滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

バイエルン州レッテンバッハ、PV一人頭4.3kWの元気村

2012-09-03 07:38:06 | 再生可能エネルギー

太陽光8%+のバイエルン州の景色

今年の夏は30度前後の日が続きましたが、先週から冷たい雨と共に随分と涼しくなり、夏が終わったという感じです。

8月に、バイエルン州のアルゴイ地方からミュンヘンにかけて一週間ほど旅してきました。この春のデータではバイエルン州の電力消費量に対する太陽光発電の割合は8%に上っていましたが、ドイツ全体の成長率から考えても、現在はおそらく1割近くになっているのではないでしょうか。(8月9日時点でのバイエルン州の累積設置出力は9,255GW)

そのソーラーエネルギー景観は、スイスからの旅人にとっては圧巻でした。特に工業地帯でまとまった面積のある屋根面が半分くらい使われていました。農村部でも、村によって差がありますが、酪農家の大屋根はかなりの頻度で太陽光発電が設置されています。スイスと気候的にも、経済的にも大差ないはずなのに、買取り制度の違いから、バイエルン州は太陽光発電については10年先を行っていました。


写真:レッテンバッハ村のパノラマ

自立精神旺盛なレッテンバッハ村へ


旅の途中、ユニークなソーラー村として知られるアールゴイ地方のレッテンバッハ村(Rettenbach am Auerberg)を訪れました。標高850mの森と酪農地帯に囲まれたプレアルプス地域にある村で人口は800人。農業・林業のほか、木工、機械産業など中小規模の産業も盛んです。


写真:村の入り口には「ようこそソーラー村へ」の看板

この村の特徴は、住民の自立精神の旺盛さです。村は70年代に一度、近隣の自治体と統合されています。しかし、それが村に何のメリットももたらさなかったことに気が付いた農民は住民投票を実現。1993年に、再び自治体として独立に漕ぎつけました。その独立を感謝する記念碑として、村の小山の上には、小さな木造チャペルが建造されています。地元の木を使って村人がセルフビルドしたチャペルです(写真)。



 一人頭PV4.3kW、電力輸出地帯

レッテンバッハは、太陽光発電の設置量の多さで有名です。ドイツの自治体のソーラーエネルギーコンクールで、約2200の自治体が競い合う「ソーラーブンデスリーガ」の太陽光発電部門では、第6位になっています。村全体での設置出力は3.6MW、一人頭に換算すると4.3kW。それが全て屋根置きで設置されています。工場と農家の大屋根のほとんどが太陽光発電で覆いつくされ、一般住宅でも3~4軒に一軒くらいの割合で設置されていました。


写真:村の工場・産業地帯

 村の庁舎にパンフレットを頂きに行ったら、偶然に村長で農家のヴィリ・フィッシャーさんが出てきて、話を聞くことが出来ました。 「この村は太陽光電力の輸出地帯です」と村長。太陽光発電設備のうち、自治体に属するのは二つだけで、あとは全て住民や地域企業のもの。「隣がやって儲かってるなら、うちもやらねば損」という方式で、どんどん広まっていったといいます。設置出力は屋根面だけを使ってもまだ倍増できるそうです。また、村にはバイオガス発電を行っている農家もあります。こういった村人の発電事業から、地域に毎年かなりの額の売電収入が入ってくるようになり、その経済効果は村人の誰もが感じられるものになっている、と村長さんは話していました。




写真:村の農家のあたり前の風景。 夏の晴天日、レッテンバッハ村は3.6MWの出力全開で静かに発電していた。発電量が増えたため、村と地域の送電網をつなぐケーブルも、より容量の大きなものに取り替えられたそうだ。

熱も10年以内に自立する

レッテンバッハ村は、熱分野でも次の10年の間に100%再生可能エネルギーになることを目指しています。現在、村の中心部にある公共建築や民間建築は、木質バイオマスボイラーを熱源とした地域暖房網で熱供給されています。自治体には、数㎞離れたいくつかの集落も属しており、そこは小規模な木質バイオマス熱源のマイクロ熱供給網が敷かれています。太陽熱温水器の利用も盛んで、ソーラーブンデスリーガの温水器部門では村は第3位です。また、 熱需要の少ない新築住宅には、太陽光発電と蓄熱タンクと組み合わせた地中熱ヒートポンプの利用を促進しているそうです。


写真:村の新興住宅地。省エネ性能が高いので地域暖房ではなく太陽光&地中熱熱源を勧めている

村の手と木で作られた建物

村には(欧州の田舎では当たり前のことですが)、似たような伝統的な造りの木造建築が並んでいます。新しく建てられたという村の庁舎も、こういった民家と似たような作りです。後述する村営スーパー・カフェは、ガラス面の大きな、モダンなデザインですがやはり、やはり地域の技術を用いた木造の建物になっています。これらの建物は、地域の農家と木造工務店の手により、建築家を介さずに、村人の力で建てられたものだそうです。もちろん村の木を使って。それにより建設費用がかなり節約でき、村の中にお金が循環するからです。



写真:村長のフィッシャーさんと、村の木・手で作った村の庁舎

村の中心は村営スーパー・ショップ

村人たちの手により建てられ、運営される村営スーパー・カフェ「ヴァイヒベルガー市場」も見どころの一つです。村にあった唯一のスーパーが閉店するにあたり、村人が歩いて日常の買い物できる場所を確保するために、村が中心となって新しい、魅力的なスーパー・カフェを建設、オープンしたのです。食品・日用品の品ぞろえは人口800人地域のスーパーとは思えないほど豊富。村人に村で買い物してもらうための工夫です。実際にショップには周辺地域からも買い物に来るほど繁盛し、村の出会いの場になっています。商品は可能な限り地域の生産品を中心に扱っています。 この建物にはスーパーの他、カフェテリア、二階は村の催事ホール、地下は地域暖房センターとして使われており、スーパー職員がこれらを切り盛りしています。村の地域経済活性化のために、地域通貨「ヴァイヒベルグ・ターラー」が使われているのも印象的でした。


写真:村営スーパー・カフェと地域通貨「ヴァイヒベルグ・ターラー」

もうこのエネルギー転換の波は止められない」

村の建物もエネルギーも、消費構造も、できるだけ自分たちの手で作り、そこで得たお金を地域の中で循環させていく。もちろん優秀な中小産業が地域に立地していることの恩恵も大きいでしょうが、こういった自前精神によって村が豊になっていることは間違いありません。建物の手入れの状態の良さから、地域の生活が潤っていることが一目瞭然で分かります。村長さんは、太陽光発電の収入で村人が家の手入れに投資するようになった、と話していました。

ドイツでもスイスでもエネルギーシフトによって市場を失う既得権エネルギー産業は様々な手を講じて、シフトを先延ばししようと抵抗しています。しかし、村長フィッシャーさんは「もうエネルギーシフトの波を止めることはできない、止まらない力を得ている」と語ります。この地方の人は、エネルギーシフトのもつ地域経済への意味や可能性、うまみを知ってしまったから、それを手放さないというのです。アルゴイ地方のソーラーランドスケープの中で聞くフィッシャーさんの言葉には説得力がありました。

リンク  http://www.rettenbach-am-auerberg.de
 

ヴィデオ
http://www.youtube.com/watch?v=DUFtKLjIinM
http://www.youtube.com/watch?v=OctbJews2hc&feature=related 


ニュース

★インターラーケンのユースホステルがミネルギー・P・エコ認証
アルプスへの入り口の町インターラーケン。2012年5月に竣工したインターラーケンのユースホステルの建物は「ミネルギー・P・エコの認証」を得た。これは、スイスのとても高度な省エネ・エコ建築を認証する基準である。暖房・給湯の熱需要が最小限で、再生可能エネルギーを利用しているだけでなく、建材や構法には環境と健康に害のない、ライフサイクルエネルギーの少ないものを採用している。また熱回収式の機械換気設備が、熱損失を回避しながら、常に新鮮な空気を供給し、湿気や汚れた空気を排気する。非常に快適な室内気候を売りにするユースホステルだ。
リンク:http://www.youthhostel.ch/de/hostels/interlaken
参照:ee-News

★チューリッヒ近郊に環境アリーナがオープン
このブログでも紹介した環境アリーナが2年半の建設期間を経て8月に竣工、オープンした。環境アリーナは環境エネルギー技術の常時展示場となっており、100社40種の展示が行われている。会議・イベント施設も併設する。同プロジェクトをスポンサーの協力を得て実現したのは、建設会社社長でエネルギーパイオニアのヴァルター・シュミードさん。生ゴミからバイオガスを生産する「コンポガス」技術を商品化した人物として有名だ。アリーナの建物自体がソーラー建築になっており、建物の運営(展示を除く)に必要なエネルギーを140%自給する。また太陽熱温水器を用いて冷房・暖房を行っていく。展示の内容は「自然と生活」、「エネルギーとモビリティ」「建設と改修」「再生可能エネルギー」の4分野。誰でも訪問することができ入場料は8フラン、オープンしているのは木~日曜日の間、10時~17時。
リンク:http://www.umweltarena.ch/
参照:プレスリリース

★皮膜パネルで高層マンションのファザード改修
チューリッヒ市で、高さ60m、17階建てのマンション「Sihlwald」の改修にあたり、ファザード材として建物一体型の太陽光発電パネルが施工された。70年代の典型的なコンクリートパネル構法のマンションを省エネ改修したのは、地元の建設組合ツーリンデン。総改修では、室内の改修の他に、断熱強化や窓交換といった省エネ対策が施され、古いコンクリートファザードを4方角全てシャープ社の皮膜式太陽光発電パネルに交換した(112kW)。発電収穫量は、南向きのパネルが少ないこと、周辺建築物や樹木の日陰などで、通常の南向きパネルの収穫量よりも劣る。ただし、建材としては従来のファザード材よりも太陽光発電パネルの方が安価であり、手入れも要らず、寿命が長い。そのような総合的な判断から太陽光発電が採用された。
出典:Photon 9/2012, ee-News
ウェブカムリンク:http://www.vcast.ch/webcams/sihlweid/


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