企業会計基準委員会による国際会計基準審議会との「東京合意」を受け、「国際会計基準がやってくる!」と“黒船来襲”のように取り沙汰されている国際会計基準とは、「国際財務報告基準」を指してのことのようです。
国際財務報告基準が導入されれば、会計処理が大幅な変更となることから、情報システム部門も他人事ではなくなります。今のうちから研究に努め、会計システム及び関連システムの大幅な変更を行わなければならない、来るべき日に備えておきたいものです。
国際財務報告基準(IFRS、イファース)は、EU諸国をはじめカナダ、オーストラリア、インド、中国、韓国など100以上の国において採用が表明されています。
近年の国際的な会計基準の統一化の流れの中で、わが国の会計基準は2011年を目標にして国際財務報告基準(IFRS)との差異を徐々になくすコンバージェンスを進めており、既に様々な変革が施行されています。
・2008年度:リース会計、棚卸資産評価基準の改正、J-SOX法適用
・2009年度:工事進行基準
・2010年度:資産除去債務の適用、セグメント情報の見直し
わが国の企業会計基準委員会は、2007年8月8日、国際会計基準審議会(IASB)と会計基準の全面共通化を合意し、2011年6月末までに国際財務報告基準との違いを解消すると正式発表しました。いわゆる「東京合意」です。共通化に際し、
・2008年度までに収斂を目指す短期プロジェクトと
・2011年6月末までの長期プロジェクト
に工程を分けて会計基準の差異解消を進めることとしています。経団連は、日本も世界的な流れを勘案しつつ、IFRSの採用を含む今後のわが国会計基準のあり方の検討を加速し、具体的なロードマップを早急に作成すべきであると、2008年10月に意見書を出しています。
2009年2月4日、パブリックコメントを受付け、実施に向けた検討を進めるために、企業会計審議会企画調整部会から「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)(案)」が公表されました。
2012年には、わが国の上場企業にIFRSの適用を強制するかどうかが決定される予定になっており、時期は流動的ですが、2015年には強制適用となることがほぼ見込まれています。
IFRSの導入は、決算で使っている会計基準が変わるだけではありません。導入のインパクトは、財務数値や財務報告プロセスはもちろん、内部統制、情報システム、税務、財務、キャッシュマネジメント、経理部門組織など広範に及びます。したがって、導入に際しては自社の状況に応じた導入計画を策定し、着実にその計画を進める必要があります。
IFRSは上場企業が対象ですが、非上場企業であってもその連結子会社は、内部統制と同様に、親会社のIFRS導入対応策に巻き込まれると覚悟しなければなりません。
国際財務報告基準では、資産負債アプローチをその特徴とし、損益計算書を廃止し業績報告書を導入する予定となっています。
資産負債アプローチとは、一会計期間における企業の富(企業価値)の増加の測定値を利益と捉える会計観を言います。純粋な資産負債アプローチによれば、資産と負債の差額として利益を算出するため、貸借対照表の純資産増加額(資本取引を除く)と損益計算書の利益が一致するというクリーン・サープラス関係が保たれます。
日本の会計基準においては、資産負債の増減のみならず投資のリスクから解放されることが収益費用を認識する要件となる為、その他有価証券評価差額金・繰延ヘッジ損益・土地再評価差額金・為替換算調整勘定等が損益計算書を経由せずに貸借対照表の純資産の部に直入されます。そのためクリーン・サープラス関係(連携利益観)ではなくダーティ・サープラス関係(非連携利益観)であるといわれています。
<<現行のわが国の会計基準との主な違い>>
条文主義の会計基準を基礎とした日本と違い国際財務報告基準はイギリスの原理原則主義を基礎としています。原則に沿う限り、各社で会計方針や会計処理が異なることも許されます。
現状におけるわが国の会計基準との違いを例示すると、以下のようになります。
・持分プーリング法は、日本では一定の場合に適用されるが、IFRSでは禁止
・のれんは、日本では20年以内の均等償却であるが、IFRSでは非償却
・負ののれんは、日本では20年以内の均等償却であるが、IFRSでは利益計上
・開発費は、日本では発生時費用処理であるが、IFRSでは資産計上
・たな卸資産の後入先出法や最終仕入原価法は、IFRSでは禁止
・たな卸資産の低価法評価損は、日本では洗替法と切り放し法の選択だが、IFRSでは洗替法
・投資不動産は、日本では原価法で時価の注記は不要だが、IFRSでは原価法と時価法の選択で原価法の場合には時価の注記が必要
・償還義務のある優先株式は、日本では資本だが、IFRSでは負債計上
・実質支配の要素は、日本では一定の議決権比率を満たした場合に考慮されるが、IFRSではそれだけで支配となる
・工事収益について、日本では完成基準と進行基準の選択性だが、IFRSでは進行基準
・外貨建ののれんは、日本では取得時レートで換算されるが、IFRSでは期末レートで換算される
・金融商品の公正時価の注記は、日本では有価証券とデリバティブに限られるが、IFRSではすべての金融商品
・子会社等の取得や売却を、日本ではみなし取得日やみなし売却日で処理できるが、IFRSでは明文規定がない
・社債発行費等、金融負債の発行費用は、日本では原則として発生時に費用処理だが、IFRSでは調達期間にわたり費用配分する
・有給休暇引当金は、日本では存在しないが、IFRSでは計上が求められる
・退職給付債務の割引率は、日本では一定期間の平均利率に基づいて決めることができるが、IFRSでは認められない
・固定資産の解体撤去費や原状回復費等の資産除却負債は、日本基準では取得当初に見積計上しないが、IFRSでは見積計上する
・ファイナンス・リースについて、日本ではリース料総額300万円未満の所有権移転外ファイナンス・リースを賃貸借処理することを認めるが、IFRSではそのような基準はない
・数理計算上の差異は、日本では遅延認識だが、IFRSでは回廊アプローチも可能
・退職給付債務のデータ等の基準日は、日本では期末日前おおむね一年内であればよいが、IFRSでは原則として期末
・繰延税金は、日本では流動と固定に区分するが、IFRSでは固定