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【ザ・ライト -エクソシストの真実- (2011)】

2011年05月12日 | 映画



オカルトの名作『エクソシスト』を知らずして本作を鑑賞する人はいるのだろうか。「アンソニー・ホプキンスの新作だから」、「クリスチャンだから」まあそのような理由で観に行く人も稀にはいるのだろう。しかしほとんどの人は「首が回って緑のヘドを吐く」あの映画を念頭に置きながら観賞しにくるに違いない。

ところが本作にはそんな人たちの期待するようなエゲツナイ描写は少ない。肌に「HELP ME」の文字も浮かばなければベッドの上に浮いたりもしない。単に「スゴい形相で悪態をつく」ぐらいだからオカルトホラーを期待して観ると肩透かしを食らう。まあクギは吐き出したりするけどしょせんその程度。

ホラー好きなボクなので通常であればそんな肩透されちゃってる側にいてもおかしくないのだけど、この映画は興味深く拝見することができた。



特にこれといった信仰を持たず一般的日本人として育った自分にとっては、キリスト教圏で作られた映画ってのは観ていて厳しい時がある。神(キリスト)がいる、もしくは信仰があることが物語の前提とされることが多いため、理屈では分かっても腹の底からは理解ができない。ある意味置いてけぼりで寂しい想いをする。

ましてや本作は“悪魔祓い”の映画。神以上に悪魔をどう捉えるかなんてのは突拍子もない話。前述の『エクソシスト』のように完全なるオカルトホラーに仕立ててくれれば、それは見せ物として楽しく見られるのだけど、そうでない場合、映画を観るときの自分の立ち位置が分からない。

信仰のある人達において神(キリスト)はいるっていう前提なのはまあ良いとして、悪魔がいることは自明のことなのか、それともただの迷信に過ぎないのか?そのへんの塩梅がイマイチ分からない。神がいない状況、神から離れてしまった心の状態を仮に悪魔と呼んでいるのか? ホンネと建前で使い分けるものなのか、単なる方便なのか? それは信仰の深さによって変わるものなのか、原理主義の人たちはどのように考えているのか?一般的な人々のレベルはどのへんにあるのか、神に仕える人たちとはどの程度意識の乖離があるのか。



さてそこで本作が面白いのは主人公自身が神への信仰を持ちきれていないこと。マイケルは神学校に通いながらも神父になるほどの信仰を持てず悩んでいる。ひょんなことからバチカンのエクソシスト候補生となってしまうが、悪魔なんて本当にいるのかどうかはわからないし、教室で写真やら見せられても「ほんとかよ」的な気持ちで信じらない。ましてや悪魔祓いを目前で見せられてもそれは精神疾患だと言ってはばからない。

たぶん本作の主人公が現代文明の中で生きる一般的価値観を持ったキリスト教区の人々だと思うのが妥当なのだろう。まあ私のような無信仰の人間が見ても同じ目線で理解できるところから話を進めてくれるのが大変面白い。

彼らのような常識/良識のある人々が"神"や"悪魔"をどう捉えているのかについて非常によく分かる。神を信じたい気持ちを持ちながらも同時にそれに反抗する心。実家が葬儀屋であるという少し特殊な出自から現実主義の目線を人一倍持ってしまう主人公。神なんかで救われないという虚無的な想いと神に救われたいという憧れ的な想いが複雑に交錯し、目の前で起こる現実とのその想いとの葛藤に苦悶する。そのような彼が徐々にながら神に仕える者に成長していく心理が微細に描写され、人間ドラマとしてとても興味深く観ることができた。



最終的に映画はオカルトチックな悪魔祓い描写をクライマックスとして、マイケルは神への信頼を取り戻しエクソシストとして生きていくことになる。しかし作品としては結局悪魔や神はいるのかどうかなんてことはどうでもよくて「神がいる」ということを念頭に置き人生の指針とすることで、より良い人間として生きていこうというごく当たり前の信仰の形を見せられた気がする。



神を無用に賛美したり、ましてや「首が回って緑のヘドを吐く(何度も言いますw)」ような娯楽作ではないので、残念ながら興行的には失敗かなぁとは思う。事実に基づいているらしいが「based on true story」なのか「Inspired by a True Story」は分からないけど、青年の成長物語として非常に面白い作品。



あとはアンソニー・ホプキンス様の演技はさすが。ルトガー・ハウアーなんか使うのなら、ぜひ二人の直接対決が観たかったw

地味なヒロイン、アリシー・ブラガは最近お気に入りだったので拾い物。



■『ザ・ライト -エクソシストの真実-』予告編(Youtube)

評価:★★★☆☆


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