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心が許す物語とは

2017年10月27日 | 読書
 ボクシングの村田諒太がタイトル奪取し「泣いてません」と強がったのは格好よかったなあ。真摯さが伝わってきた。振り返りたくもないが、常勝を冠された某球団のペナントレースの酷かった思い出として、ヒーローインタビューでの涙がある。あんな程度で涙を見せてプロと言えるか。今頃になって怒りが出てきた。


(UGO 2017.10.26①)

2017読了107
 『もらい泣き』(冲方 丁  集英社文庫)


 この文庫は裏表紙にこう記されている。「稀代のストーリーテラーが実話を元に創作した、33話の『泣ける』ショートストーリー集」。雑誌にエッセイ風に連載された作品が中心に組まれた。齢相応に涙腺も緩くになっているし、ぐっときた話もあったが、本物の「もらい泣き」までには至らなかったのが正直な感想。


 しかし作者は文庫あとがきに、こんなふうに書く。「本書でつづられた小さな物語たちは、必ずしも感情に訴えて強引に揺さぶろうとはしていません」。言うなれば演出を控えたということ。娯楽、エンタメなのに…と作者は逡巡したようだ。そしてそのねらいをこう書く。「やんわりと目に見えぬところで持続する物語」


 「あまり刺激的ではないからこそ、物語が入り込むことを心が許すのです。」と続ける。なんとなくわかる気がした。実人生においても、確かに強烈な思い出として残っている出来事もあるが、あの時の何気ない一言、さりげなく見せられた表情…そうした記憶がいつまでも離れず、よみがえってくることは少なくない。


 作者はその訳を「良心」と表したことにも納得した。さて肝心の33の物語は、やはりホットウォーミングストーリーと言っていい。秋の夜長には最適かもしれない。個人的に心から離れないのは『心臓の音』。亡くなった母親の箪笥から出てきた古いカセットテープには「保存」と書かれ…ほら、もらい泣きしそうでしょ。