映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「心淋し川」西條奈加

2021年04月14日 | 本(その他)

心の淀みも、いつか流れ出す

 

 

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【第164回 直木賞受賞作】
「誰の心にも淀みはある。でも、それが人ってもんでね」
江戸、千駄木町の一角は心町(うらまち)と呼ばれ、
そこには「心淋し川(うらさびしがわ)」と呼ばれる小さく淀んだ川が流れていた。
川のどん詰まりには古びた長屋が建ち並び、
そこに暮らす人々もまた、人生という川の流れに行き詰まり、もがいていた。
青物卸の大隅屋六兵衛は、一つの長屋に不美人な妾を四人も囲っている。
その一人、一番年嵩で先行きに不安を覚えていたおりきは、
六兵衛が持ち込んだ張方をながめているうち、
悪戯心から小刀で仏像を彫りだして……(「閨仏」)。
ほか全六話。
生きる喜びと生きる哀しみが織りなす、著者渾身の時代小説。

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西條奈加さんの、直木賞受賞作。
図書館予約では何年先に順番が回ってくるかわからない、
と諦めていましたが、友人が貸してくれました!

 

本作の題名は、「心淋し川」と書いて、「うらさびしがわ」と読むのですね。
「心」は人のうらがわに当たるので、「うら」とも読む、と。
実はこのことはついこの間読んだ「エミリの小さな包丁」の中に出てきていたのです。
「浦」の字も「うらがわ」のことなので、
時に「こころ」と同じ意味をなすこともあるとか・・・。
余談でした。

 

さて、いかにも風情のありそうなこの川の名前なのですが、
実は濁り、淀みきったドブ川。
夏などはイヤなにおいを発し、ボウフラもわくという・・・。
本作はそんな川沿いの長屋に住む人々を描いた連作短編集です。

 

お年頃のちほは、見習い絵師の元吉に心を寄せるけれど・・・

六兵衛旦那が4人の妾を住まわせている家で、いちばん年かさのりきは・・・

小さな飯屋を営む与吾蔵には、昔捨てた女がいて、その女に子どもがいることを知る・・・


男女、親子、兄弟姉妹、同僚・・・
様々な人物関係は、昔も今も変わりはないのでしょう。

川と同じように、人の心にも淀みはある。
そんな淀みを鮮やかに描き出して、
そして本作ではそんなそれぞれの淀みがわずかに流れ出します。

ここの長屋のお世話役、差配の茂十は、
長屋の住人たちを何かと気遣い、時にはお節介もやきます。
それぞれのストーリーの中にもどこかに必ず顔を出す、存在感のある人物なのですが、
最終話で、この茂十自身のことが語られるという、ステキな構成になっています。
武家の家の出である茂十が、こんなどん詰まりの町にやって来て、
長く差配を務めている理由。

 

西條奈加さんとしては、はじけるところを抑え気味。
それでしっとりと大人の味わいのある作品に仕上がっています。
直木賞も納得。

 

「心淋し川」西條奈加 集英社

満足度★★★★★

 



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