朱蒙(チュモン)が見た日本古代史(仮題)

「朱蒙」「風の国」「善徳女王」・・・韓国発歴史ドラマを題材に日本史を見つめ直す

キム・ユシンと伽耶

2010年01月19日 | 善徳女王
ドラマ「善徳女王」第12話の終盤で、キム・ソヒョンに矢を放ち殺害を計画した梨花征徒(イファジョンド)の郎徒(ナンド)、ファジョンがこのように語る場面がある。

「本来、テガヤの子孫ながら、シルラに取り入り、卑怯にも生き延びたキム・ムリョク(金武力)、そして、キム・ソヒョン(金舒玄)一族に恨みをもっていました。」

ここで「テガヤ」というのは大伽耶のことである。一般には伽耶(カヤ)と言った方がとおりが良いと思うが、3世紀から6世紀中にかけて朝鮮半島南部に存在した国家(もしくは小国家群)のことを言う。 (かつて日本の教科書では「任那」という言葉が使われていたが、現在は教科書でも「伽耶」と表記されることが多いのでは?)

高句麗・百済・新羅の三国の歴史の影に隠れがちだが、伽耶はロケーション的にも日本と関係が深く、特に鉄器の生産・開発に優れていた。 ただし、伽耶諸国とも呼ばれるように最後までまとまりに欠け、最終的には新羅に併合されることになるのだが、このときの新羅王が「善徳女王」第1話で登場したチヌン大帝(真興王)なわけだ。

一方で新羅に投降した金官国(伽耶の中心)最後の仇衡王の息子がキム・ムリョク(金武力)であり、そのまた息子がキム・ソヒョン(金舒玄、ペグクじゃないぞ)、そしてまた息子がキム・ユシンということになる。だから、キム・ユシンは世が世なら王になってもおかしくないエリート中のエリートなわけだ、本来は。

しかし、生き延びたとはいえ併合された側の立場は惨めである。(ドラマの中とはいえ)キム・ユシンに少々卑屈な面が見られるのはそういうことであり、そういった背景を知ればドラマもますます面白くなるわけである。

伽耶の中心であった駕洛国は金官伽耶と呼ばれることもあるが、ここで言う「」はgoldのことではなく、金属とか金物が意味するようにmetalのことであり、当時metalといえばこれはもうしかないのである。金官伽耶とは「鉄の都、伽耶」というような意味であるらしい。キム・ユシン一族の「金」姓もそれが由来なのであって、現在でも朝鮮半島でキムを名乗る人は名家の出身ということになるのかもしれない。(韓国の前大統領は金大中であるし、北朝鮮の独裁者といえば金正日だ。ちなみにトンマンこと善徳女王の名前も金徳曼なのである)

ところで、伽耶諸国の中にはそのほかにも多数の小国があったわけだが、その中に多羅という国があった。この多羅国に関する実に興味深い話があるのだが、それはまた次回。