SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
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《ショパン with フレンズ》 ポーランドを愛したショパン

2011年03月28日 01時30分40秒 | 高橋多佳子さん
★《ショパン with フレンズ》~奇跡の年 コンサートシリーズ
   デビュー20周年記念&ショパン生誕200年記念シリーズⅢ
    高橋 多佳子 ピアノリサイタル    

第3回 ポーランドを愛したショパン
 《前半》
1.F.ショパン :ポロネーズ 第9番 変ロ長調 作品71-2(遺作)
2.F.ショパン :4つのマズルカ 作品17
3.F.ショパン :4つのマズルカ 作品30
4.F.ショパン :ポロネーズ 第5番 嬰ヘ短調 作品44

 《後半》
5.F.ショパン :ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53『英雄』
6.F.ショパン :3つのマズルカ 作品59
7.F.ショパン :ポロネーズ 第7番 変イ長調 作品61『幻想ポロネーズ』

《アンコール》
1. F..ショパン :夜想曲 第2番 変ホ長調 作品9-2
                  (2011年3月27日 浜離宮朝日ホールにて)

モナリザのようなポーズをとってくれた多佳子さん、このコンサートを開催してくれて本当にありがとうございました。

さまざまな事情が重なっている中、開催の当否についていろんな考えが頭をよぎったことと思います。
「インフラの問題上は開催に支障はないけれどどうするべきか?」というシチュエーションで決断された答とすれば、あれだけの聴衆の期待に素晴らしい演奏で応えられたわけですから大正解だったと、私は思います。

物理的にムリでなく準備も十分されたうえで演奏に臨むことができるなら、アーティストとしてはそれを楽しみにしている聴衆を元気付けるために最良のパフォーマンスを臆せずされるべきではないでしょうか?
演奏を聴いて元気をもらった私たちが、またそれぞれの持ち場で気持ちよくできることをしていけば・・・
きっと(大袈裟でなく)日本全体がいい循環になると思います。


それに・・・
お目にかかったときにも申しあげましたが、(仕事の都合というハードルもありましたが)このコンサートは自分の誕生日祝いだと思って楽しみにしてきましたから、まずは「聴けた!」ということで感激でした。


私信めいた書き出しとなってしまいましたが、年度末のうえにいろいろあって公私共に忙殺されている中、私にとっては、このコンサートが聴けたこと、演奏が期待していたとおり心に響くものだったこと、プログラム・進行がとてもよかったことなど、総合的に最高のパフォーマンスだったのではないかと思えて、とてもいい形で気持ちのうえで一区切りをつけることができました。

多佳子さん自身も・・・いつものように反省点はいっぱいあると言われるのでしょうが・・・思い切り演奏され、ほぼノーミスで演奏を終えられた(フィギュアスケートじゃないですが)ことに手応えを感じ、それなりには納得しておられる出来栄えだったのではないかとお察ししますが・・・

ともあれ・・・
私という聴き手に関しては、とても癒され大満足だったということだけ伝われば結構です。



さて・・・
前半は、まず(正直言って聴き慣れない)遺作のポロネーズから始まりました。
18歳のショパンの作品ということですが、サロンで持てはやされるであろう曲調で多佳子さんの音色、絶妙なニュアンスのタッチによってウルワシイ曲に聴こえました。
興味深い曲には違いないですし、多佳子さんも感激しているくらいだからいい曲なんだろうけれど、聴きなれてないからか『フィールドの様式で作曲された字あまりのモーツァルト』っていう感じに思えちゃいました。
多佳子さんぐらい曲への愛情を持っていない人が弾いたら、ちょっと私には違うんじゃないかなと思えるタイプの曲かもしれません。

ここでMCが入り、ポロネーズとマズルカについて解説がありました。
曲目については冒頭の曲をいかに気に入っているかという説明はありましたが、この後弾かれる曲の内容についてはありませんでした。
私はこれは大ヒットだったと思います。
聴き手の無用な予断を許さない・・・ことも、演奏家のパフォーマンスを味わう場合には大切だと思うからです。
集っている人の大半はきっと、ここから後の曲目についてはよく知っていたと思います。
よしんば知らずとも、プログラムに下田先生の解説がしっかりあったわけですから、少なくとも今日に関してはベストのMCだったと思います。

続く8曲のマズルカですが、このところ多佳子さんの音楽の重心が低くなり大家の風情を漂わせるようになってきたのではないかと感じさせる演奏でした。
思うに、かねて多佳子さんが達成を目指していた「脱力」がいよいよ完成の域に入って、以前よりずっとリラックスした音楽の雰囲気作りを可能にしているのではないか?

聴き手である私もリラックスできちゃったため思わず寝ちゃいそうでしたが、曲が短かったのでなんとか持ちこたえられました。

ともあれ・・・
安定した伴奏に乗って、右手が思うままにニュアンスを紡ぎ出すことによって音楽に立体感が生まれているのではないか・・・
なんて、わかったように書いて実は的外れだったらみっともないですが、けっこう一筋縄ではいかないリズムと旋律線を自然に聴かせてしまうことは、実はとても凄いことだと思います。

われわれがカラオケに行って、ミスチルやバンプの歌を歌ったときに、オリジナルの桜井氏や藤原氏が見事にメロディーに乗せている歌詞がしょっちゅう字あまりになったり、リズムとケンカすることを思っても、あのマズルカの1曲の中で“楽譜どおりに”表現されている内容の多彩さと据わりのよさは驚異的であります。

1曲だけコメントすると、作品17-4の多くの演奏が私にはジャズっぽく聴こえて仕方ないのですが・・・
多佳子さんの演奏だと真正なクラシックの曲に思えたことが印象的でした。

ポロネーズ第5番・・・
大好きな曲ですが、CDではこれはと思える演奏になかなかお目にかかれない曲です。
多佳子さんの“ショパンの旅路”を聴くまでは、アシュケナージの演奏がいいのかなと思っていましたが、どことなくちょっと違うというイメージがどうしても拭い去れませんでした。

リストが絶賛したというこの曲、たしかにリストが褒めたくなりそうな曲ですが、多佳子さんの実演に触れてはじめてこういう曲だったのかと得心が行きました。
終始ニュアンスに満ち溢れ、途中ユニゾンで駆け上がっていくフレーズでも最初と2回目では微妙に雰囲気が違っていたり、妖しい芳香を撒き散らすようなところもあって、まさにメフィスト・ポロネーズという表現がぴったりの曲・・・
最後の低音部に消えていくリズム・音色にゾクゾクしながら・・・
脱力の成果なのでしょうか、何故鍵盤を叩かないのにあんな音量が飛び出すのかと思われる最後の和音で前半は大団円。

この演奏を聴いて、今日の多佳子さんは調子がいいと確信しました。
このところお忙しいようなので練習がオーバーワークではないかとか、諸般の事情から気苦労や気負いとかがないかとか、ファンであれば心配したくなるところですが杞憂でした。

まぁ仕事というものは忙しい人に集中する、それはその人の仕事が任せるに足るものだからという理由によるものであります。
忙しい人は、余計なことを考えている間もなく目の前の仕事に対していいパフォーマンスをするということでありましょう。
私もかくありたいと思いますが、なかなかそうもいかないようで・・・。(^^;)
だから、こうしていい音楽を聴いてリフレッシュを・・・というわけであります。



後半ですが、嬉しいことに前半を大きく凌駕する印象を残してくれました。
これはきっと私が聴いた多佳子さんのベストパフォーマンス、少なくともその有力候補になりうる鮮やかな演奏だったといえるものでしょう。

英雄ポロネーズは何度か実演でも聴いています。
その都度、ディスクで聴くよりもはるかにファンタスティックに弾かれるのを素敵だと感じていましたが、今日は(遠い席で響がかなり入って聴こえたこともあり)華麗さ、派手さはすこし抑え目であるように聴こえました。
音楽の重心が低いというのはここでも強く感じたところ、一部の旋律のタッチが粘り強い音になったのではとも感じました。
この音は・・・
デュオ・グレイスのコンサートでりかりんさんのソロ演奏で感じたときのものではないかと思い当たったのですが、気のせいかもしれません。
レコーディングまでされるほど一緒に仕事をされていて、呼吸を合わせている間に相手のワザを自分のものにしてしまう・・・北斗神拳奥義「水影心」みたいなことが達人になるとできるんだろうかとも思いましたが・・・
いや、むしろ影響がないというほうがおかしいのかもしれません。
結論が、あるかもしれないしないかもしれない・・・ということに変わりがないのは、申し訳ないことです。

作品59のマズルカも同様に、多佳子さんの実演のすばらしさをこれでもか堪能できました。
アルゲリッチの演奏で初めて聴いて、特に作品59-2はマズルカ中の最高傑作だと思い込んできました。
なぜ、ミケランジェリはDGに録音した10曲のマズルカに採らなかったのかすっと残念な気もしていましたが、彼はそれほど好きじゃなかったのかも知れず、言っても仕方のないことです。

3曲をつなぐ間の取り方・・・
アタッカではないですが、まさにここしかないというポイントで3曲を有機的に結んで、ひとつのまとまった曲のように聞かせる演出もステキ。

1曲目イ短調のモノローグのようなニュアンス豊かな出だしにふっと絡んでくる左手の魅力的なこと、その後も徹底的に研ぎ澄まされた音が立体的に聴こえて耳は釘付け・・・
2曲目変イ長調の音色も絶美、とりわけ中間部の左手で奏される旋律の美しさは多佳子さんの特徴とはいえ、わかっていながら心に沁みてきます。
そしてこの曲が静かに幕を下ろしたとたんに、激しく3曲目嬰へ短調が始まり・・・
これも常套手段だとわかっていながら、あまりの場面転換の鮮やかさに引きつけられるばかり。
また、なぜあの手の動きでピアノがあそこまで鳴るのかと驚かされることもあわせて、ブラヴォーな演奏でした。

そして、プログラム最後の幻想ポロネーズ・・・
この演奏を聴いたことはきっとずっと忘れないと思います。
多佳子さんの実演は初めてでしたが、この曲がこんなにコンパクトに聞こえたことはかつてありません。
ディスクではアルゲリッチの切実さがあふれた演奏に最も共感してきましたが、今日の多佳子さんの演奏はその切実さにおいても曲想のスケールにおいても遥かに凌駕するものだったと言い切ってしまいたいほど素晴らしいものでした。

多佳子さんの演奏からは何度もこのように思わせられているものですが、ヴィトゲンシュタインの「人は語りえぬものについては沈黙しなければならない」という言葉を言いたくなるほど筆舌に尽くしがたい・・・
竜宮城が絵にも描けないぐらい美しいのと同じ感動でプログラムを終えました。
(文字がいっぱいあるのに何も説明していないことが気になるレポートだなあ。)

幻想ポロネーズの最後を大きな呼吸、底光りするような音色で収斂してきた後、高らかに最後の和音が鳴らされると、一瞬息を飲むような間があって会場からは“当然に”割れんばかりの拍手が沸き起こりました。


正直、この演奏の後にアンコールなんて必要なのだろうか、そうでなくとも弾けるのだろうかと思っていましたが、1曲だけと断って多佳子さんはノクターンの作品9-2を弾いてくれました。

多佳子さんのアンコールは本番の緊張が少しほぐれた開放感があるのが特徴で、それも楽しみなのですが、今日は旋律線をひどく大切にした演奏振りでした。

そうか・・・これは祈りなんだな

と勝手に合点してコーダ以降の澄み切った音の残した余韻を噛みしめて素晴らしいコンサートは幕を閉じました。



さて・・・
祈りに関連してではないですが、コンサートでは多佳子さんがステージから東日本大震災被災地への募金を呼びかけをされました。
そして、なんと、ホワイエでは笑顔のりかりんさんが募金箱を抱えておられました。

これは考えようによっては凄いこと・・・
野球に喩えたら、楽天の岩隈投手が募金を呼びかけてマー君が箱を持っているのと同じぐらいのインパクトではありませんか?
いずれにせよデュオ・グレイスのお気持ちは、多くの人にきっと届いていたと思います。

また・・・
折からの節電モードで地下鉄の自販機が動いていなかったので飲み物に不自由した人がいたでしょうし、ホールへ向かう道すがら、あるいはホワイエも灯が間引きされていました。
確かに違和感はありましたが、ことコンサートにおいてはいい演奏が聴けさえすれば全然問題ないんですね。
逆に、いかに私たちが必要以上に灯がついている状態に馴らされてしまっているかということを痛感しました。
この灯が100%点くことが復興ではない・・・そう思います。
不要な電気を使わない、私はこれを励行する先に復興があると感じています。
でも、計画停電ははやくナントカして欲しい。(^^;)


最後に特筆すべきは、多佳子さんのスピーチがすばらしかった。
本当はもっと曲目紹介や、楽しいお話をされたかったのかもしれませんが、開催の趣旨・経緯とショパンをいかに愛しているかは十二分に伝わりました。
コンチェルトを例にとったマズルカとポロネーズのお話も興味深かったし、私には今日ぐらいの分量のコメントがちょうどいいですね。
多佳子さんにしてみれば、節約モードだったかもしれませんが。

さて・・・
私も、お父様といろいろ話させていただいたことなどネタもありますが、明日の朝、計画停電があるかも知れず、私もいつもよりは分量節約モードでレポートを終えることにします。


自分では節約モードだと思っているものの、それでも結構長いですね。^^
本当に必要最小限でレポートするなら「最高に感動した、特に後半は筆舌に尽くしがたかった」これだけでオシマイなんですけどね。

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2 コメント

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Unknown (通りすがり)
2011-04-01 05:53:23
私も聞きました。
早くも今年ナンバーワンコンサート候補です。
良かったです~!
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よかったですよね。(^^;) (クラウディオ・アラウ)
2011-04-01 07:37:09
通りすがりさん。

あの会場にいらしたんですね。^^
余韻を噛みしめているいまも、聴けて本当によかったと思えるコンサートでしたよ。
ご本人のブログでも特別な感覚で音楽と向き合って演奏できたと仰ってましたから、そういう場に居合わせられたことはとてもラッキーだったんだと思います。
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