活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

一文無しが贋札造って捕まって

2009-04-28 04:01:18 | 活字の海(仕込み編)
著者:坂野 昭彦 幻冬舎刊 ¥ 1,470


本書、読むことはおろか、書評すら未読である。
新聞の広告で、その存在を知っただけなのだが、その強烈な標題の
インパクトに、思わず取り上げてしまった。


贋札造りは、勿論犯罪である。

通貨や貨幣の流通量が、政府のコントロールを逸脱するということは、
経済の根幹を揺るがす問題であるがゆえに、贋札造りはどこの国でも
重罪として処分される。

ただ、れっきとした犯罪ではあるが、どれだけ精巧な偽札を作ることが
出来るかは、一種のコンゲームのような様相もあり、通常の犯罪とは
少し毛色が異なる側面を持っている。


例えば、偽札造りには、二つのアプローチがある。

一つは、機械をだますためのもの。
自動販売機や両替機等の機械による紙幣認識には、紙幣の特定の
パターンや磁気インクの場所等によるものが多く、それゆえに
人間の目や手触りとは全く異なる角度と精度によるものが多い。

そのため、見た目は紙幣には全く見えないようなものでも、
使用可能となるレベルとなる可能性はある。



もう一つは、人間をだますためのもの。
人の感覚器官は相当に優秀であることは、論を待たない。
偽札等も、手触りその他の微細な違いを検知し、アラームを
発することが出来る。
しかも、そうした違和感をより確認しやすいように、より細密に、
よりカラフルにと進化を続ける紙幣デザインに対して、それと
同等のものと作り上げることは至難の技と言える。
それに敢えて挑戦することが、このパターンである。


繰り返すが、どちらも犯罪であることは間違いない。

だが、その壁が乗り越えられないほど困難であればあるほど、
そこをクリアしたときのカタルシスも、また大きいのも事実である。

しかも、それが偽札造りという、成功してしまえば(=偽札と
誰にも気が付かれなければ)、被害者が出ない特殊な犯罪であれば…。

この辺りを実に上手く描いたのが、真保祐一の「奪取」である。

冒頭では、最初の簡易なパターンの偽札造りから始まって、主人公は
徐々にその目標を高めていき、最後は究極の偽札(それはもう真札を
造る、といえる行為ですらある)造りに挑戦していく。

いつものごとく、真保裕一の取材は緻密であり、その膨大な情報量を
実に上手く消化して、作品中に無理なく組み込んでいく手腕は見事
である。

本書を読んでいると、自分でも偽札が造れそうになるような錯覚すら
してくるから、不思議だ(笑)。

主人公が、まるで毛虫が蛹を経て蝶になるように、物語の進行に
合わせて名前が変わっていくところも、面白い。

最初は、感情移入しにくいかと思ったが、正に杞憂だった。

逆に言えば、そうしたことも含めて、この物語のテイストの一部と
することに真保祐一は成功しており、そのこと一つを取ってみても、
彼が当代一流のストーリーテラーであることを証明していると言える。


アニメに目を転じてみると、偽札造りと言えば、やはり「ルパン三世
カリオストロの城」が、あまりにも有名だろう。

こちらは、個人ではなく国家による偽札造り。

『! 面白くなってきやがった!』
『今は、これが精一杯』
『人を排泄物扱いしやがって! フンだ!』
『ルパンを追っていて、大変なものを見つけてしまった。どうしよう?』
『どこまで行くのかな?ク~ラ~リ~ス~(いやらしい笑い)』(笑)
『やつは大変なものを盗んでいきました。あなたの心です』

う~ん。
もう何年も観ていないけれど、台詞やシーンが次々に脳裏にフラッシュ
バックしてくる。

銭方のとっつぁんの、味のある?芝居がたまらなく面白かったなぁ。

故山田康夫ルパンのファンにとっては、聖典とも言える作品ではないだ
ろうか?


そして、本書である。

標題からして、意表をつく。
一文無しが贋札を造るとなれば、当然先の分類パターンでは、最初の
機械をだまくらかす方しか無理である。

人間をだませる程の偽札造りは、はんぱでない費用と手間がかかるの
だから。

でも、新聞広告を見ている限りでは、後者のパターンのような気も
する。

うーん。どんな作品なんだろう?
読んでみたい…。

いまだ、AMAZONにもその他にも、一切書評すら上がらないから
内容をこれ以上知ることは出来ない。

流石に、中も見ずに買っていると、家の書庫が溢れかえるのは必定
なので、近いうちに大き目の書店でも行って、中身を確認してみよう。

という備忘録代わりの、このコラム。

無事に確認でき、かつ気に入って購入し、読了した暁には、またその
書評をUPしたい。

(この稿、了)




一文無しが贋札造って捕まって
坂野 昭彦
幻冬舎

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真保 裕一
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3 コメント

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Unknown (シャドー81)
2009-04-28 20:57:53
ついにここまできたか。

書評から元本の書評を書くこと自体半分暴挙と思っているが、「本書、読むことはおろか、書評すら未読である」って、ここまで来るとかえって、痛快である。

想像書評家から、創造書評家の域に達した、MOLTA氏に、拍手である。
返信する
ははは (MOLTA)
2009-04-29 14:00:17
何も出ませんよ。舌くらいしか。

タイトルが妙に残っていたので、その残滓があるうちに、と思って一気に書きました。
広告もチラ見しかしていないから、結局この本にはあまり触れられていません。
これではいかんですね。
反省のコラムでした。
返信する
Unknown (シャドー81)
2009-04-29 19:49:12
チラ見だけで、そこまで想像出来るなんて。それじゃー、街中で、きれいな人をチラ見したら妄想激しくてしかたないのでは?

じゃー、お題をだしておくか。
「ムカデ競争」
いつか、想像、妄想を働かして、ブログを書いてくれることを期待しよう。
返信する

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