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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「長いお別れ」中島京子

2017年09月25日 | 本(その他)
10年をかけたお別れ・・・

長いお別れ
中島 京子
文藝春秋


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帰り道は忘れても、難読漢字はすらすらわかる。
妻の名前を言えなくても、顔を見れば、安心しきった顔をする―。
認知症の父と家族のあたたかくて、切ない十年の日々。

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「長いお別れ」、ロング・グッドバイ。
少しずつ記憶をなくして、ゆっくりゆっくり遠ざかっていくので、
アメリカでは認知症のことをそう呼ぶのだそうです。
ですからこの本は「認知症」にまつわる物語で、
レイモンド・チャンドラーとは関係がありません。


長年教員を務め、中学の校長で退職、
その後図書館長を務めたこともある昇平。
しかし今はすべての仕事を引退。
娘3人はそれぞれ家を出て、妻とのんびり過ごしています。
が、しかし、アルツハイマー型認知症を発症。
本作はそんな昇平と彼を取り巻く家族たちの物語です。


始めは、昇平が2年に一度行われる高校の同窓会にたどり着けなかった、
というところで、異変が察知されます。
それから、本当にゆっくりゆっくり症状が進んでいって10年。
初めの方は結構ユーモラスです。
チョコレートの包装紙をきっちり整えてとっておいてみたり、
昔、将棋大会で取った4位の賞状を何度も自慢してみたり。
会話もトンチンカンだけれど、どこか噛み合っていなくもない。
私、この奥様・曜子さんには感心してしまうのです。
夫が次第にこのようにわけがわからなくなっていくことにも、
しっかり受け止めて包み込むような・・・。
長女は結婚し夫の都合でアメリカ在住。
三女は未婚だけれど仕事が忙しくてなかなか実家には寄り付かない。
ということで比較的近くに住む次女が一番頼りにはなる。
けれどもほとんど一人で夫の介護を引き受けているというのが実態です。
でも彼女はそれを当たり前ととらえ、ほとんど生きがいのように感じている。
夫への敬愛は変わらない。
う~ん、私にも万が一の時はそんな風にできるかな? 
とても自信がありません。


昇平の少しずつ物事がわからなくなっていくディテールがリアルです。
そしてケア・マネージャーと相談しながら
介護の状態を考えて行くこと、施設のこと、医療のこと・・・、
私も親のことでそれらを経験しているので、そのリアルさはよくわかります。
ふだんはよくわからないことながら、
実際に家族がそんなふうになってはじめてその実態がわかります。
そんな現代の老人事情がしっかり描かれています。
そしてその上、ジタバタする家族たちの奮闘が、
それぞれの家族の心情に寄り添いながらユーモアを交えて語られます。


親の将来、そして自分の将来を見つめ直してみるのにも
良い作品かも・・・。

「長いお別れ」中島京子 文藝春秋
満足度★★★★☆
<図書館蔵書にて>