壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

初秋

2010年08月05日 22時45分10秒 | Weblog
        初秋や畳みながらの蚊屋の夜着     芭 蕉

 庶民の生活の一コマをうたって、それが境涯的なものをおのずとただよわせ、季節の微妙な動きを人間の生活を通して探りとっている作である。滲透型ともいうべき芭蕉の発想の特色をうかがう、好い例ということができる。

 「畳みながら」は、畳んだままの意。
 「蚊屋(かや)」は「蚊帳」に同じ。

 「初秋」が季語。「蚊屋」(夏)、「夜着(よぎ)」(冬)は、ここでは季語として働かない。「初秋」は、人の生活に寒さを及ぼす面で使われている。

    「もう初秋のこととて、用がなくなってきた蚊帳を畳んだままにしておいたが、
     夜が更けてくると、初秋の涼気が身に迫ってくる。そこで、畳んだままの蚊帳
     を夜着の代わりとしてかけて寝たことだ」


 ――「夜の秋」という季語がある。「土用に入りて北風吹き気候涼しき」ことであるというが、立秋直前のある夜、ふっと水のような涼気を感ずる。このような情趣を「夜の秋」といい、秋の夜のことではない。つまり、どことなく秋めいて感じることをいう。

     仏壇へ数珠もどす音 夜の秋     季 己