活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

『骨の城』

2008-03-10 23:40:37 | 活字の海(仕込み編)
アーロン・エルキンズ著 早川文庫 嵯峨静江訳 2008年 820円+税

今月は、うれしい悲鳴なのである。
スコット・スミスに続いて、スケルトン探偵シリーズの新刊も出版されたのである。

このシリーズ、前々作の『骨の島』から、同じ早川書房の中でも、ハヤカワ・
ミステリアス・プレスから、ハヤカワ文庫HMシリーズに鞍替えした。
#というか、ミステリアス・プレスは廃刊となり、ハヤカワ文庫に集約されたらしい。

僕としては、ミステリアス・プレスの装丁が好きだったんだけどなあ。
今のハヤカワ文庫になってから、なんかリアルな骨という雰囲気になって、
それはそれでスケルトン探偵なんだし悪くないだけど、あまりに直球過ぎる
感じもして、ミステリアス・プレスの作品にインスパイアされた風景を使う
方が、好みなのである。

ちなみに、折り返しのカバー・デザインを見てみると、ミステリアス・プレスの
頃は、スタジオ・ギヴ(但し、ネットで検索すると、スタジオ・ギブが正しい
ようである)が、舞台となった国の観光局に写真を提供してもらった上で
デザインしているが、現在はハヤカワ・デザインが担当しているようである。

 #ちなみに、このスタジオ・ギブ。大阪は南堀江にある会社らしい。   
  ご近所さんだとは知らなかった…

ここまで来て、なんか見覚えの無い名前の訳者も気になってきた。
今更ながらだが、『古い骨』を本棚から取り出し、確認すると…
青木久恵訳とある。
そう。この方は見覚えがあったのだが?と、ここで気になり、エルキンズの
作品の訳者と装丁者を確認してみることにする。

 作品名  原題    発行年   訳者   装丁

スケルトン探偵シリーズ
『古い骨』OLD BONES  1989年 青木久恵 スタジオ・ギヴ
『呪い!』CURSES!  1990年 青木久恵 スタジオ・ギヴ
『暗い森』THE DARK PLACE  1991年 青木久恵 スタジオ・ギヴ
『断崖の骨』MURDER IN TNR QUEEN ARMES 1992年 青木久恵 スタジオ・ギヴ
『氷の眠り』ICY CLUTCHES 1993年 青木久恵 スタジオ・ギヴ
『遺骨』MAKE NO BONES   1994年 青木久恵 スタジオ・ギヴ
『死者の心臓』DEAD MEN'S HEARTS 1996年 青木久恵 スタジオ・ギヴ
『楽園の骨』TWENTY BLUE DEVILS 1997年 青木久恵 スタジオ・ギヴ
『洞窟の骨』SKELETON DANCE 2000年 青木久恵 スタジオ・ギヴ
ここからハヤカワ文庫
『骨の島』Good Vlood  2005年 青木久恵 ハヤカワ・デザイン
『水底の骨』Where There's a Will 2007年 嵯峨静江 ハヤカワ・デザイン
『骨の城』Unnatural Selection  2008年 嵯峨静江 ハヤカワ・デザイン

ノーグレン・シリーズ
『偽りの名画』A Deceptive Clarity 1991年 秋津知子 和田誠
『一瞬の光』A GLANCING LIGHT 1993年 秋津知子 スタジオ・ギヴ
『画商の罠』OLD CORES 1995年 秋津知子 スタジオ・ギヴ

という結果となり、迂闊なことに前作から訳者が変わっていたことに、
気がついていなかったことが判明。
自分の注意力の欠如を再認識させられてしまった。
#しかしこうしてみると、日本語タイトルって結構原題から自由なんだなぁ。
 まあ映画もそうだけど。


さて、このスケルトン探偵シリーズであるが…。

最初にこのシリーズと出会ったのは、まだ学生時代の仲間とワイワイやってた頃だ。
当時の部活の先輩を中心に「推理の会」なるものを作り、誰かが課題作品を
設定。何ページまで読んでよいとの情報を周知する。
指定されたページまで読んだ後は、先を読み進めたい衝動を意志の力で抑えつつ
犯人を推理しておく。
会合において、誰が犯人で、その理由はなんだ!というものを各人メモに書いて
提出。それを皆で開封しあってそれぞれの推理を評価しながら、誰の推理が
正しかったのかを最後に出題者に教えてもらう、という集まりを時たまやっており、
それに僕が参加した第1回が、このシリーズの第1作『古い骨』だったと思う。

犯人が当たったかどうかはもう覚えていないが、とても楽しい会だった。

そんな思い入れのあるシリーズだけに、いきおい読む方も毎回期待してしまう
のだが、幸いにして今までその期待が悪い意味で裏切られたことはない。

スケルトン探偵とはなんぞや?という方のために、簡単に触れておくと…

主人公ギデオン・オリヴァーは人類学の教授。専門は骨。といっても、
ご本人がお気に入りなのは、肉も腱も見事に干からび、残っていない
古の骨なのだが、なぜかこの教授、行く先々で殺人事件に巻き込まれ、
好きでもない生々しい(しくない場合もあるが)骨を鑑定し、
法医学的見地から性別や病歴、年齢、死因、その他ありとあらゆる
情報を引き出していくというのが、主な骨子

いつも、僕は乾いた骨がいいのに…とぶつくさ言いながらも、しっかり
鑑定してあっと驚く帰結を導き出すその辣腕振りは、日本の警視庁に
100名ばかりクローンを配属したい程である。
#ちなみに、日本の警察は頑張ってくれていると思っている。だからこの表現は、
 ギデオンのような凄腕がこれだけいれば、さぞかし最前線も楽になるだろうなぁ
 という趣旨である。

このシリーズのよいところは、骨からの謎解きだけに物語の背骨を任せる
のではなく、そこから副次的に話が広がっていく点である。

おかげで、半ばで鑑定が終わり、ひとしきりギデオンの薀蓄を含んだ骨談義が
終わった後も最後まで目が話せない。

殆どの場合、最後にかなり大きな仕掛けが明らかになることが多いからであるが、
それが奇を衒うことなく、実に自然に組まれているところがエルキンズの
えらいところだ。

この作品を読める楽しさからすると、いったいこの夫婦は生涯で何件の殺人
事件に巻き込まれたら気が済むのだろう?とか、FBI捜査官のジョン・ロウも
なぜいつも主人公の周りにいるのだ?という疑問も、些細なことにしか思えない。
#ちなみに、ジョン・ロウの存在は、出場機会の都度、きちんと理由は説明
 されている。

ともあれ、せっかく新刊で入手したこの作品。
古本屋に誰かが出す前に読みたいが、なかなか先約もあり、手に取れない。
じりじりとしながらも、今手に取っている本もじっくり味わって読む。
ああ、なんて贅沢な悩みだろう。

幸せ、である。


付記
『古い骨』等は、順次ハヤカワ文庫(なんかついハヤカワミステリと書きたく
なる)に再収録されていくそうだ。
それだけ本シリーズの人気が高い、ということだろう。

付記×2
本書の著者とも、登場人物のギデオンとも全く関係ないが、
『骨が語る-スケルトン探偵の報告書』鈴木隆男著 ドルフィンブックス
という本がある。
こちらは、AMAZONの古書では1円買い出来るので、興味がある方は
ぜひ読んでいただければ、と思う。
ちなみに僕は、先ほど注文してしまいました。
#もう1冊、1円で残っています(3月10日夜中時点)
#但し、送料が別途340円もかかります


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2 コメント

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スケルトン装丁 (rikisan)
2008-03-11 20:28:17
これは、コメントせざるを得ない。

あの装丁は、ものすごく紫外線に弱かった。
鮮やかな背のオレンジが、いつのまにかスケルトンになった。色落ちが激しい。
ハヤカワの本は、時々そういう焼けに弱い装丁がある。表紙は良かったけどね。
スタジオ・ギヴか、憶えておこう。

訳者がかわってるとは、気がつかなかった。
また一回最初から読んでみようかな。
返信する
うまいっ! (MOLTA)
2008-03-11 22:43:04
あのオレンジをして、スケルトン装丁とは良くぞ見破ったり~。

自分のも、見事に白っぽくなってます。

rikisanのネーミングの旨さに拍手です。
このコラムは、殆どrikisanへの釣りだったんですが、タイトルの秀逸さに当方がしてやられた感があります。はい。

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