ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

本当に専門性を低下させて良いのか

2009年04月10日 | 社会福祉士
 介護・保育の規制緩和のあり方について、鈴木亘学習院大学准教授が日本経済新聞3月16日の「経済教室」の欄で書かれている。鈴木氏は、参入規制緩和として、従来からいわれてきた経営主体についての規制緩和に加えて、人材面での規制緩和にまで及んでいる。介護において専門性を高めることを主張してきた立場から、特に後者の人材面での規制緩和に対してコメントしたくなった。

 前者の経営面での規制緩和については、氏の主張は「効率性が高く運営費が低い」非営利組織(NPO)や株式会社に介護保険施設を委ねるべきであるとの論調である。保育については、東京都で実施されている「認証保育所」を全国的に拡大し、供給増を図ることを主張している。
 
 これについては、介護も保育の分野も、この10年程急激に規制緩和を進めてきたのが現実であり、氏の言うような規制緩和を一層進めるよりも、規制緩和を進めたことについて評価すべき時期にあると認識している。規制緩和はメリットを生み出すこともあったが、いがみを生み出してきた側面もあると考える。

 経営面での規制緩和により、確かにコスト面で抑えることが出来たとしても、様々な問題が生じてきている。例えば、関東地方を中心にエムケイグループ(東京都豊島区、初見雅人社長)が「ハッピースマイル」の名称で運営していた29カ所の全保育施設(この中には、認証保育所も入っている)を急に閉鎖する問題で、保護者や子どもに不安をもたらしたのは、昨年の10月の出来事であった。また、群馬県渋川市のNPO「彩経会」(高桑五郎理事長)が経営していた宅老所の火事で、10名の高齢者の命が奪われた事件は3月というごく最近のことであった。これらのニュースから、国民のセフティ・ネットが作れていない施策の貧困さをつくづく感じた。それゆえ、経営面での規制緩和を全面的に否定するものではないが、慎重な議論が必要であり、一方的にコストのみで規制緩和の議論することは問題も大きい。

 次の人材面での規制緩和について、氏は介護福祉士や保育士といった資格取得者から専門性が低い人に規制緩和することを主張している。この根拠は、「保育や介護はもともと家族が行ってきた分野なのであるから、常識的に考えて、取得に数年を要する高度資格が「全員」に必要だとは到底考えられない。」さらに続くが、「実際、現場では、専門知識が無くてもできる単純労働も意外に多いのである。」と主張される。

 介護の領域から言えば、氏が規制緩和で求めている現状こそが現状であり、老人保健施設や特別養護老人ホームといった介護保険施設も、訪問介護や通所介護の事業所も、ほとんど介護福祉士といった専門職が配置されていないのが現状である。そのため、一定割合の介護福祉士を配置している事業所に対しては、今年度の介護報酬改正で加算が新設された矢先である。それゆえ、こうした議論をするのには正確な現状認識からスタートして頂きたい。さもなければ、国民のセフティ・ネットを崩しかねないからである。その意味では、氏の認識不足は別として、現状では、介護福祉士比率が低く、いかに専門性を高めるかが課題であると考える。

 基本的な介護のあり方については、家族が従来は介護を担ってきたが、家族機能の低下に伴い、介護が社会化なり外部化することになったことは確かである。これは、保育についても同じである。このような場合、家族の機能を他者が担う場合に、専門性がさほど必要としないという議論が通用するのであろうか。あるいは、これは常識であろうか。

 家族が行ってきた介護を他の者が担う際には、相当な人間観に基づく知識や技術が不可欠であると考える。なぜなら、第一に、家族だからこそ、損得の感情を持つことなく、真心を込めた介護を行っており、それを専門職が引き継ぐ際には、相当な習得した価値観や知識・技術がなければ対応できないからである。更に言えば、家族の献身的な仕事を専門性ででもってカバーすることである。第二に、家族に代わって介護を行う場合には、家族が十分でなかった介護もできることになり、同時に家族にそうした介護について教育していく役割も担うことになる。

 以上のことを考えると、氏が言う数年もかかる高度資格の高度の程度とはどの程度か分からないが、介護福祉士なりの僅か2年の教育や、現場の方の場合であれば6ヶ月の研修で受験できる資格は高度と言う程の資格であろうか。現状での一定の年月のかかる専門職を育て上げ、施設や居宅のサービス事業者に、また保育所に一定数配置されることで、保育や介護でのセフティ・ネットが構築できるのではないだろうか。

 以上が、鈴木氏の記事へのコメントであるが、介護福祉士や保母の皆さん、さらには両国家資格に挑戦する予定の人々は、家族の介護や育児を超える価値、知識、方法を獲得し、日本でセフティ・ネットを構築する上で不可欠なことであることを実証していっていただきたい。このこと抜きに、専門性は語れないからであり、このことこそが本質的な議論であると考える。