活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

白熱のプラズマは、彼の帰還宣言 大阪市立科学館 特別プラネタリウム その7

2010-07-11 23:05:29 | 自然の海

     (TOP画像は、(C)JAXA,大阪市立科学館。飯山学芸員撮影)

タイトル:帰ってきた「はやぶさ」
上映場所:大阪市立科学館
上映日時:平成22年6月27日(日) 午後4時~(45分間)
解説者:飯山青海学芸員(JAXAによるはやぶさ回収部隊光学撮影班員)




■白熱のプラズマは、彼からの帰還宣言

高度6万Km。
この時点では、まだ地球は遠い。

何せ、ISSの軌道高度が278~460Kmなのだから。
もしくは、月の公転半径が38万4千Km。
こちらの方が、カプセルが放出された時点の距離感をよりイメージ
しやすいだろう。

イラスト:(C)池下章裕 YAC日本宇宙少年団HPより


余談ではあるが。
本来の計画では、この月軌道相当の距離でカプセルは放出。
本体は地球を回避して他の天体の観測へと再チャレンジする
という壮大なものであった。

化学スラスタの全損により、この計画は文字通り夢と消えた
訳だが…。

もし実現出来ていれば今回よりも更に遠距離からの射出と
なる訳で、カプセルが一切自力推進できるメカニズムを
有していないことを考えると、とんでもない精度の軌道
計算が必要なことになる。

(画像提供:JAXA)


閑話休題。

はやぶさ本体とカプセルは、当然のことながら惑星間航行
速度である秒速12Kmというとんでもない速度で大気圏に
突入する。
(正確には、カプセルははやぶさから秒速10cmで射出
 されるため、その分少し早くなる)

スペースシャトルの大気圏突入速度が秒速8Kmと言われる
ため、1.5倍にも及ぶこととなる。

当然。
カプセルが耐えねばならない突入時の温度は、シャトルの
一桁上のオーダーである1万~2万度となってしまう。

(画像提供:JAXA)

飯山氏によれば。
その今回開発されたヒートシールドに課せられた条件は。
シャトルの耐熱タイルの、実に30倍の耐熱性能を具備
することというものだった。

その条件を達成するために採用された熱望後システムとは。

シャトルのように熱に耐えるのではなく、アブレータという
自らを燃焼させ、その気化熱によって表面温度の上昇を
抑制するという方式だった。

この。
発見されたヒートシールドの写真を見れば。
表面が真っ黒に炭化していることが、よく分かる。

オリジナルは美しい金の光沢だったのだから。

このシールドが、どれほどの熱にその身を晒して、
いや文字通り盾となってカプセルを守ってきたのかという
ことを、実感させる1枚である。

画像提供:JAXA


※ このヒートシールドの特徴については、chem@uさんの
  ブログに詳説
されている。

 また、スペースシャトルの耐熱パネルについては、
 こちらで詳しく説明
されている。


…と。
前振りが、長くなってしまった。

飯山氏によれば、この自ら溶融するヒートシールドのお陰で。
当初、はやぶさ本体よりもヒートシールドの方が余程明るく
輝き、尾についても長く引くものと思われていたらしい。


そのため、光学撮影班としては。

カプセルを必死にトレースしていると信じて、当初はやぶさ
本体を撮っていたんだそうな。

もっとも。
暫くすると、最も明るく輝く光球の少し前に、もう一つ小さな
光球が視認されて。

これこそがカプセルだ!となったらしいけれど…。

画像提供:NASA)
 ※ リンク先には、動画を始め、NASAの撮影した様々な
   画像とレポートがあります。

   右下に見える光点が、カプセルのもの。



そのカプセルだけれど。

今、こうして映像を観ながら話をしていれば。
こんなにも明るく。
こんなにもはっきりと視認出来ると分かるのだけれど。

突入前までは、ちゃんと捉えられるのかどうか、不安で仕方が
なかったそうだ。

そりゃそうだよね。
実際に、はやぶさが燃え尽きるまでにかかった時間は、ほんの
30秒程。

リエントリ・カプセルが、その後輝きをロストしてダークフライト
モードに突入するまでを入れるとしても、時間的な猶予は約50秒
ほどしかない訳で。

その時間内に、ちゃんと彼らを目撃し、そこにカメラを向けて。
撮影を開始しながら、最後までしっかりとトレースをする。

本当に、自分たちがこのミッションを完遂できるのだろうか?

急に雲が出てきたら、どうしよう?
見当違いの方向ばかり探して、カプセルを発見出来なかったら?


そうした不安と緊張が、恐らくは班全体を覆っていたのだろう。

それだけに。
無事、撮影が出来たときには。

 「やるだけのことは、やった!」

という充足感、達成感を存分に味わうことが出来たそうな。



なお。
撮影中に、観測員の方の声が入っているという話は昨日にも
書いたけれど。

それについても、氏は少し言及されていた。

あれは、お互いがどういうモーションに入っているかを、
一々目を向けなくとも共有出来るようにするために意識的に
行っているものです、と。


うーん。
で、あるならば。

カウントダウンや、撮影状況の話は腑に落ちるんだけれど。

一人。
 
 「はやぶさ~、おかえり~」

と叫んでいた方は、一体自分の何を周りと共有しようとした
のだろか?

やはりあれは、これまでのはやぶさに対する想いが思わず
喉を突いて出てしまったものだと、そう思いたい。


科学者が感情的になってはいけない。
そうした戒めの言葉もよく目にするけれど。

それでも、やはり。
自分が携わってきたものに対して、そうした思い入れを持つ
ことは、いいことだと思うのである。

勿論。
それで仕事が疎かになっては、何をか況やなのだけれどね。


(この稿、続く)







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