活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

東本昌平 RIDE18

2009-05-04 23:10:37 | 活字の海(仕込み編)
モーターマガジン社刊 定価750円(税込み)
雑誌サブタイトル:バイクに乗り続けることを誇りに思う
今号タイトル:飾りものではない。疾走(はし)るものだ。


世はなべてゴールデンウィーク。

我が家もご他聞に漏れず、その仲間入り。
家族で、実家の近くの美味しいと評判の中華料理の店へ。
駐車場が無いために、車は近所の大型書店の駐車場へ。

食事が終わった後、ただ止めているのも悪いからという
理由で自分を正当化して、書店内を散策。

今朝もBOOK-OFFで注文してしまった身としては、
特に今欲しいものは無いのだが、と、それでも活字の海を
眺めているだけでも気持ちがよく、一人で書棚を彷徨う。

そこで、目に入ったのが、この雑誌。

表紙を飾るのは、一台のバイク。

フロントタイヤが断ち切られ、縦に配置されたその不安定な
構図からは、このバイクの持つスリリングな危うさが匂い立つ
ようだ。

美しく光沢を身に纏(まと)いながらも、その先鋭なフォルムは
些(いささ)かも線の細さを感じさせない。

むしろ、無骨そのものであるにも関わらず、4in1のヨシムラの
集合のラインなどは、妖艶に男を誘う娼婦のような蠱惑感を漂わせている。

今となっては、とっくに博物館的な代物であるメインフレーム
ですら、その頼りなさそうな細いラインに、確固たる意思を
秘めているように見える。

SUZUKI GSX1100S KATANA。

ハンス・ムートが率いるターゲットデザイン社がデザインした、
この日本刀をモチーフにしたというバイクが、こうして四半世紀を
過ぎても尚、人々の心を捉えて離さないのは、なぜだろう。

僕の20年以上のバイク暦の中に、カタナは無い。
思い入れ、という意味ならば、これまでに乗ってきた様々なバイク、
その一台一台に、山のようにある。

それでも、カタナは、このバイクは、どこか違う魅力を持って、
見るものを惹きつけてやまない、何かを持っている。
そんな、気がする。

もっとよく見たかった。

でも、この雑誌は、ビニールでラッピングされていて、中を見る
ことが出来ない。
気がついた時には、この雑誌を持ってレジに並んでいる僕がいた。



やっと身辺が落ち着いた、この時間。
一人、ゆっくりとページを繰る。

東本(はるもと)昌平の描くバイクは、本当に美しい。
そして、その紙面からは、エンジンの鼓動の音と振動が、リアルに
伝わってくるような印象を与える。

その癖、別に読み手にバイクの魅力を認識させようというものとは
少し異質な、もっと孤高に在り続けようとするものを感じる。


これは、バイクというものの性質を考えたときに、よく理解出来る。

そも、なぜ人はバイクに乗るのだろう。

夏は、アスファルトからの熱気とエンジンからのそれがない交ぜと
なって、乗り手を灼熱地獄に叩き込む。

冬は、文字通り刺す寒気にさいなまれながら、信号待ちの時に
グローブをした手をエンジンに直接当てることで僅かな暖気を
取ろうとする。

雨が降れば、あっという間にズブ泥の濡れ鼠となる。
埃は被り放題で、荷物も大して乗せられやしない。

そんな、バイクである。
いや、そんなバイクだからこそ、みな、バイクが好きなんだろう。

バイク乗りは、基本、みな一人だ。
走行中、誰と話を出来る訳でもない。
仮に、タンデム(二人乗り)していたって、走っている間は煩くて
話もろくに出来やしない。

では、バイク乗りは、走っている間、何をしているのだろう。

吹き向かってくる風と。
振動を伝えてくる路面と。
頭の上に広がる雲と。
すれ違う他のバイカーと。
自分自身と。
そして、何より自分の命を預けて走っている相棒(バイク)と。
ずっと、話をしているのかもしれない。

だから、バイク乗りは、一人であっても孤独ではない。

ただ、それは、馴れ合うことを是とせず、それぞれで屹立した絶峰の
頂点に立っているようなものだ。


だからこそ、バイクに乗り続ける人は皆、孤独を愛するように、
バイクを愛する。


全てのバイク乗りよ。

連帯する必要など、無い。
馴れ合うことも、不似合いだ。

ただ。
まだ走ることに、ときめきを感じる魂を有する限りは。

愛車に跨り、エンジンをかけ、ゆっくりと滑り出す。
各々が、その時間を大切にする。

そんなきっかけに、なれば。

作り手(東本昌平)と、編集人(鈴村典久)の、そんな声が
聞こえてきそうな。

そんな雑誌だった。


さて。
明日は、晴れるだろうか。
晴れてくれたら。
久しぶりに、バイクを洗ってきれいにしてやった後に、
軽く流しに行こう。

そんな幸福な気分にしてくれる。

いい、雑誌だ。

(この稿、了)


(付記)
僕が、この先カタナに乗ることがあるかどうか。
それは、分からない。

が。
この雑誌で特集されていたカタナの美しさ。
これを美しいと思う気持ちだけは、死ぬまで持っていよう。


東本昌平 RIDE18
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