ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

社会福祉領域での教育の目指すべき方向(上)

2008年11月01日 | 論説等の原稿(既発表)
 日本学術会議が編集協力している『学術の動向』から原稿の依頼を受け執筆した。タイトルは「社会福祉領域での教育の目指すべき方向」ということであり、社会学コンソーシアムを立ち上げるキックオフ・シンポジウムで報告した内容を文章化したものである。そこで、今後の社会福祉教育の方向についての私の思いを、2回に分けて再掲することにする。


1 はじめに
 昨年11月に「社会福祉士及び介護福祉士法」が20年ぶりに改正され、国家資格である社会福祉士教育内容も大幅に改革された。この改革を進める過程で、現状の社会福祉領域で行っている教育内容が3種類に分かれることが分かった。それらは、「社会福祉士養成教育」「ソーシャルワーカー養成教育」「社会福祉教育」である。今回の改正は、当然「社会福祉士養成教育」についてであり、実践能力のある社会福祉士を養成していくことが改革の主題であった。これについては、現在各社会福祉系大学でカリキュラムや演習・実習の見直しに向けた作業が行われており、「産みの苦しみ」の時期にある。この苦しみこそが、優秀な人材を輩出することで、いつかは必ず報われるものと信じている。
 
 この「社会福祉士養成教育」は、残りの「ソーシャルワーカー養成教育」や「社会福祉教育」と一致するわけではない。この小稿では、これら3つの教育の違いや関係を明らかにすることから、今後の目指すべき社会福祉領域での教育内容について検討してみる。

2 「社会福祉士養成教育」と「ソーシャルワーカー養成教育」の関係
 まず第1に、「社会福祉士養成教育」と「ソーシャルワーカー養成教育」の関係はいかにあるのかについて見てみる。「社会福祉士養成教育」は厚生労働省所管の国家資格である社会福祉士の養成を目的にした教育てあり、大学には一定のカリキュラム内容や実習・演習に関わる規定がある。こうした要件を整えた大学等で定められた科目を学生が履修すれば、社会福祉士国家試験の受験資格が得られる。ただ、このようにして養成される社会福祉士の養成教育は、ソーシャルワーカー養成の中核ではあるが、全てではない。社会福祉士養成においては、基本となるジェネリックなソーシャルワーカーの養成を目指すものであり、そのような教育のみでは、専門特化したスペシフィックな専門性を十分に得ることができない。そのため、「ソーシャルワーカー養成教育」は、ジェネリックな側面に追加した、スペシフィックな領域でのソーシャルワーカー養成教育を行うことである。
 
 この「ソーシャルワーカー養成教育」は、教育分野、司法分野、労働、保健医療、社会福祉施設等の分野で求められる専門特化したソーシャルワーカーを養成することである。現実に、各大学ではこうしたスペシフィックな人材を養成すべく、社会福祉士受験資格に必要な科目に加えて、「スクール・ソーシャルワーク論」、「医療ソーシャルワーク論」、「司法ソーシャルワーク論」、「ケアマネジメント論」等を追加的に科目設定し、実習時間・領域を広げる努力をすることで、ソーシャルワーカー養成教育を行っているのが現状である。特に、ソーシャルワーカー養成教育が求められる背景には、従来は職域としてこなかった教育や司法等の分野で、専門性の高いソーシャルワーカーが求められていることが挙げられる。

 以上の結果、社会福祉士養成教育を包括してソーシャルワーカー養成教育があり、ジェネリックを基礎にしたスペシフィックな養成教育の充実が社会的にも求められている。こうした両者の連続する教育は大学教育に収まりきれない部分が多く、大学院での専門職教育として位置づけられなければならない内容も含まれることになる。同時に、大学院教育と合わせて、職能団体等による生涯教育でもって養成していく部分もある。そのため、ここでは、「社会福祉士養成教育」の連続性のもとで「ソーシャルワーカー養成教育」が位置づけ、学部教育でどこ程度「ソーシャルワーカー養成教育」を取り入れるかが課題となる。

 ソーシャルワーカーの教育・養成を充実するために、日本では(社)日本社会福祉士養成校協会と(社)日本社会福祉教育学校連盟の2団体があるが、「社会福祉士養成教育」は前者が担当し、「ソーシャルワーカー養成教育」は幅広い教育であるため、後者が担当するといった棲み分けのもと、別個に活動してきた。そのため、例えば、(社)日本社会福祉教育学校連盟が大学院の専門職カリキュラムを検討する場合には、必ずしも社会福祉士養成教育を土台にした検討ではなかった。一方、現実の大学では、必ずしも社会福祉士養成教育のカリキュラムに終始しているわけではなく、各大学がリベラルアーツを含め独自のソーシャルワーカー養成教育を行ってきているが、(社)日本社会福祉士養成校協会は社会福祉士養成の視点のみから大学を捉えがちであったとの反省がある。こうした現実を考えると、両団体が共同で、「社会福祉士養成教育」と「ソーシャルワーカー養成教育」の連続した教育の体系化を図っていかなければならない。(続)