滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

テレビで激論、「スイスに新しい原発は必要か?」

2010-11-27 15:06:27 | 政策

昨日、初雪が降りました。つい数日前までは庭のバラが最後の花を咲かせていたのが嘘のような雪景色。
ベルンは「最高」気温が-2度。天窓からしんしんと真冬の寒さが降りてきます。

さて、前回のブログにも書いたように、スイスの社会は今、「原発」をこれからどうするかについて決断する時期に来ています。その背景にある事情としては:10年後に老朽原発が廃炉になった後の電力供給の方向性、今後行なわれる原発更新に関わる住民投票や国民投票、力をつけてきた再生可能エネルギー技術の輸出産業の存在などがあります。また最近では、ロシアの放射線汚染が激しいMajakで作られた原発燃料をスイスの電力会社が購入している事実が発覚し、メディアやNGOによる電力会社のバッシングも続いています。

そういった背景の下、11月19日(金)のスイスの国営放送の夜の番組「アレーナ」では、「スイスに新しい原発は必要か?」というテーマが取り上げられました。75分に渡り名司会者レト・ブレンヴァルド氏の下、推進派と反対派が激論を交わします。

推進派代表は、大手電力AXPO社CEOのマンフレッド・トゥールマン氏。中立から推進派よりからは、エネルギー庁長官のヴァルター・シュタインマン氏。反対の立場は、再生可能エネルギー産業の経団連であるクリーンテック経財連盟理事のニック・べグリンガー氏。そしてNGOスイスエネルギー基金代表のユルグ・ブリ氏が出演しました。それぞれの後方に応援団(?)として、4人ずつの国会議員たちが着いて時々横槍を入れます。

この種の討論会は、講演会やシンポジウムで何度も見てきたので目新しいものではないのですが、「アレーナ」では双方共に、画面から火花が飛び散ってくるような激しさでした。議題は再生可能電力のポテンシャルや課題、原発の安全性と廃棄物の最終処分地の問題、そして経済性などに及び、双方の論点・弱点などが確認できて勉強になりました。

その中、4人中3人に共通する理解としてあったのが、早かれ遅かれ100%再生可能エネルギーで電力供給していかねばならないこと。そして高放射性廃棄物の処分地の問題はまだ解決していないこと。またエネルギー庁長官が、2050年までにはスイスは再生可能エネルギーで100%エネルギー供給できると発言し、原発なしでその転換を図るのは非常な努力を伴うが不可能ではない、という立場を採っていたのが興味深かったです。

推進派は、再生可能電力が安くなるまで、もう一世代原発を更新しようと言います。「安く、既存の技術であり、今すぐ安定供給を実現できる。再生可能もやってるが、原発なしでは不可能」という意見。対して、脱原発派は、「放射線汚染の面からもクリーンでないし、ゴミの問題が未解決。新設された頃には再生可能電力のが安くなっている。経済的にも再生可能な未来へ直行すべき」という意見。

この番組の狙いは、視聴者に様々な立場からの意見を聞かせ、2013~14年に行なわれる予定の原発更新に関する国民投票までの意見形成のきっかけを作ることでしょう。ちなみに、スイスで人気の大衆新聞「ブリック」の読者投票では、11月15日の時点で70%の人が「新しい原発はスイスには要らない」と投票しています。対して、エネルギー庁の長官は番組の中で原発は賛成と反対の市民が今のところ40%ずつだとコメントしており、私もそう感じます。 

こちらで番組アレーナが見られます。雰囲気だけでもどうぞ。
http://www.videoportal.sf.tv/video?id=01a01107-8a45-4196-b285-37dec62d188f

日本のテレビでも日本の原子力発電と電力供給の未来について、様々な角度からオープンかつ活発な議論を行なっていって欲しいと思いました。


短信

●フライブルグ市でシンポジウム「エネルギー自立する自治体」、2011年4月
各国政府が温暖化対策の目標を合意できないでいる現状の傍らで、ドイツやオーストリア、スイスの自治体の間では、再生可能エネルギーによるエネルギー自立の運動がダイナミックな波のように動き出し、事例も増えてきている。2011年4月7日~8日には、ドイツのフライブルグ市で専門家を対象としたシンポジウム「エネルギー自立する自治体」が開催される。自治体が自らの手で再生可能な熱と電力の生産と供給を行い、エネルギー効率を高めるための具体的かつ実際的な方法が、ドイツの政策を背景として紹介される。
サイト:
www.energieautonome-kommunen.de

 ● グローバル・エナジー・バーゼル~持続可能なインフラストラクチャーのためのファイナンシングサミット、2011年1月
2011年1月11~12日にかけてスイスのバーゼルでは、持続可能なインフラストラクチャーのための資金作りをテーマとした、グローバル・エナジー・バーゼルの国際会議が開催される。世界から政治、経済、科学、福祉、メディアからの代表者が集まる予定。このイベントを後援するのは、ニューヨーク市の市長Michael Bloomberg氏およびにC40Cities Limate Leadership Group、そしてバーゼルシュタット州知事のDr. Guy Morin氏。議題の中心は、建設と都市開発、輸送とロジスティック、再生可能エネルギーを基盤とした持続可能なエネルギーシステムと需要制御。
サイト:
http://globalenergybasel.com/

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