ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

追加経済対策での「介護職員処遇改善交付金」(仮称)への期待

2009年04月11日 | ケアや介護
 3月14日のブログ、「介護保険を維持・発展させる1000万人の輪」が介護保険制度の改善を求めて緊急要望書を3月12日に厚生労働省に提出したことは、既に報告をした。この要望書は、要介護認定方法の改正について一時凍結することと、介護報酬の財源のアップを3%からさらに高くすることで、介護従事者の待遇改善を図るべきである、の2点であった。

 何回か報告しましたように、要介護認定方法については、要望書にそって急遽改正いただいた。私は、要介護認定そのもののあり方や要介護の認定方法についての根本的な問題が残っていることをブログで書いてきたが、それについては介護保険の根幹に関わることであり、今後の議論にしていきたいと思っている。

 要望書のもう一つであった3%からさらにアップすることの要望については、私個人の意見としては、介護報酬改正に政府が3%アップすることを緊急経済対策で提案した時に議論すべきだったと時期を失したと思っていた。ただ、このことを要望することで、何か解決の道はないかという極めて不透明な思いであった。

 ところが、最近になり介護従事者の待遇改善がにわかに現実味を帯びてきた。これは、政府・与党として追加経済対策を近々まとめることになっており、同時に民主党も追加経済対策の対案をだす方向に進んでいる。政府・与党の追加経済対策には、「介護職員処遇改善交付金」(仮称)を設けるとの意向が新聞ででている。

 この交付金について4月8日付の朝日新聞は内容をリークしている。

 「介護職員処遇改善交付金」は、介護従事者の人件費の引き上げを目的にするものであり、申請した介護事業者に支給されることになる。その支給条件として、①介護職員の賃金引き上げを盛り込んだ処遇改善計画を作成し、職員に対し提示すること、②2010年度以降は、介護職員のキャリア向上を目指した職員研修計画を立てること、となっている。「介護職員処遇改善交付金」のための予算4千億円は、介護報酬の2%に相当する予算規模となるそうであり、実質5%のアップになる。また、介護従事者の賃金を1人(常勤換算)当たり月額1万5千円引き上げることになる。

 これは、当然公費で賄われることでになり、原則としてきた「公費が5割、保険料が5割」が数年間ではあるが崩れることになる。同時に、一度あげた介護従事者の給与を3年後に現在の水準に戻すことにはならないであろうから、3年後の介護報酬改定時には、再度「公費が5割、保険料が5割」の原則に戻るとすれば、介護保険料の引き上げが不可避な状況になる。ここでも、3年先を見据えて、公費が5割について再検討していく必要があるように思う。

 介護報酬に関する要望書の内容について正直期待薄であると思っていたが、このような方向で急展開していることは嬉しい限りである。これには、3月26日に民主、共産、社民、国民新の4党が参議院に提出した法案(政府が決めた介護報酬の3%増に、7%を上乗せして引き上げ幅を1割とする介護労働者賃金引き上げ法案)が刺激したいるものと思われる。いずれにしても、交付金は10月スタートということらしいが、期待したい。

 なお、追加経済対策では、「特別養護老人ホームなどを緊急整備するため、例えば小規模な特養を建設する場合、現在1床あたり国から200万円の助成金が出ているところを、2倍程度に増額。さらに開設準備に必要な経費に、新たな補助金をつける」(朝日新聞)ということである。この背景には、火災があった群馬県渋川市のNPOが経営する介護施設の入所者は特別養護老人ホームに入所できず、やもう得ず入っていた実態が分かったことが一因しているものと思われる。この場合、50床から70床では経営が苦しいとされていることへの緊急対応であろうか。今後の情勢をみていくべきである。



本当に専門性を低下させて良いのか

2009年04月10日 | 社会福祉士
 介護・保育の規制緩和のあり方について、鈴木亘学習院大学准教授が日本経済新聞3月16日の「経済教室」の欄で書かれている。鈴木氏は、参入規制緩和として、従来からいわれてきた経営主体についての規制緩和に加えて、人材面での規制緩和にまで及んでいる。介護において専門性を高めることを主張してきた立場から、特に後者の人材面での規制緩和に対してコメントしたくなった。

 前者の経営面での規制緩和については、氏の主張は「効率性が高く運営費が低い」非営利組織(NPO)や株式会社に介護保険施設を委ねるべきであるとの論調である。保育については、東京都で実施されている「認証保育所」を全国的に拡大し、供給増を図ることを主張している。
 
 これについては、介護も保育の分野も、この10年程急激に規制緩和を進めてきたのが現実であり、氏の言うような規制緩和を一層進めるよりも、規制緩和を進めたことについて評価すべき時期にあると認識している。規制緩和はメリットを生み出すこともあったが、いがみを生み出してきた側面もあると考える。

 経営面での規制緩和により、確かにコスト面で抑えることが出来たとしても、様々な問題が生じてきている。例えば、関東地方を中心にエムケイグループ(東京都豊島区、初見雅人社長)が「ハッピースマイル」の名称で運営していた29カ所の全保育施設(この中には、認証保育所も入っている)を急に閉鎖する問題で、保護者や子どもに不安をもたらしたのは、昨年の10月の出来事であった。また、群馬県渋川市のNPO「彩経会」(高桑五郎理事長)が経営していた宅老所の火事で、10名の高齢者の命が奪われた事件は3月というごく最近のことであった。これらのニュースから、国民のセフティ・ネットが作れていない施策の貧困さをつくづく感じた。それゆえ、経営面での規制緩和を全面的に否定するものではないが、慎重な議論が必要であり、一方的にコストのみで規制緩和の議論することは問題も大きい。

 次の人材面での規制緩和について、氏は介護福祉士や保育士といった資格取得者から専門性が低い人に規制緩和することを主張している。この根拠は、「保育や介護はもともと家族が行ってきた分野なのであるから、常識的に考えて、取得に数年を要する高度資格が「全員」に必要だとは到底考えられない。」さらに続くが、「実際、現場では、専門知識が無くてもできる単純労働も意外に多いのである。」と主張される。

 介護の領域から言えば、氏が規制緩和で求めている現状こそが現状であり、老人保健施設や特別養護老人ホームといった介護保険施設も、訪問介護や通所介護の事業所も、ほとんど介護福祉士といった専門職が配置されていないのが現状である。そのため、一定割合の介護福祉士を配置している事業所に対しては、今年度の介護報酬改正で加算が新設された矢先である。それゆえ、こうした議論をするのには正確な現状認識からスタートして頂きたい。さもなければ、国民のセフティ・ネットを崩しかねないからである。その意味では、氏の認識不足は別として、現状では、介護福祉士比率が低く、いかに専門性を高めるかが課題であると考える。

 基本的な介護のあり方については、家族が従来は介護を担ってきたが、家族機能の低下に伴い、介護が社会化なり外部化することになったことは確かである。これは、保育についても同じである。このような場合、家族の機能を他者が担う場合に、専門性がさほど必要としないという議論が通用するのであろうか。あるいは、これは常識であろうか。

 家族が行ってきた介護を他の者が担う際には、相当な人間観に基づく知識や技術が不可欠であると考える。なぜなら、第一に、家族だからこそ、損得の感情を持つことなく、真心を込めた介護を行っており、それを専門職が引き継ぐ際には、相当な習得した価値観や知識・技術がなければ対応できないからである。更に言えば、家族の献身的な仕事を専門性ででもってカバーすることである。第二に、家族に代わって介護を行う場合には、家族が十分でなかった介護もできることになり、同時に家族にそうした介護について教育していく役割も担うことになる。

 以上のことを考えると、氏が言う数年もかかる高度資格の高度の程度とはどの程度か分からないが、介護福祉士なりの僅か2年の教育や、現場の方の場合であれば6ヶ月の研修で受験できる資格は高度と言う程の資格であろうか。現状での一定の年月のかかる専門職を育て上げ、施設や居宅のサービス事業者に、また保育所に一定数配置されることで、保育や介護でのセフティ・ネットが構築できるのではないだろうか。

 以上が、鈴木氏の記事へのコメントであるが、介護福祉士や保母の皆さん、さらには両国家資格に挑戦する予定の人々は、家族の介護や育児を超える価値、知識、方法を獲得し、日本でセフティ・ネットを構築する上で不可欠なことであることを実証していっていただきたい。このこと抜きに、専門性は語れないからであり、このことこそが本質的な議論であると考える。

「社会福祉士国家試験」の合格発表に思う

2009年04月09日 | 社会福祉士
 3月末日は恒例の「社会福祉士」「精神保健福祉士」「介護福祉士」の合格発表の日である。今回は第21回の試験であるが、「社会福祉士」の試験は、ほぼ100%近くが「5者択一」の「正しい(適切な)ものを一つ選べ」または「間違い(適切でない)ものを一つ選べ」の問題で変更になった。このような問題形式が原点であることには異論はないが、合格率が昨年の30.6%という三割台となり、これから上昇気流に乗っていこうと思っていた矢先に、29.1%と三割を切ってしまった。至極、残念である。

 この要因を考えると、大学の合格率のランキングが出ており、上位を公立が殆どを占有していることから、2点の議論が必要であるように思う。現実に、これらの結果は、大変失礼な言い方で申し訳ないが、大学入試時の偏差値がそのまま反映しているような実態であるように私は感じている。

 このことでの第1の議論は、社会福祉士にも当然多くの知識を理解しておく必要があり、この知識には偏差値と相関があってもいたしかたないとしても、学生時代に実習や演習を介して得た価値や技術能力が反映した問題が作成されているのかということである。ある意味、知識偏重の問題ではないのかと問題提起である。

 第2の議論は、大学教育の中で、社会福祉士に成りたいというインセンティブを高め、1回生から計画的に学習し、過去の偏差値を超えていく教育が大学で出来ていないのではないかということである。ただ、これについては、正直、さほど入学時の偏差値が高くない大学がいくつか上位にランクされている。これらの大学の教育方針や方法について、是非伺い、そこから学びたいと思っている。

 来年の第22回試験は、時代状況が大きく変わることになる。第1は、介護福祉士に先駆けて、社会福祉士は新カリキュラムでの試験をスタートさせる。第2は、昨年12月25日の厚生労働省が報告した『社会福祉士及び介護福祉士国家試験の今後の在り方について』のもとで、初めての試験である。この報告書では、社会福祉士と介護福祉士は、単に知識だけでなく、価値、知識、技術が身についているかを確認する試験になることを提案している。

 このことは、大学には新4回生の国家試験に向けての教育や指導のあり方が問われる。また試験委員会にも、評価の内容や基準についても相当慎重さ対応が求められることでプレッシャーがかかるものと思われる。

 次の試験から、再度合格率を飛躍的に上げていって欲しいと願っている。医療系の国家試験合格率まで高めることには時間がかかるであろうが、受験生の6割から7割が最低合格しないと専門職教育は難しいのではないかと思っている。

 そのため、大阪市立大学でも、4月に入ってすぐに、新4回生のために、国家試験受験用教材として、私の研究教育費を使って、全ての巻が揃っている中央法規出版の教科書を4セット買い、国会試験に向けてのスタートをした。他の大学も、一緒にスタートを切りましょう。


 

新たな「要介護認定方法」についての評価

2009年04月08日 | ケアや介護
 ブログを春休みしている間に、介護報酬や要介護認定方法が改正され、追加の緊急経済対策で、介護従事者の待遇改善にお金をつけることが検討されている。また、社会福祉士等の国家試験の合格発表も行われた。これらについて、順次コメントしておきたい。

 要介護認定方法については、3月24日に「認定調査員テキスト2009改正版」を出して、解釈の明確化を行った。これで既に4月1日からスタートしたことになる。

 最終的に、テキストで変更されたことは、以下の3点である。
①「介助の方法」の16項目が、全て「自立(介助なし)」「できる(介助なし)」を「介助されていない」と文言を変えた。

②「移乗」「買い物」「金銭管理」についての解釈について、「移乗」では、「寝たきりであって、体位変換が行われていれば「全介助」、「買い物」では、代金の支払い不足、未払い等があり、精算や契約解除等を行わなければならない場合は「一部介助」、「金銭管理」は、所持している金額以上の契約を行って、後で精算や契約解除等を行わなければならない場合は「一部介助」とすることになった。

③「洗顔」と「短期記憶(面接調査の直前に何をしていたかを思い出す)」で特記事項が追加された。「洗顔」の現状で明らかに介助が不足している場合の特記事項、「短期記憶」での本人の発言と家族等の発言が食い違う場合を書き加えている。

 テキストも修正され、調査員に周知徹底を図れば、認定調査員の調査内容のバラツキを少なくすることに資することは確かであろう。同時に、上記のテキストの修正による文言訂正や、「移乗」「買い物」「金銭管理」の解釈の明確化、「特記事項」の追加は評価できる。ただ、②と③については、元のデータを修正して入力し、プログラムの係数を変えることが必要であるが、そこまでは遡れていないと思われる。これについては今後の課題であろう。

 この結果、認定調査員が「特記事項」を書き込むことができ、それを認定調査会が適切に評価できるかどうかが課題となる。これについては、今後の調査員や委員会研修が重要な意味をもっているといえる。

 但し、今回の要介護認定方法の変更は、要介護認定の本質に関わる問題を露呈している。それは、以下の通りである。

 今回の解釈の明確化が必要とされた項目は「介助の方法」であり、「介助」については、「介助の不足等により介助されていない」場合の調査員が客観的な判断をする際に、家族がいなかったり、家族がいても介護していなかったり、家族が過度に介護している場合には、本人の状態が同じでも大きく異なってくる。また、ある種の介助では、住環境が整っているかどうかで、「介助」の内容が異なってくる。これらは、利用者の社会環境的な要因により、介護されていないレベルが異なることになる。これらの要因を含めて「介助されていない」ことを調査することで良いのかという社会からのコンセンサスが必要となる。とりわけ、今までの要介護認定では、家族の介護は認定の際に評価しないことになっていたため、基本的な認定方法の転換にもで及ぶことである。

 また、本人の自立意欲が高い場合、依存的な場合、介助への要求水準が高いか低いかで、介助の現状は変わってくる。こうした本人の精神心理的な要因も含まれて、「介助されていない」水準が調査されることになる。

 以上のようなことは、今回の認定調査では、特記事項に記述されることになり、認定調査会での判断に委ねられることになる。そうした場合に、家族や住環境、さらには本人の意欲等の違いをを無視して、実際の介助の不足でもって一次判定している結果に対して、どのような判断をしていくのかの認定調査会の仕事が大きくなる。心配するのは、その時に判断基準が、家族の介護力を評価しないとしながら、既に一次判定では取り込まれていることである。

 私個人の意見であるが、要介護認定に「介助の方法」を持ち込んだことがこうした混乱を生んでいるが、これは要介護認定の本質を議論する、さらには介護保険の本質を明らかにするうえで、意味がある。