読み進むのがどんどん辛くなっていく
あのころはフリードリヒがいた (岩波少年文庫 (520)) | |
上田 真而子,岩淵 慶造 | |
岩波書店 |
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ヒトラー政権下のドイツ。
人々はしだいに反ユダヤの嵐にまきこまれてゆく…。
その時代に生き、そして命をおとしたひとりのユダヤ人少年フリードリヒの悲劇の日々を、
ドイツ少年の目から描く。
77年刊の新版。
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一応児童文学ということなのですが、
私が受講している「大人のための児童文化講座」の「戦争・核をテーマとした児童文学」の関係で読みました。
しかしこれを子供に読ませるのはためらってしまうくらい、
大人こそ読むべき本でした。
いえ、実際大人の私も、読み進むのが辛くて仕方ありませんでしたが・・・。
語り手の少年は、同じアパートに住むユダヤ人のフリードリヒと大の仲良し。
ちょうど少年の父が失業し、フリードリヒの父親は公務員だったので比較的金銭的にはゆとりがあり、
少年の家を援助するようなことすらもあったりしたのです。
ヒトラーの独裁政権の始まる前までは・・・。
ドイツ国内では反ユダヤの動きがじわじわと大きくなっていきます。
本作はそんなドイツの社会のリアルな動向を
少年とフリードリヒの関係を描きながら映し出していきます。
そしてこれは全くのフィクションではなく、著者自身の体験をもとにしているのです。
つまりはこの語り手の少年こそが、著者なんですね。
巻末にはナチス政権とユダヤ人の関係を表す克明な年表も添えられており、
どんなふうに、じわじわとユダヤ人の「生きる権利」が剥奪されていったのかがよくわかります。
財産、職業、住居、教育・・・周到に一つ一つ具体的な法律でユダヤ人を追い詰めていく・・・。
そもそもヒトラーが独断で法を作る制度が出来上がっていたのです。
こんな社会を容認していた時代というのも、恐ろしい・・・。
さて、講義の受け売りですが、戦争文学とはすなわち反戦文学であり、
大事な要素は2つ。
一つは「事実の伝承」。
そしてもう一つは「極限状況における人間のあり方が描写されていること。」
特に、人の強さと弱さが対等に扱われていること。
本作は、事実の伝承はもちろんですが、人の弱さについても痛いくらいに描写されているのです。
というのもフリードリヒの友人である少年は、
もともとユダヤ人差別意識などは持っていなかった。
でも世の中がどんどんユダヤ人を迫害する方向へ変化していくと、
自分も変わらざるを得なかったのです。
しまいにはユダヤ人をかばうと罪になってしまうような時代、
フリードリヒと親しくすることも自分の身の危険を伴うことになる。
ユダヤ人差別など間違っている、それはわかっていても
世間に同調せずにはいられない弱さ・・・。
ハッピーエンドにはなりえないテーマで、実際、言葉をなくしてしまうラスト。
でも確かに、子供に限らず大人にも一度は触れていただきたい物語だと思います。
「あのころはフリードリヒがいた」ハンス・ペーター・リヒター 岩波少年文庫
満足度★★★★★
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