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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ヘヴン」 川上未映子

2012年06月18日 | 本(その他)
私たちは“受け入れて”いる 

ヘヴン (講談社文庫)
川上 未映子
講談社


                     * * * * * * * * * 

ずしりと重いこの一作。
軽々しくは語れない気がして、しばらく寝かせてありました。
14歳、同級生からのいじめに耐える"僕"。
ある時、同じくいじめを受けているコジマから手紙を受けるのです。
手紙のやり取りを通して、二人は密かに友情を育んでいくのですが・・・。


この少女コジマの精神構造がユニークといいますか、
ある種宗教めいているのです。

「私たちはただ従っているわけじゃないんだよ。
受け入れてるのよ。
自分たちの目のまえでいったいなにが起こっているのか、
それをきちんと理解して、わたしたちはそれを受け入れてるんだよ。
強いか弱いかで言ったら、それはむしろ強さがないとできないことなんだよ」

「君のその方法だけが、いまの状況のなかで唯一の正しい、正しい方法だと思うの」



"僕"の方法というのはつまり、
ひたすらいじめや暴力に耐え、親にも教師にも頼らないという、そのことを指しているのです。
そしてその正しさの"しるし"が、
"僕"の斜視であり、自分の汚れてよれた制服であると、彼女は言います。

そうなんだろうか。
それはどうにもならない現実を、無理やり自分に納得させるための理屈にすぎないような気もする。


"僕"は、コジマの理論を全面的に理解し納得したわけではないのですが、
彼女の孤独で強い魂に心惹かれていくのです。


さて一方、いじめる側の理論にも凄まじいものがあります。
いつもいじめを繰り出す同級生の中で、
決して自分では手を出さず、ただ冷めた目で見ているだけの百瀬。
彼には、ひとかけらもいじめの罪悪感がありません。

「べつに君じゃなくたって全然いいんだよ。
誰でもいいの。
たまたまそこに君がいて、
たまたま僕たちのムードみたいなのがあって、
たまたまそれが一致したってだけのことでしかないんだから」

「たまたまっていうのは、単純に言って、この世界の仕組みだからだよ」



この彼の理論によれば、コジマの言う"しるし"には
なんの意味もないことになってしまいます。


両極端の論の中で、"僕"は自分なりに答えを出していく、
そんな物語なのだと思います。

でもそのために必要なのは、やはり家族だった。
家族という言い方がしっくりこなければ、
しっかり自分によりそって、理解しようとしてくれる人。


コジマの論は確かに強いのかも知れないけれど、
闇に向かっていく危うさがある。
彼女の孤独を救い上げられなかったのは残念なのですが・・・。


人の尊厳も何もかも踏みにじるいじめシーンに、戦慄を覚えながら、
どうかこんなことが、どこの学校からもなくなってほしい・・・と、祈ってしまいました。


「ヘヴン」川上未映子 講談社文庫
満足度★★★★☆