滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

2010年度スイスソーラー大賞は、プラスエネルギー建築目白押し

2010-10-10 16:22:40 | 建築
朝から霧がかかって、昼間も霧が晴れない日が続きます。
庭のダリアがまだ元気に咲いていても、初霜の降りる日はそう遠くはないと感じます。

私は来週から講演会のために日本に帰国します。
帰国前の最後のブログ更新は、9月に発表された2010年度スイスソーラー大賞を授賞した建物たちについてです。

プラスエネルギー建築部門で3住宅、ノーマン・フォスター・ソーラーアワード部門で3建築。計6棟のプラスエネルギー建築が、今年度のソーラー大賞を授賞しています。 いづれも、ミネルギー・Pレベルの断熱・気密性能を持つ躯体と、高効率な家電や照明、再生可能な熱源の設備に、太陽光発電を組み合わせています。それにより消費するよりも多くのエネルギー量を生産する家たちです。この消費量には、暖房・給湯だけでなく、コンピュータや家電や調理、照明など全てのエネルギー消費が含まれます。

まず、プラスエネルギー建築部門での授賞作品の中から二軒を紹介します。表彰ではプラスエネルギー度が%で示されているのが面白い点です。

改修:ヴァドゥッツ市の戸建てO邸、182%
築57年の労働者住宅を省エネ改修。外壁には27センチの断熱強化、窓は三層断熱窓と交換。これまでの総エネルギー消費量(暖房・給湯・電気)を86%減らし、7000kWhに下げた。そして屋根材として使っている太陽光発電パネルが年12700kWhを生産する。プラスエネルギー度は182%。
ごく普通のどこにでもある住宅のシンプルな省エネ改修により、高度なプラスエネルギー度を達成していることが評価された。
写真はこちらの建築家のサイトで見られます。

http://www.lenum.com/plusenergie/index.htm



新築:フォーデムヴァルド村の戸立てB邸、164%
新築のミネルギー・P建築で、外壁の断熱材は33~43㎝。屋根材として使われている出力14kWの太陽光発電パネルが12550kWhを生産。暖房・給湯はヒートポンプで行なっており、これが年3050kWhを消費している。余剰分の年4890kWhを売電。プラスエネルギー度は164%である。 スイスのプラスエネルギー建築には、太陽光発電+ヒートポンプ暖房という組み合わせが多い。


Quelle: Minergie
®

対して、英国の著名な建築家ノーマン・フォスター氏の名を頂いたノーマン・フォスター・ソーラーアワードのうち、興味を持ったのが下記の2件です。

新築:ベンナウ村の集合住宅「発電所B」、110%
ミネルギー・P・エコ基準で建てられた7世帯の入る集合住宅。外壁の断熱材の厚さは44cm。一年の総エネルギー消費量は62000kWh。南側のファザード材として146㎡の太陽熱温水パネル、屋根材として32kWの太陽光発電パネルを用いる。余剰分の太陽熱のうち10000kWhは隣接する建物に供給、太陽光電力のうち7000kWhは売電する。プラスエネルギー度は110%である。
 

Quelle: Minergie
®

改修:グリュッシュ村のツュスト社オフィス、112%
住宅設備設計事務所ツュスト社のオフィスは、築100年の納屋をオフィス建築に改修したもの。改修後の断熱性能はミネルギー・P基準を達成する。屋根材としては出力22kWの太陽光発電パネルを利用し、17830kWhを生産。さらに5㎡の太陽熱温水器で3200kWhの温水を生産。総生産量は21030kWh。需要量は18683kWhである。同社の社員数は昨年倍増して15人。それでも112%のプラスエネルギー度を達成しているのは見事である。


Quelle: Minergie
®

どの授賞作品も、屋根材一体型の太陽光発電パネルの収まりが綺麗です。
また授賞建築の中で4軒は一戸建てでした。これは住人数に対する屋根面積が大きいためプラスエネルギーを達成しやすいためだと思います。中には巨大な一戸建てもあり、プラスエネルギーを達成している自然建材の家でも、これはエコロジーと言えるのかな?と疑問を持つ家もありました。
そういう意味で、小さなオフィス建築や集合住宅でプラスエネルギーを達成している上記の二軒は、高く評価されるべき例だと思いました。

2010年度スイスソーラー大賞のパンフレットを下記からダウンロードできます。
他部門で授賞した建築作品の写真も見られます。

http://www.solaragentur.ch/dokumente/G-10-08-18_Solarpreispublikation_kleinsteDatengroesse.pdf?PHPSESSID=d0b7030eca94689d08306a676b19ee57



それでは、11月にスイスに戻りましたら、またご報告しますので、時々覗いて見てくださいね!



短信

● 来年からスイス産、圧縮空気車の製造開始
スイスのCatecar㈱は、来年3月よりレコンビリエ村で圧縮空気車の製造を開始することを発表した。一年以内に月150台の生産を目指す。第一号のモデルは、「Airpod」と呼ばれるミニカー。重量250kgで、都市部での移動や輸送の市場を狙う。走行距離は200km、最大時速は70km、価格は約100万円程度。この車は、フランスのMDI社が開発した圧縮空気モーターを用いて、圧縮した空気を動力として動く。圧縮空気は電力で作られるため、圧縮空気が一種のバッテリーとなっている。自動車メーカを持たないスイスだが、同社の空気自動車が、本当に生産に漕ぎ着けられるのか、今後注目したい。
http://www.catecar.ch

 ●再生可能エネルギーはドイツのジョブモーター
ドイツの環境省の新しい調査によると、ドイツでは昨年、再生可能エネルギー源からの電力・熱・燃料の生産分野で、34万人分の雇用があった。これは2004年の数の二倍であり、これまでの予想を大きく上回るという。太陽光発電の分野では2009年度6.47万人、太陽熱温水気の分野では1.59万人、バイオマス分野で12.84万人、風力分野では10万人が働く。調査では、控えめなシナリオでも2030年までに、ドイツの再生可能エネルギー分野での雇用は50万人に上ると予測されている。

www.bmu.de


 ●ヨーロッパ最高峰の風車パーク
アルプスの標高2332mのギュッチュには、8年前よりヨーロッパ最高峰の風車が運転されている。先週、これに2基の風車が追加され、小さいながらヨーロッパ最高峰の風車パークとなった。風車には、突風が吹く厳寒地域に適したEnercon社のE-44というタイプが選ばれた。高さは55m、風車の半径は44m、出力は各900kWだ。運転するのは地元の電力会社Ursern電力。三基合わせると、年325万kWhを発電し、1部はチューリッヒ市の市営エネルギー会社などに売電される。この地域では、今後も、近くの山地に2基の風車建設が計画されている。スイスでは、フィードインタリフにより今年度の風力の発電量が倍増、72GWh(2万世帯分)を生産する。

www.ew-ursern.ch



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