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本当に好きなことは…

2017年10月29日 | 読書
 何かが好きであることと、それを職業にすることは、全く別問題だ。憧れる仕事があったとしても、たいてい人はその一部分しか見ていない。そんな当然のことをはっきりと理解するためには、やはり一回やってみるしかない。実際にやってみると「本当に好き」の「正体」がだんだんとわかってくるのではないか。


(UGO 2017.10.26③)

2017読了108
 『ぼくは本屋のおじさん』(早川義夫  ちくま文庫)



 ミュージシャンの早川義夫が22年間やった本屋の仕事や日常について、あれこれ書いている。結局のところ「こんなはずでは…」といった繰り言が多く、つまり本や本屋は好きだが、その仕事のあれこれは大変だという口説きであり、内容がなんだかつまらなくて、途中でかなり流し読み状態になってしまったのだが…。


 抜群に面白い章が一つあって惹きこまれた。『凄い客』と題されたO氏という50代の常連のこと。昼からお酒の臭いをさせてやってくるO氏の行動は破天荒で、対応する著者の心理が揺さぶられる。「酒とたばこの臭いをプンプンさせながら、雨の日も風の日も、毎日、やってくる姿は、美しくないけれど、美しくもあった。


 オーディオマニアがいるように確かに「本マニア」もいて(本の内容より活字、装幀等に喰いつく)O氏もその一人のようであった。正体が不明なまま、著者との諍いのようなことも書かれている。要は「人との関係が、ぶきっちょ」同士のやりとりなのだが、本質だけを言い合っても結局うまく重なり合わないものだ。


 最後の最後に、著者の思いが一気に表出された文章に出会い嬉しくなった。「いいものは、うるさくない。月や太陽のように黙っている。もう二度と会えぬ人たちも黙っている。耳を澄ませば聴こえてくるかも知れないけれど、考えてみれば、僕たちの心やたましいは、いつだって黙っている。」本当に好きな正体は、それだ。