壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

蘭の香

2010年08月23日 22時17分31秒 | Weblog
          蘭の香やてふの翅に薫物す     芭 蕉
 『野ざらし紀行』に、
        「ある茶店に立ち寄りけるに、てふと云ひける女、吾(あ)が名に
         発句(ほく)せよと云ひて、白き絹出だしけるに書き付け侍る」
 とあって出ている。
 『三冊子』には、この句の成立事情が詳しく記されている。それによれば、茶店の先代の主人の妻「つる」に、西山宗因が「葛の葉のおつるのうらみ夜の霜」という句を与えたというので、それを前書にしてこの句を遣わしたものという。

 「翅」は、この句の場合「つばさ」と読む。いわゆる「羽」であるが、それを加工したものは、「赤い羽根」のように「羽根」を使う。「翅」は、昆虫の場合に使う。
 「薫物す」は、種々の香を合わせた煉香を、衣服などにたきしめることをいう。王朝時代の優雅さを感じさせる語である。

 季語は「蘭」で秋。

    「芳香を放つ蘭の花に、秋の蝶が羽を休めている。蘭の芳香が翅に
     しみてゆくそのさまは、あたかも美しい衣装に香を薫きしめている
     ような感じである。あなたはまさに、その蝶にたとえるべき人だ」


 ――天王原の“ンメー”卵が、宅急便で送られてきた。日本画のN先生の奥様からである。
 画廊めぐりには元気が必要。抗ガン剤に負けないよう、元気をつけて下さい、とのことで送って下さったのだ。毎年、N先生の個展を拝見させていただいているだけなのに、こうした温かい励まし。涙の出るほどありがたかった。
 早速、昨日購入したばかりの小鉢に卵を割り、味わいながらゴクッと飲む。思わず「ンメー」。この小鉢は、一昨年の東京芸大大学院「博士展」の際に目をつけた吉田幸子さんの作品。案内状にあった陶箱が気にいっていたので、最終日だから残っていないだろうと思いつつ出かけた。ところがどっこい、ちゃんと待っていてくれたのだ。やはり、縁のあるものは、作品の方から待っていてくれるのだ。小さいけれど、見ているだけで心安らぎ、無になれる。
 その時、同じような小鉢7点に、目が行った。一見、蕎麦猪口にぴったりと思ったが、そこが変人、毎朝食べるプレーンヨーグルトの器に使うために、一つ購入することにした。同じ作家がつくったものだが、手作りだから当然微妙に違う。凝視した結果、一点がことに心にひびいた。が、素知らぬふりをして、「どれがいいか、選んでくれませんか」と吉田さんにお願いした。吉田さんはしばらく見比べて、4点をはじき、この3点が出来がいいです」と。その中に変人の惚れ込んだ作品があった。もちろん、即、お買い上げ。
 今朝は、カップ入りのヨーグルトが残っていたのでそれを食べた。したがって、N先生の奥様から送られた天王原の生卵が、吉田さんの小鉢の使い初めと相成った次第。(吉田幸子さんについては、拙ブログの2009.1.6をご覧下さい)

 処暑とはいえ猛暑の中、元気をつけた変人、早速『岡本真枝展』(銀座「画廊宮坂」)に出かけて行った。これについては後日、記すことにする。今日の一句は、岡本さんの作品からインスピレーション得て……

      碑(いしぶみ)の歳月かたる秋の水     季 己