々しさ。
それぞれが強調しあっていい効果を上げているようです。

いい物語でした。

2011年/ベルギー・フランス・イタリア/87分
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ
   リュック・ダルデンヌ
出演:セシル・ドゥ・フランス、トマ・ドレ、ジェレミー・レニエ

「裏庭」 梨木香歩

2012年06月04日 | 本(SF・ファンタジー)
少女の過酷な旅が意味するもの

裏庭 (新潮文庫)
梨木 香歩
新潮社


              * * * * * * * * * *

敬愛する梨木香歩さんの代表作ですが、
なんと、未読であったことに今さら気づき、慌てて読みました。
なぜか読んだような気がしていたのですが、
似たような題名の別の本だったのかも知れません。


高い塀で囲まれた洋館の庭。
一人の少女、照美は、そのほとんど朽ちかけた洋館の秘密の「裏庭」へ入り込み、
不思議な冒険の旅をすることになります。
両親はレストランの仕事で忙しく、ほとんどかまってもらえない照美。
彼女には双子の弟がいたのですが、事故で亡くなってしまったのです。
それ以来、さらに娘に関心を払わなくなってしまった両親。
この世界で満たされない照美は、裏庭という異世界へ誘い込まれるように入って行き、
そこで、テルミィとなって旅をする。
ある大きな目的のために、いろいろな人と道連れになったり別れたり。
様々な困難が立ちふさがります。


・・・というわけで、初めのうちは単によくあるRPGに思えます。
今作が発表されたのが平成8年ということで、もうすっかりRPGもおなじみという時期です。
・・・ところが、読み進むうちに、
RPGと言うにはあまりにも過酷なテルミィの旅に、胸が苦しくなってきます。
著者は、現世の照美の生き辛さを単に環境のせいとはしない。
彼女自身の問題としているのです。
キーワードは、"鎧"と"傷"。


文中に、こんな会話があります。

「鎧をまとってまで、あなたが守ろうとしていたのはなにかしら。
傷つく前の、無垢のあなた?
でも、そうやって鎧にエネルギーをとられていたら、鎧の内側のあなたは永久に変わらないわ。
確かに、あなたの今までの生活や心持ちとは相容れない異質のものが、傷つけるのよね、あなたを。
でも、それは、その異質なものを取り入れてなお生きようとするときの、
あなた自身への準備ともいえるんじゃないかしら、『傷つき』って」


この言葉は、照美が言われたわけではないのですが、
まさに、照美自信の問題でもあるのです。
鎧というのは、梨木香歩さんを語るときに欠かせない、
"自己と他者の境界"の象徴でもあります。
余りにも確固とした境界からは何も生まれないということなのでしょう。
その境界のほころびが"傷"。
それは痛みを伴うものかも知れないけれど、異質なものをと入りれて更に生きると言うこと・・・。


テルミィの旅はこのようなことを体得していく旅なわけです。
この、あちら側の世界とこちらの現実とが全く別個ではなく、
呼応して成り立っているところが素晴らしい。
とは言え、一人の少女の人間としての成長に、かくも過酷な旅が必要とは・・・、
あまりにも厳しい。
だからこそ、今の世は私を含めて、大人になりきれていない人々であふれているのかしらん・・・?


「裏庭」梨木香歩 新潮文庫
満足度★★★★☆

ポスター犬 7

2012年06月03日 | 工房『たんぽぽ』
ポスター選びの基準?




映画のチラシは、ずっと以前から、見たもの見なかったものいろいろ集めていまして、
ものすごい量になっております。
まあそれで、こんな使い道もありなのではないかと思いまして。
特別大好き、おススメの作品を選んでいるというわけでもないんですよね。
強いて言えば、チラシのデザインかな?
すっきりと、品よくデザインされているものが好きですね。

そうそう、この作品のチラシのような感じ。








ちょっと夢見がちで淡白な感じのこの青年は、
日本人ごのみだと思うなあ・・・

→(500)日のサマー

「遠まわりする雛」 米澤穂信

2012年06月02日 | 本(ミステリ)
そういえばミステリでした。恋愛小説のつもりで読んでしまいましたが。

遠まわりする雛 (角川文庫)
米澤 穂信
角川書店(角川グループパブリッシング)


             * * * * * * * * * * 

米澤穂信の<古典部>シリーズ第4作。
ようやく私の目的の本にたどり着きました。
この本は短編集ですが、ホータローの古典部入部直後から1年を、順を追って描いています。


やらなくてもいいことなら、やらない。
やらなければいけないことなら手短に。

これが彼の生活信条ですが、
自らこの信条を破るハメになるのは、常に千反田えるのせい。
季節が移り変わりながら、それぞれのストーリーが語られていきますが、
通してみるとこれは、ホータローのえるに対しての思いの変化を描いているのです。
最初はなんだか"苦手"だった。
彼女の「わたし、気になります」の言葉に、
なぜか魅入られたようになってしまうことに、自分自身がイラついてしまう。
けれど、彼女を理解するに連れ、
ホータローの気持ちがもっと暖かいものに変わっていくんですね。
そこを、著者はありきたりな言葉で表現したりせず、
また、ホータローにも決定的なセリフを吐かせたりはしないのです。
でも、十分に感じられる。
そういうところが、なんだかいい。


古典部の男子、ホータローと里志は、自分の気持ちは否定しないけれど、
まだナニモノでもない自分が、そのことを口にするのはまだ早いと思っているようです。
「手作りチョコレート事件」にはそんな気持ちがしっかり描かれていました。
こういうオトコノコは好きです!


そして、圧巻なのは表題作でありラストでもある「遠まわりする雛」。
地元の祭事で、えるが十二単をまとい、生き雛となって町を練り歩くのです。
急な人手不足で彼女に傘をさしかけて、ついて歩くことになったホータロー。
いやはや、なんとも見物ですね。
お化粧をして、十二単で伏し目がちに歩むえるを見た時、ホータローは思うのです。


これは良くないな、と。
こういう装いは良くない。
しまった。
たぶん、なんとしても、俺はここに来るべきではなかった。



そんなことを言いながら、彼は役目柄えるの後ろ姿しか見えないことに苛立ったりもするのです。
いやあ・・・やりますね。


・・・さて、皆さん、ここまで読むとこの本は恋愛小説なのかと思うかも知れませんが、
そうではなくて、これはれっきとしたミステリです。
ちゃんとそれぞれの短編の中に謎とその答えがあるのですけれど・・・、
私はすっかり恋愛小説として読んでしまいました!!
一番ラストに二人で、進路の話をするシーンがあるのですが、
ここもなかなか良いですよ。
省エネ少年もちゃんと青春してますねえ。


それから、今作には温泉につかって湯あたりで目を回すホータロー、
などというシーンもありまして・・・。
いつもしらけムードのホータローの、
結構意外な部分を垣間見る今作、トクマルのおススメ。
けれどやはり第一作目から読むべきです。


さて、幸いなことに第五弾もすでに出ていますので、そちらもぜひ読まなければ・・・。


「遠まわりする雛」米澤穂信 角川文庫
満足度★★★★★

007/消されたライセンス

2012年06月01日 | 007
ライセンス返上。復讐を誓うボンド

                   * * * * * * * * * 

ティモシー・ダルトンの007二作目ですね。
CIAである友人フェリックス・ライターの結婚式に出席するため、フロリダを訪れたボンド。
冒頭では二人で協力し、麻薬王の逮捕を果たします。
結婚式には空からパラシュートで式場に舞い降りる二人。
なかなか派手なオープニングだよね。
そう。だけどこれが、このあとの大変な事件の発端となるわけだ。


その麻薬王サンチェスが脱走。
こいつがかなり残虐で、粘着質。
彼を捉えたフェリックスに報復を図るんです。
フェリックスはサメに足を食いちぎられるし、新妻は殺されてしまう・・・。
そこでボンドは、友人のかたきを打つべく立ち上がる!!
でも英国情報部は、それを許しません。
さっさと帰国して勤務につくように、と。
しかしボンドは、殺しのライセンスも返上。
全く一個人として、麻薬王の巨大組織に挑む!!


かなりシリアスで残虐なシーンも多いという、ロジャー・ムーア版とは異なるテイストとなってますね。
仕事ではなく、個人的な復讐というところは結構気に入ったな。
組織の力を借りない、というのは結構きついことなんだよね。
だけど、彼のスタンドプレイが、長年サンチェスの組織に潜伏捜査をしてきた他の組織の邪魔となってしまうというあたりも皮肉で、
ボンドとしても悩むところだ。
でも、彼は鋼鉄の意志で、やりぬく!
組織の金を奪い、その資金も麻薬も焼きつくす、凄まじい執念。
麻薬撲滅という一貫したテーマがあるし、クールなボンドがここまで自らの感情で動くというのも悪くない。
私は、気に入ったね!
だけど実は今作、世界興行成績ではシリーズ始めてベスト5入りせず、
シリーズの見直しを迫られることとなった要因の作だそうで・・・。
だから、このあとのシリーズ再開は6年後なんだよ。
ええ~。信じられないな。
私はロジャー・ムーア版ですっかり匙を投げる寸前だったのに、
ティモシー・ダルトン版、う~ん、というよりジョン・グレン版というべきかな、
それでまた興味を盛り返したのに。
当時は、シリアスより毎度おなじみの軽いノリの007を求めていたのかしらね~。



あ、でも007ならではのお楽しみもちゃんとあったんだよ。
孤軍奮闘するボンドを見かねた“Q”がアメリカまで手助けに来るというあたりもよかったし、
二人のボンドガール、果たして最後にボンドが選ぶのはどちらかという興味もある。
陸・空・海を駆け巡るボンド。
いや、ほんとに面白かったけどなあ・・・。

そうそう、サンチェスの用心棒役、なんだか見たことがあると思ったら・・・
ベニチオ・デル・トロだ~!
ベニチオ・デル・トロといえば今こそしぶーいイメージだけれど、
この若きデル・トロはカッコイイですよ~。
カッコイイのでつい目が行って、よく見たら、なんと!・・・っていう感じだもんね。
はい。でもここではボンドの敵役なんで、非業の死を遂げます・・・。
デル・トロ下積み時代の掘り出し物でした。

興行成績と、作品の出来はあんまり関係ない、ということがよく分かる作品でした。


消されたライセンス (デジタルリマスター・バージョン) [DVD]
ティモシー・ダルトン
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


「007/消されたライセンス」
1989年/イギリス/133分
監督:ジョン・グレン
出演:ティモシー・ダルトン、キャリー・ローウェル、ロバート・ダビ、タリサ・ソト、ベニチオ・デル・トロ