旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

時計泥棒と悪人たち

2023-08-26 18:14:00 | 図書館はどこですか

 


今回お借りしたのは、「時計泥棒と悪人たち/夕木春央著」です。別の本を
借りるために図書館に立ち寄った際、新刊本コーナーでたまたま目についた
のです。「夕木さんは、『方舟』の作者だったよなあ…」くらいの軽いノリで
手に取りました。こういう本が出ていることすら知りませんでした。

その方舟は、地元の図書館では依然順番待ちが数珠つなぎ、人気が衰えて
いない様子です。ところがこの前、北海道は上士幌町の図書館で、新入荷本
コーナーにポツンと置かれているのに気がつきました。人口比に応じて
競争率は変わりうるでしょうが、タイミングもありますよねえ。この本読む
ためだけに、上士幌町まで行ってみれば…と、勧めることはできません。

時計~は500ページを超える分厚さで、7編の中短編がオムニバス形式で
並んでいて、過去出版された作品を新たに寄せ集めた新編集版かと思いきや、
書き下ろされた完全新作のようです。舞台は大正時代、銀行家から転じた
元泥棒がホームズ役となり、友人の画家をワトソン博士に従え、各エピソード
をゆるく一連関連付けながらも、独立したそれぞれの事件に挑む構成です。

一部グロテスクな内容を含んでいる割には、主演二人の飄々とした語り口が
そうさせるのか、物語は全般淡々と進行し、事態が風雲急を告げているのに
緊迫感や悲壮感はあまりなく、これが夕木さんの持ち味なのでしょうか、
方舟でも同じような印象を受けた覚えがあります。その一方で、探偵役の
推理は切れ味鋭く、難事件を事も無げに解決する手腕が鮮やかです。多少
描写が複雑で、説明過多すぎて、すぐには場面設定が浮かんで来ずに、
こちらの理解が追いつかないきらいはあれど、なかなか凝った手口の犯行
にもかかわらず、あっさりと事件を解きほぐしてしまうのは痛快です。

明治~大正~昭和初期のレトロなムード漂う時代は、令和を生きる我々には
逆に新鮮味があるのでしょう、アニメの世界でもたびたび取り上げられ舞台
となり、「アンデッドガール・マーダーファルス」「わたしの幸せな結婚」
「るろうに剣心」などが現在も放映中です(似かよった架空の時代設定を含む)。
この小説も、同じような空気、雰囲気をまとっているし、携帯電話、防犯カメラ、
その他科学捜査の類がほとんどない世界、探偵の実力が遺憾なく発揮される
展開に魅力を感じます。「古き良き時代」とまでは言い切れないにせよ、
今よりは多くの人々が、明日を信じて前向きでいられたのかもしれません。


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