タヌキの食性は主に関東地方で行われ、果実を主体として夏には昆虫が増え、冬には哺乳類や鳥類がやや多くなるという傾向がわかってきた。ただ、タヌキは生息地も産地から海岸、農耕地から都市にまで及ぶため、場所ごとの変異が大きいため、その全体像を把握するためには各地での分析例を増やす必要がある。これまで関東地方以外では東北地方、中部地方などで少数例があるだけで、西日本では全体に分析例が乏しい。これまでのところ九州と四国で少数の分析例があるに過ぎない。私は愛媛県の稲葉正和氏の協力を得て、佐多岬のタヌキの糞分析をしたことがある(こちら)。ここでは冬にミカンが食べられるのが特徴的だった。また高知県の各地の交通事故死体のタヌキの胃内容物を分析したこともある(こちら)。
今回、稲葉氏から連絡があり、松山市郊外で確実にタヌキのフンが得られるので採取したという連絡があったので、分析することにした。
方法
松山市の位置は四国の西側で、調査地は松山市の南側で平地が山に接する辺りである。西側には住宅地があるが、東側は農耕地で里山的環境といえる。
松山市の位置と調査地(赤丸)と周辺の状態
これまでと同じく、フンを0.5 mm間隔のフルイ上で水洗し、残滓をポイント枠法で分析した。採集期間は2022年の5月から2023年の4月までである。
結果
糞組成の月変化を示したのが次のグラフである。
松山市郊外のタヌキの糞組成の月変化
5月の組成は多様で、果実(21.7%)、葉(15.6%)、昆虫(14.5%)、人工物(14.0%)がやや多かった。作物はコメ(米)で5.3%であった。人工物は厚いゴムの破片であった。
2022年5月の検出物。格子間隔は5 mm
6月になると果実が32.1%に増え、昆虫が6.0%に減った。種子ではキイチゴ属、マタタビ属などが検出された。マタタビ属、私はサルナシだと思ったのだが、稲葉氏によればサルナシは山地にしかなく、キウイフルーツであろうということであった。作物はやはりコメとキウイフルーツで10.2%であった。1例だがカタツムリの殻と「フタ」が検出された。人工物はゴム手袋であった。
このように、地方都市郊外のタヌキらしく、作物(コメ)や人工物(ゴム手袋)なども含む多様な食性を示しているようである。
2022年6月の検出物。格子間隔は5 mm
7月は果実と種子がさらに増加し、果実は51.6%、種子は16.5%になった。作物はコメとキウイフルーツで6.2%であった。種子ではエノキとクワが多く、センダンも検出された。多くの場所では夏に昆虫が増えるが、ここではむしろ少なくなってわずか2.4%に過ぎなかった。太い羽軸が検出され、大きめの骨もあったことから、ニワトリが食べられた可能性がある。ただし、羽毛部分は見られていない。作物は主にコメで6.2%であった。厚いゴム片と輪ゴムが検出されたが、量的には少なく0.7%に過ぎなかった。
2022年7月の検出物。格子間隔は5 mm
8月にも果実は重要で44.0%を占め、種子は9.7%で7月よりはやや少なくなった。種子ではクワ、エノキが多かったが、ギンナン、センダン、ムクノキも検出された。昆虫は11.0%に増え、作物も12.3%に増えた。作物はコメが主体で一部キウイフルーツもあった。8月も太い羽軸が検出された。人工物としてはアルミホイルと輪ゴムが検出された。
2022年8月の検出物。格子間隔は5 mm
9月になると昆虫が35.4%で最も多いカテゴリーになった。このうち10.5%は卵であった。果実は24.3%で大幅に減少した。種子のほとんどはクワで、作物、人工物はほとんど見られなくなった。9月に果実が減少した意味は不明だが、作物や人工物をほとんど食べていないことから、食物が乏しいのではなく、昆虫が得やすくなったため、そちらを主に食べるようになったためと思われる。
2022年9月の検出物。格子間隔は5 mm
10月には大きな変化が認められた。一つは作物(主にコメ)が大幅に増えて26.6%になったことである。これにはカキノキの種子も含む。またゴマの種子も10.6%出現し、頻度も高かった。したがって、作物が38.0%に上った。果実も増えたが、39.4%であり、8月の44.0%には及ばない。昆虫が9月の35.4%から4.1%に大幅に減ったことも大きな変化だった。人工物としては糸が検出された。タヌキの食物環境としてはコメやゴマがみのり、カキノキも結実したことで昆虫や野生植物の果実をあまり食べなくて良くなったと思われる。
2022年10月の検出物。格子間隔は5 mm
11月になると果実がさらに増え、52.6%に達した。作物ではゴマ(こちら)が増え、カキノキの果実は減った。そのほかの成分は少なく、昆虫は1.0%に過ぎなかった。人工物はゴム製品が検出されたが、1.8%に過ぎなかった。
2022年11月の検出物。格子間隔は5 mm
12月の糞組成は10月と似ていた。果実は53.3%で10月の52.6%と同レベルであった。作物ではゴマ(こちら)がさらに増えて28.0%となり、カキノキの果実は減った。そのほかの成分は少なく、昆虫は1.6%、人工物(ゴム製品)は1.4%に過ぎなかった。
ごまを取り上げると、9月から出現しはじめて10月以降急増し、12月には糞の内容がほとんどゴマばかりのようなものさえあった。
ゴマの占有率(%)
2022年12月の検出物。格子間隔は5 mm
2023年1月になると少し変化が見られた。果実がほぼ半量を占めるのはこれまでと同様であったが、種子と作物は大幅に減少し、人工物が増えた。作物の減少はゴマが少なくなったことにある。人工物はゴム片であった。
ゴマの占有率の推移
2023年1月の検出物
2月になると果実が減少、昆虫が増加したほか、人工物が8%ほど出た。カメが食べられていたのは突起するに値する。
3月は果実が増えて、昆虫が減ったが、基本的に2月と似通った蘇生であった。