母が苦しむ過去の恐ろしい記憶。この記憶とはいったい何なのか。また、連続して起こる猟奇的な子供の殺人事件の秘密は・・・。
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「最後の記憶」 綾辻行人 角川文庫
脳の病のため、記憶がどんどん失われていく母。
新しい記憶、印象の薄い記憶から損なわれていき、強い記憶が残されるというその病。
母は、子供の頃恐ろしい事件に巻き込まれたことがあったらしく、その極度の恐怖だけが、最後の記憶として残り、日々、彼女をおののかせている。
この病が遺伝性のものであるという可能性に恐怖しながら、母の昔の事件をたどろうとする息子、森吾。
綾辻行人は、『館』シリーズ等で本格ミステリ作家として活躍し、時にはホラー作品も手がける、と、そんなイメージでしょうか。この作品を『本格ミステリ』と期待して読むとちょっとショックがあるかもしれません。
「本格」は、どんな不思議な状況も、理屈で解き明かされなければならない。
けれど、この作品には、ファンタジー的異世界が登場し、これまでの本格ミステリのくくりから言えば反則なのかも知れません。
私も、その辺で、ちょっとこれはどうなのか・・・と、思わないでもありませんが、そこを見通して、この本の解説者千野帽子氏は次のように言っています。
『本を<ファイルに入れるように整理しながら読んでいる人>は、一冊一冊の本よりも特定のいくつかのパターンやジャンルが好きで、具体的にこういう体験がほしいと、小説に求めるものが最初から決まっている。
本より、ファイルの方が大事だから、つねに自分の中に蓄積された基準に頼って、「本格ミステリとして」、「SFとして」、「ホラーとして」、・・・・しか小説を読むことができない。
・・・・・そんなものが読書だとしたら、ずいぶんとご苦労な消化試合だと言えないでしょうか。』
こう言われてしまっては、ぐうの音も出ないではありませんか。
確かに、物語の世界は、自由自在。
ジャンルにとらわれて、楽しみが半減なんてことになるよりは、作者の自由な想像に身を任せて、楽しんでしまうほうが得策です。
で、「本格ミステリ」にはこだわらないことにしますが、でも、結局、最後にいくつかの謎が収束するあたりは、やっぱり綾辻氏の持ち味ということでしょうね。
このストーリー中の「異世界」は、幻想的で何か郷愁を誘うところがあって、ちょっと憧れてしまう部分もあるのですが、隠されたその世界の秘密、それがいやに残酷なので、その辺が逆に残念なんですね・・・。
どこかに、本当にそんな永遠の子供の幸せの国があればいいのに、と。
満足度 ★★★