SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
もしよろしければ、ごゆっくりどうぞ。

EMIの新進ピアニスト

2008年03月27日 23時24分09秒 | ピアノ関連
★ドビュッシー:映像第1集、第2集、子供の領分、月の光、他
                  (演奏:サイモン・トルプチェスキ)
1.2つのアラベスク
2.子供の領分
3.映像第1集
4.映像第2集
5.月の光
6.喜びの島
                  (2007年録音)

先月のレコ芸で特選盤となっていた2人のEMIレーベルの新進ピアニストに触れたい。
もちろんメジャーの一角・・・どころか個性派アーティストを数多擁するこのレーベルに認められたアーティストが悪かろうハズはない・・・ハズ。(^^;)

確かに両名ともよく弾けている。
でも、私には全く対照的な心証を与えられる結果となったのが興味深かった。

結論から言えば、このトルプチェスキは『開いた音楽』をする人である。
その演奏振りの特徴については、特に下に紹介するショパンに関しては引っかかるのではあるが・・・なぜかしら肯定的に受止められちゃうのである。

それに対し、いまひとりのピアニスト、ビスは『閉じた音楽』に留まって残念ながら私には入口が発見できなかったといわざるを得ない芸術家ということになる。

まずはこのドビュッシーなのであるが、聴き始めはガッツがないのでは・・・という懸念を持った。
しかし聴き終えた今となっては、なんともいえないシンパシーを感じる演奏であり、珍しく何度も聴き返し味わうこととなった。

率直にいって、きめの細かいテクニックがものを言っており、粒立ちはきちんとしていて必要以上にもやぁ~んとしていることはない。
とはいえ、モニク・アースのようにカーンと鳴らしながらニュアンスを感じさせるというものでもない。
繊細極まりないニュアンス付け、仄かな香りが立ち顕れているような気がするほどの微細な気配を嗅ぎ取る耳と、それを実現できる神経組織と指先を持っている類稀なピアニストなのだろう。

ドビュッシーの名演奏は枚挙に暇がないが、ミケランジェリやツィメルマンのような緊張感を強いない中で、ピュイグ=ロジェほどの緊張感も感じさせない中で、音の香りが立ち上っちゃうものにはそうそうお目にかかれないと思う。

何と表現しようか迷ったのだが、この演奏は「天真爛漫」・・・それを実現できる才覚を持ったピアニストであり、幸せな結果がこのアルバムなんだと思う。
「天衣無縫」とまでは言い切れないところに、びみょ~な私の心のうちを表している。

とはいえ、今年出逢った中では出色の一枚であると言い切ることにいささかもためらいはない・・・などと語数が多くなっているところも心なしかびみょ~ではある。
言葉だけで伝えることの限界である。


★ショパン:ピアノ・ソナタ第2番、4つのスケルツォ 
                  (演奏:サイモン・トルプチェスキ)

1.ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 作品35 『葬送』
2.4つのスケルツォ
                  (2006年録音)

さて、ドビュッシーの前に録音されていたショパンである。
これも非常に流暢に弾き表されている。
このうえなくシームレスに楽曲の表面を磨きあげているにもかかわらず、摑もうと思えばちゃんと指に馴染むかのようにも思える仕上がりである。

ただ、このプログラムがショパンなんだよなぁ~。
さらにさらに・・・変ロ短調ソナタとスケルツォという激情の横溢する作品ばっかし・・・。

で、天真爛漫に流暢かつシームレスに弾かれちゃったらどうなるか・・・?




・・・こうなる。 (^^;)



「困ったなぁ~」と言いたいところだし「問題なしとはしない」し「決してこんなのありとは思わない」のだけれど、なぜかわからないがこのピアニストや演奏について悪い気がしないのである。

やっぱりここでも演奏スタイルが「天真爛漫」だからかな・・・とは思う。

例が突飛だが、「お馬鹿キャラ」で売り出している幾人かのタレントに私はいい思いを持っていない(馬鹿は隠せよという気持ちでいっぱい)のだが、ただ1人、上地雄輔さんだけには天真爛漫な爽やかさを感じている。
野球人だから・・・かな?

とにかくそんな雰囲気にも似た・・・要するに「場違い」だけど爽やかだからいいか・・・と私の中でしらずしらず捉えられてしまう麻酔かポワゾンみたいなものを振りまいているのは確か。。。(^^;)

そんなトルプチェスキの音楽をどう表現したらいいのだろう。
必ずしも解釈や演奏のスタイルは私のストライクゾーンを捉えているとは言いがたいのだが・・・「開いた音楽」・・・鍵穴が探り当てられるというか、聴き手の私の心を開かせるような音響が聞き取れるからそう言ってみよう。

繰り返すが、この感覚が何故だか本当のところはわからない。(^^;)
今後の活躍も期待したい・・・とも言っておきたい。


★シューマン:クライスレリアーナ、幻想曲、アラベスク 
                  (演奏:ジョナサン・ビス)

1.幻想曲 ハ長調 作品17
2.クライスレリアーナ 作品16
3.アラベスク 作品18
                  (2006年録音)

翻ってジョナサン・ビスである。
このピアニストもトルプチェスキと特に運動性能の発揮のされ方においてタイプは違うが、繊細で微細な表現もできるし、十分にピアノを鳴らし弾き込める実力を備えたピアニストであることは疑いがない。

でも、この人の音楽は少なくとも私の方向には「閉じて」いる。
私にははっきり言って魅力的に思われなかった。

決してシューマンが苦手だからではないと思う。
しかし、幻想曲から熱狂、偏執、情熱・・・といった良い意味での歪み(ゆがみ)が感じられなかったら、何を聴いたらいいのだろうか?

表情付けに関しても非常に作為的に感じる。
言い方は悪いし、決して実際はそうじゃないんだろうが、「先生がこうしろと教えてくれましたのでそのようにやった・・・」と的なゴタクが聴こえてくるような演奏なのである。

もしそれが真実だとすれば、先生になりかわって「よくぞそこまで達者にできるようになったなぁ~」という賞賛なら惜しまないが、ゲージツを楽しもうという時にそんな態度ではチョイとわたしゃ許せんのだが・・・という思いを禁じ得ないのである。

男性であれば賛同いただけるかどうかは別として、私のじれったさの類をわかっていただけると思うがいかがだろう。

彼の音楽との愛称、あるいは目指すところ・・・彼が重要視していることと私のそれとの齟齬としかいいようはない。
いやしくもメジャーレーベルの有望株なのだから、彼の志向しているところに私の感性が追いついていないだけだろうけれど、私はこのアルバムには失望したといわざるを得ないのである。

残念だが。


★ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集
                  (演奏:ジョナサン・ビス)

1.ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 Op.13 『悲愴』
2.ピアノ・ソナタ 第15番 ニ長調 Op.28 『田園』
3.ピアノ・ソナタ 第27番 ホ短調 Op.90
4.ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調 Op.109
                  (2007年録音)

果たしてレコ芸で特選となったベートーヴェンである。
流石に特選、シューマンよりははるかに「らしい」出来映えだ。

自然だし、よく言えば人間味ある(人間的な弱さが感じられる)入念な演奏なのであるが、気に入ったかといわれると全然そうはいえない。

やっぱり「アパッショナータ」ではないにせよ、毅然としたパッションが欲しい。
はにかみ、恥じらい・・・というならまだしも、控えめを通り越してハッキリしていないと聴こえるし、音だけがすたすたと流れていってしまうようである。
否、すたすた行っちゃってもいいのだが・・・何かそこに心を残していってもらえないか・・・。

聴き取れないお前が悪いといわれればそれまでであるが、少なくともここでもこの音楽は私向きには開いていない。

私のチャンネルが彼向きに開いていないともいえようが、それは受容する側の私の責ではないし、誓って感じ取れなければいけないという義務はない。(^^;)


ただ、作品109の表現については新鮮な感性を味わえたことを報告しておく。
音色的には悲愴の最終楽章の潤いあるそれと共通なんだけど・・・全編これで通しちゃったから、繊細さを認めながら食傷気味になっちゃったんだろうか?

どうしても気になるのはかくもひどく端正に弾かれているにせよ、強音で盛り上がったところで音楽があばれてしまっている・・・これは狙い通りの解釈なのか、若気の至りなのか?

まぁいろいろ書いては来たけど本日ただいま鑑賞した時の「私の」印象はこうだった・・・ということで。。。
5年後、10年後に聴いたらまた印象なんて大きく変わっているかもしれないから・・・。(^^;)

結局結論としては、独特なテイストをもったアーティストということは認めながら、研鑽を積んだ尊重すべきパフォーマンスであることは認めながら「好みではない」と言わざるを得ないというところに落ち着いてしまうんだろうな・・・。
勿論これは私のせいでもないけれども、ビスのせいでも断じてない。

しかし、このジャケットだけはもの凄くシュミ悪いと思う。
ジノ・ヴァネリのナイト・ウォーカーのジャケットをふと思い出してしまった。
あの音楽ならまだしも、ベートーヴェンのソナタ集のジャケットにしては???である。
シューマンのも、何故に猫背で写ってるんだろう?
いずれの写真も表情に緊張感や張りが感じられず、「しゃきっとせんかい!」である。

音には関係ないけど、きっと深いところで心証に影響してるんだろうな。


暫く昔のゲルネルをはじめ、EMIの新人ってオモシロい人が多いように思うのでディスクを購入するかは別にして動向くらいはチェックしていきたい・・・ということにしておこう。

新進といえば、このバックステージで採り上げて絶賛したズドピンのディスクが、どこかの国の鍵盤楽器部門で賞を射止めたように書いてあったなぁ~。
私も「さもありなん」と思われる出来映えだったもんなぁ~。
それから比べると、トルプチェスキのドビュッシーなんかもイイ線行くとは思うけど・・・どうだろう?(^^;)


ディスクをこれだけ採り上げてさんざん言いたいこといった挙句に恐縮だが、この2名もさることながらEMIの新人といえば4月にショパン作品集でデビューするイングリッド・フリッターに、もっとも注目しているというのが私の本心かもしれない。

最後のオチが「ナンのコッチャ」であるが、本当だから仕方ない。(^^;)

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