正月の床の間はいつもと違う、
お正月にふさわしい掛け軸に掛け替えます。
どのお寺も古くから伝わる、正月飾りの掛け軸を出して
本堂や床の間に飾ります。
掛け軸は文字で書かれた禅語だったり、水墨や彩色の画であったりします。
さすがに模写・トレスやコピーなどの偽物はありません。
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落款や署名までも模写すると悪意の偽物になります。
偽物を本物のように扱ったり、特別な物として
扱う商店や宗教団体がありますが、いかにもうさんくさいものです。
たとえ知名度のない方の書でも、無名の画家でも本人の真筆ならば
どこに掛けても恥とは考えませんが、偽物だと主人の品格を疑われます。
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この画は田能村竹田作の若水を汲む画です。
元旦の朝に神仏に供える最初の水を井戸からくみ取る画です。
実に正月にピッタリの画題の掛け軸です。
昔からこの掛け軸を正定寺は正月になると上間の床の間に掛けていました。
20年ほど前に、この田能村竹田の掛け軸の
真贋を知りたくて私は勝手に鑑定人に持って行ったことがあります。
まだ、草刈樵谷さんがお元気でしたので見てもらうと
「画題と同じ物がありますよ。これは偽物です。」と
一蹴されて恥ずかしい思いをしたことがあります。
模写と分かった日から二度と「若水を汲む画」をかけることはなくなりました。
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田舎の寺に田能村竹田の掛け軸があることがステータスと考えてのかも知れません。
社会的に高い地位は、偽物を飾って得られるものではないですね。
この事がきっかけで、美術品は本物に触れるように心がけるようになりました。
そのことが偽物を見抜く力にもなります。
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法要には卒塔婆というものをお墓に供えます。
この卒塔婆の字をめぐって檀家さんの中で「誰が書いているのか」が話題に
なっていると聞いた事があります。
正定寺の奥さんはお習字の先生なので、あの塔婆は奥さんが書いているに違いない
・・・
と言うものです。
全ての卒塔婆は私が書いているのですが、奥さんが書いたものだと勝手に定義付けした方々がいたようです。
(私の字でも上手に見えたのでしょう・・・!それはそれでプチ自慢)
檀家さんの中には書家さんがいます。
そんな方が見れば、私の字か女房の字かは一目見れば分かります。
女房は基本がちゃんと出来ています。
いわゆる本物の字です。
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私の字を見て女房の字だと言う檀家さんに一番憤慨したのは女房でした。
玄人の女房の字と素人の私の字さえ見極められない檀家さんがいるのが、
女房にとってはとても残念な様子でした。
塔婆の字を女房が書いていると思っている檀家さんは、
偽物と本物の区別が付かない方なので、偽物にだまされないように気を付けて下さい。
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きれいに見えるものでも偽物があります。
とても偉い宗教家に見えても偽宗教者がいます。
先ずは本物に触れることです。
たくさんの本物を見れば偽物がすぐに分かります。
偽物ばかり見ていると、偽物の人しか友達になれません。