活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

青い実を食べた -さと子の場合- (後編)

2008-06-30 00:07:50 | 舞台の海
2008年6月15日(日) 午後2時開演 大阪ビジネスパーク円形ホールにて


今回の作品を観終えた後、前作とどう変わったのかを改めて考えてみた。

一番感じたことは、焦燥感、かな。

その解説を行う前に、この物語を知らない方もいると思うので、
以下に概要をまとめよう。

主人公さと子は80歳。
幼児退行しており、自分のことを10歳だと思っている。
さと子を介護するヘルパー達は、さと子の気持ちに沿うカウンセリングを
しながらも、なんとか彼女に現実世界に戻っていてもらいたいと、
今日も悪戦苦闘している。
そうした、ヘルパー達による過去の追体験を受けることで、
やがて80歳の自分を受け入れることが出来たさと子は、
今日の先の明日に向かって歩き出すことを始めた…。


話は基本的に、20余年前の初演時と変わっていない。
ただ、役者の入れ替わりが多少あることと、もっとも大きなことは、
主人公さと子の娘とよ子が10歳で亡くなったという事実が作品中で
明示されたことである。

これらの変更が作品にもたらした影響なのだろうか?
冒頭で述べた焦燥感というキーワードは、同じ台詞、同じ動きを
しているのに、今回の方がより切羽詰った感覚を、終始一貫して
受けたためのものである。

こうした印象を持つこととなった要因としては、

 ① 演出が、前回の一堂令から芹川藍となったことによるもの。
   ⇒つまりは、芹川演出により、そうしたテイストが付加された
    と考えるもの。

 ② さと子の幼児退行の原因(少なくともそう推察されるもの)
   として、娘とよ子が10歳で亡くなったという事象が物語りに
   加わったことによるもの。
   ⇒前作では、そうした理由は一切明かされなかった。
    今回、この筋立てが加わったことで、幼児退行がより切ない、
    遣り切れないものとなったということはある。

 ③ 演じる役者の個性によるもの。
   ⇒前作は、伊澤磨紀さんが、今回は森本恵美さんが、それぞれ
    主役を演じている。
    今回、伊澤さんは、10歳の"娘"とよ子として、空襲の最中に
    機銃掃射を受けて、さと子の眼前で死亡する。
    この入れ子構造は興味をそそる。
    が、子供を演じさせたら日本一(と、僕は思っている)伊澤さんが、
    幼児退行した主人公を演じていた前作のシーンでは、本当に純粋に
    楽しい空気が醸し出されていた。
    今回は、①や②の関係もあるだろうが、同じシーンの中にも、
    どこか余裕の無い、張り詰めた感覚の残滓が残っている気がして
    いた。
    そのことの是非はともかくとして、青い鳥の芝居の真骨頂である
    心から笑え、心から泣けるという魂のメトロノームをMAXに
    振り切らせてくれる感覚が、この作品では少しロストされた感が
    あった。

といった点が、挙げられる。

 人により、好みが出るところだが、僕にとっては、やはり前作に軍配を
上げてしまう。

 それは、先ほども述べた心の振幅の問題もあるが、何より②の変更点に
その理由がある。
 
 再述となるが、前作ではとよ子が現実を受け入れられない理由は、一切
明らかにされていなかった。

 それが故、とよ子の幼児退行は、見るものすべてに誰にでも起こりうる
こと、モット言えば、本当は誰でも幸せだったあの頃に戻りたいのでは
ないの?という質問の刃を突きつけていたような気がする。

 勿論、その場に足踏みしても、現実は何も変わらないから、如何に
そこが居心地が良くても、やがては自分の足で歩き出さないといけないと、
皆分かっているのだけれど。

 今回の公演のパンフレットで、スタッフの長井さんが、②の組み込みに
より、テーマがより普遍的なものとなった、と語られていたが、僕にとっては
逆の印象を受けた次第である。

 勿論、どうした切り口からどう解釈していくかは、個々人それぞれであり、
僕の感覚ではそうした印象を受けた、というだけで、それを他の方に押し付ける
気は毛頭無い。

 ただ、単に伊澤さんのファンだから(笑)という理由だけではなく、一応
僕なりの思いがあって、前作の方が良かったのでは、と考えたことを整理して
みたく、この稿を起こした次第である。


 今回、改めてこの作品と向き合うことが出来た。 
 20余年前の舞台全てが煌く様な感覚は、残念ながら僕の中に再臨はしな
かったが、これからも青い鳥を追いかけていくことはしたい。

 僕にとっての幸せはどこなのだ?と探しながら。

(この稿、了)

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