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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ねにもつタイプ」 岸本佐知子

2010年03月26日 | 本(エッセイ)
偉大なる夢想

           * * * * * * * *

ねにもつタイプ (ちくま文庫)
岸本 佐知子
筑摩書房

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ええと、この著者は・・・。翻訳家なんですね。
でも、それには惜しいというべきでしょう。
すばらしいイマジネーションといいますか、空想、夢想がふくらみまして、
ものすごいストーリーに発展します。
翻訳よりもむしろ、自分でストーリーを紡ぎ出す、小説家になるべきなのでは?
と思ってしまいました。


この本の裏表紙の紹介文。

「・・・・読んでも一ミクロンの役にも立たず、教養の一切増えないこと請け合いです。」

おやまあ、なんとひどい言いよう・・・。
でも、ちょっと言えてるんですよね。
ではありますが、
世の中には無用の用というものがある。
皆様、どうぞ心を広く自由に持って、この壮大な夢想を楽しみましょう。

どれもみじかい話ですが、この楽しさをこれ以上かいつまんではお伝えできないので
・・・たとえばこんな一文はどうでしょう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「桃」より
昔むかしあるところにお爺さんとお婆さんがおりました。
お爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川へ選択に行きました。
お婆さんが川に行くと、大きな桃がドンブラコッコスッコッッコ、と流れてきましたが、
お婆さんは
①桃を拾う、
②桃を拾わない、
のうち②を選択したので、桃はそのまま流れていってしまいました。   
おしまい
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ここの下りがいくつもいくつも、ちょっと違うバージョンで並んでいるのです。
つい、笑ってしまいます。

そして、この本を読み進むうちに、この著者の夢想のパターンが見えてきます。
すなわち、
翻訳の仕事に行き詰まってニッチもサッチも行かなくなってきたときに、
彼女は仕事とは全く関係のない夢想を繰り広げてしまうらしいのですね。
明らかな逃避行動なのですが、
我が身にも思い当たります。
片付けなければならない仕事、
やらなければならない勉強、
それが目の前にあればあるほど、どうでもいいことが逆にしたくなってしまうんですよねえ。
あるいはどうでもいいことを頭の中に思い描いてしまう。

そうしてできあがった、実に偉大な成果がこの本なのであります。
この本のおかげでどれだけ著者の貴重な仕事時間がつぶれたことでしょう・・・。
私たちはありがたく読むべきですね・・・!!


それと、この本の表紙を見て、あっと思ったのですが、
このイラストはクラフト・エヴィング商会ですね。
この上なきコラボレーション。
満足満足。

満足度★★★★★