第１６第アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーン
ブースがリンカーンを背後から狙撃する瞬間
実行犯、ジョン・ウィルクス・ブース
暗殺に加担した４名の処刑
陸軍長官エドウィン・スタントン
１８６５年４月１４日ーーー。
ワシントンのフォード劇場に於いて、アメリカ合衆国第１６代大統領エイブラハム・リンカーンが暗殺される事件が起きた。 リンカーンといえば、大統領就任とほぼ同時に開戦した南北戦争に於いて、奴隷解放宣言を行なったアメリカの偉人。
彼が演説で発した「人民の人民による人民の為の政治」というフレーズは、今も語り継がれている歴史上の名文句となっている。しかし、南北戦争を北部の勝利に導いて合衆国の分裂を防ぎ、奴隷解放を実現させる道筋をつけたリンカーンは、実質的に南北戦争が終焉を迎えた僅か６日後の夜、暗殺者の手によってこの世を去ってしまった。
＊リンカーンは、自らの死を予知していた？
この悲劇には、実は様々な噂や謎が残されている。先ず、リンカーンは自分の死を予測していたという点だ。暗殺される年の初めのある夜、リンカーンは、自分が死んで人々が悲しんでいる様子を夢に見たと側近に語っている。リンカーンが夢の中で、その場に居る人に何があったのかと尋ねると、「大統領が暗殺されたのです」という答えが返って来たという。この夢は、残念ながらリンカーンの運命を予見したものとなってしまったのだ。
＊不可解過ぎる捜査ミスの連続
実際の暗殺事件にも、多くの謎がある。リンカーンが暗殺された夜、彼はワシントンのフォード劇場のボックス席で観劇をしていた。そこに、熱狂的な南部独立派の俳優ジョン・ウィルクス・ブースが現われ、背後からリンカーンの後頭部に銃弾を撃ち込んだのである。
ブースはすぐさま逃走し、リンカーンは近くの小さなホテルに運ばれたが、そのまま息を引き取った。 疑惑が生じる切欠となったのが、その後の不可解な捜査である。衆人環視の中での犯行だった為、犯人がブースであることは疑う余地がなかったというのに、捜査を指揮したスタントン陸軍長官が、ブースを犯人と認めたのは、深夜２時頃、既に事件発生から５時間が経過していた。
しかも、ブースを犯人だと特定し、捜査を始めたものの、何とブースの手配写真を別人のものと取り違えて配布するという大失態を犯している。そもそも、リンカーンは自分の護衛に、信頼するトーマスス・エッケルト少佐を同行させようとしていたが、これをスタントンが拒否し、警官のジョン・パーカーを配置していたのだ。このジョン・パーカーは飲んだくれで有名で、この日も早々に持ち場を離れて酒場へ向かっていたという。事件はその間に発生しているから、致命的な失態だ。 スタントンが犯人特定に手間取ったり、手配写真を間違えたりしているうちに悠々とワシントンから逃げ出したブースは、１２日後に発見され、その場でスタントンの部下である軍曹に射殺された。
しかし、ブースの逃走を手助けし、ブースと共に追い詰められて投降した共犯者のデイヴィッド・へロルドは、射殺されたブースの遺体を見て、「別人だ」と主張したという話が残っている。
更にスタントンは、その後、証拠品となるブースの日記の存在を否定している。後に前言を翻して日記を法廷に提出したが、その日記は、肝心の暗殺事件前後の部分が、２４㌻にも渡って抜け落ちていた。
＊黒幕はいったい誰だったのか
こうした様々な出来事は何を意味しているのか？暗殺事件の後、ブースの他にもへロルドをはじめ、暗殺に関わったとされる人物の合計９名が軍事裁判にかけられ、４名が処刑された。
しかしその他にも、暗殺を指示した黒幕が存在していたという説が囁かれているのだ。 その黒幕こそ、陸軍長官のスタントン。 何と、リンカーンの配下の者が、その暗殺の黒幕だった可能性があるというわけだ。実はスタントンは、リンカーンが進める南部統合に反対する立場をとっており、また、反リンカーン派の北部投資家や共和党急進派との繋がりがあったことも指摘されている。しかし、結局はこれらの謎は１５０年経った今も謎のままであり、真相は解明されていない。
＊リンカーンの魂は今も、ホワイトハウスに止まり続けている？
こうして悲運の死を遂げたリンカーンの魂は、その後もホワイトハウスに止まっているようだ。
第３０代大統領カルヴィン・クーリッジの夫人グレイスが、大統領執務室から窓の外を眺めるリンカーンの姿を見たのを皮切りに、フランクリン・ルーズベルト大統領の時代には、オランダのウィルへルミナ女王やルーズベルトの秘書など、多くの人が目撃している。
その後も、リンカーンの幽霊の目撃談は後を絶たない。リンカーンは今もホワイトハウスに止まり、アメリカの行く末を案じ続けているのかも知れない。
世界史ミステリー
「あの歴史上の大人物」が隠していたミステリー
