活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

生存 ~Life~

2009-04-27 23:01:30 | マンガの海(読了編)
作画:かわぐちかいじ 原作:福本伸行 講談社刊


かわぐちかいじ。
「アクター」「沈黙の艦隊」で、週刊モーニングでその橋頭堡を
確固たるものにし、現在連載中の「ジパング」でも自身の信念に
のみ忠実に生きんとする男達を描いている漫画家。

福本伸行。
僕としては「カイジ」シリーズで初めて知った。独特の世界観。
いやが上にも緊張を高めまくるシチュエーション設定の上手さ。
人の弱さ、強さを描かせたら当代きっての漫画家。
「金と銀」「最強伝説 黒沢」「アカギ」その他、快作多数。
(ただ、最近の「カイジ」シリーズは、主人公の成長の無さが
 鼻につく感じがして、読むのを挫折してしまった)

この二人がタッグを組んだマンガである。
面白くない訳が無い。

ただ、この作品。
偶然にも古本屋で発見するまで、その存在を知らなかった。
福本伸行作品の登場人物風に言わせれば、「迂闊!胡乱!ダメッ。全然」
といったところである(笑)。

主人公は、ある大手企業で社長目前にまで上り詰めた初老の男。
娘は15年前に失踪。妻は、少し前に病を得て無くなっている。

そして今、自分も妻と同じ死病に蝕まれていたことを知って、
妻が感じていた本当の孤独、恐怖をようやく自らのものとして、
実は自分がそうした妻の感情と直面することから逃げていたことを
自覚したところから、物語は幕を挙げる。

そうした、自分のこれまでの人生に対する不甲斐なさ、更には、
それを取り戻すべき人生の時間がもう自分には残されていないこと
に対する双頭の絶望から、自ら死を選ぼうとする主人公の下に、
失踪していた娘の遺体が発見された、との知らせが届く。

娘にもきちんと向き合えてこなかったことを、改めて痛感した
主人公は、娘の軌跡を追う旅に出る。

そこで、男が出会ったものは…。
というのが、ストーリーの導入部である。


随所に山場を作っていく、その盛り上げ方、そしてその見せ方は、
さすが、二人の巨匠がコラボしたと思わせるものである。

やがて主人公は、娘の足取りを追う(もちろんそれは、娘の心を
追う旅でもある)中で、娘を殺した犯人に肉薄していくことになる。

果たして、犯人は誰なのか?
15年弱の時を隔て、時効を目前にして、犯人を特定し、逮捕する
ことは可能なのか?
がむしゃらに、直向(ひたむき)に真相を追い求める主人公の
行動は、やがて徐々にその波紋を広げ、協力者も増えてくる。
そして…。


ギリギリの状況設定が得意な福本伸行の面目躍如といった感のある
設定が、畳み掛けるように読者の前に繰り広げられる。

また、その重厚なストーリーとしっかり四つに組んだかわぐちかいじの
作画も見事である。

かわぐちの緻密な構成力と、何より福本には無い女性を描ける画力が、
両者の幸せなマリアージュを生み出している(笑)。

ラストの息詰まる犯人との心理戦は、見事。
また読者に開示されたどんでん返しと、最後まで明かされなかった謎が、
鮮やかに解き明かされるところ、特に、様々な伏線が見事に縒り合わされ、
ピースが小気味よい音を立てて嵌(はま)っていく様は、読み手に対して
手に汗握る緊迫感と、それに裏打ちされたカタルシスを提供してくれる。

それをもたらしたのは、正しく主人公の亡き娘を思う心の強さであり、
その怒涛の奔流は、少々のご都合主義的な展開にも異論を挟むような
気にすらさせない力強さを持って、読者を最後のページまで運び去って
しまう。



当初、標題の「生存 ~Life~」を見て、てっきり失踪した娘が生きて
いた、ということかと思っていた。

が、まずは冒頭で、それがあっさりと否定された後は、タイトルの
付け様がかすかな疑問となって心に引っかかっていたのだが、
これもラストの見開き2ページを使って、これ以上は無い程明確に、
読者に示されることとなる。


この読後感は、「刑務所のリタ・ヘイワース」S・キング著にも近しい
清涼感がある。

未読の方は、是非読まれることをお勧めする。
必ずや後悔はさせないことを、お約束しよう。

(この稿、了)


(付記)
と書いたが、僕としては、この両作家のコラボ第二段の「告白」の
方が、ダークな展開でより好みだったりする。
例えて言えば、こちらは「ゴールデンボーイ」S・キング著に近い
かな。

「刑務所のリタ・ヘイワース」と「ゴールデンボーイ」は、
いずれも『恐怖の四季 春秋編」に収録されている中篇である。

ボリュームもさほどなく、読みやすいので、是非こちらもご一読を。
僕の、もっとも好きなキング本である。








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