ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

フィデリティ尺度の必要な時期(『ストレングスモデル 精神障害者のためのケースマネジメント』から③)

2009年04月20日 | 社会福祉士
 今回田中秀樹さんを中心に翻訳された『ストレングスモデル 精神障害者のためのケースマネジメント(第2版)』には、江畑敬介さんが翻訳した初版本がある。その意味で、リチャード・ゴスチャが新たな著者に加わることで、どのように内容が変わったかが最も関心の高いことであった。

 今回新たに追加されたことは、大きく2つのことがあった。特徴の一つは、「リカバリー」である。これは、人々が生きる価値を見い出せる生活を実現することであり、この用語は精神障害者でよく使われるが、利用者一般についていうと、「人々が主体的にQOL(生活の質)を獲得していくこと」と近いように思う。ストレングスモデルに必須の概念としてリカバリーを位置づけており、これを達成するのを困難にしているベルリンの壁と呼ぶ心理主義(疾患的な視点)、貧困、恐怖感、専門家の実践、精神保健システム等があるとしている。これに対して、本著は当事者の「希望」、「復元力」、「エンパワメント」といった心理学的状態と、ノーライゼーションといった地域で普通の生活をすることで、リカバリーが起こることを説得力ある説明をしてくれている。

 第二の特徴は、ストレングスモデルのケースマネジメントに適合している程度であるフィデリティ尺度の開発を行っていることである。これは、ストレングスモデルを実施する望ましい状況であるかどうかを尺度化したものであり、今後の日本でのケアマネジメンにおいても研究開発が求められる部分である。

 具体的には、構造特性である7項目(「担当者のケースマネジメントに費やす時間の割合」「担当ケース数」「一人のスーパーバイザーのもとでのチームの人数」「他の専門家の参加の程度」「スーパーバイザーのケースマネジャーをサポートする時間の割合」「グループスーパービジョンに費やされる時間の程度」「グループスーパービジョンで特定利用者に限定して討論する時間の割合」)、および実践者の行動に関連する5項目(「ストレングス・アセスメントのツールを使っている割合」「ストレングスモデルの個別計画にツールに準じている割合」「地域の中で利用者と会っている時間の割合」「公的サービス以外の地域の資源を活用している割合」「利用者の希望を引き出す行動の程度」)であり、総計12項目を5段階の尺度で基準化している。

 これらの項目でもって、ストレングスモデルのケースマネジメントは、日本でのケアマネジメントでの質を高める基準づくりにも有効であるといえる。

 最後になったが、本著自体が実践的・具体的にブレークダウンした実践家にはひしひしと実感できる内容となっている。さらにその訳がこなれた日本語となっており、私にとってはとても理解しやすかったというのが実感である。是非、多くの研究者や実務者は本著をお読みいただくことで、日本でもストレングスモデルに基づくケアマネジメントを発展させていただくことができると願っている。