ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

社会福祉領域での教育の目指すべき方向(下)

2008年11月04日 | 論説等の原稿(既発表)
3 「ソーシャルワーカー養成教育」と「社会福祉教育」の関係
 第2の問題 は、「ソーシャルワーカー養成教育」と「社会福祉教育」との関係はいかにあるのかである。「両者は一緒のことなのか」、「後者が前者を包摂したより広い教育なのか」、あるいは「後者は前者の一部を含む別個なものなのか」である。ほとんどの社会福祉の研究者や教育者は、このような質問に対して一瞬返事に窮するのではないだろうか。
 
 その原因は「社会福祉教育」の内容の曖昧さにある。ソーシャルワーカー養成教育と比較して、社会福祉教育を狭く捉える場合には、これを教養教育的なものとして認識していることになる。また、ソーシャルワークを社会福祉そのものとして捉える場合もある。一般的には、社会福祉教育の方を広く捉えることが一般的であり、ここでは、そうした視点から言及してみる。そのため、「社会福祉教育」を仮に社会福祉学の理論体系にもとづいて学生を教育することとしておく。

 社会福祉学の理論体系でのソーシャルワークの位置づけについては、歴史的には大いに議論されてきたが、必ずしも決着がついているわけではない。私見ではあるが、社会福祉学とソーシャルワークとは必ずしも同一ではないが、社会福祉学は確かにソーシャルワーク的視点を中核にしたものであるが、利用者を支えることになる資源論に関する内容も包含されている。逆に言えば、ソーシャルワーカー養成教育では十分でない資源論教育を、社会福祉教育によって十分補えると考えている。そのため、「社会福祉教育」がカバーする範囲を、ソーシャルワークを中心にした科目に加えてヒューマン・サービス(human services)なり社会福祉政策(social welfare policy)を含めた範囲とすることが妥当であるといえる。具体的に、社会福祉系の大学では、「医療保障論」「高齢者政策論」といった科目が追加的に実施されている。

 しかしながら、現実には、海外でも、例えば、イギリスではソーシャルワーク教育とソーシャル・アドミニストレーション教育を分離して実施しており、アメリカは両者を一体的に教育している大学とそうでない大学に分かれている。韓国や中国では、社会保障論を中心とした教育とソーシャルワークを中心とした教育が別個の教育体系のもとでなされており、そのことが体系的な教育の歪みになっているとの議論もある。

4 社会福祉領域での国際性のあるコア・カリキュラムの確立に向けて
 以上のような社会福祉領域での教育内容についての議論を急ぐのには、それなりの理由がある。文部科学省中央教育審議会大学分科会が『学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)』(平成20年3月25日)を刊行し、その中で国際的に通用する分野別のコア・カリキュラムを作っていくことが提案されている。この報告を受けて、日本学術会議は大学教育の分野別質保証の在り方に関する審議依頼を受けて、審議が始まっている。今後の大学教育は、社会福祉系学部・学科だけでなく、全ての分野において学習成果や到達目標の設定や、コア・カリキュラムの策定に進んでいくものと考えられる。

 こうした際に、社会福祉系の学部・学科では、必要となるコア・カリキュラムについて一定のコンセンサスが求められており、同時にこうしたことを支える理論的整合性が求められる。そこには、優秀な人材を輩出するために、社会福祉学を中核科目としたコア・カリキュラムの確定が急がれる。その際には、海外の動向だけでなく、2004年に国際ソーシャルワーカー協会(IFSW)と国際ソーシャルワーク教育連盟(IASSW)が合同で作成したGlobal Standards for the Education and Training of the Social Work Professionでのソーャルワーカー養成でのグローバルスタンダードは1つの基準となろう。この具体的に基準は、①大学の目的なり使命の明示、②課程の目的とその成果、③実習を含む課程のカリキュラム、④コア・カリキュラム(ソーシャルワークの分野、ソーシャルワーカーの分野、ソーシャルワークの方法、ソーシャルワークの枠組)、⑤ソーシャルワーク教職員、⑥ソーシャルワーク学生、⑦機構、管理、統制および資源、⑧文化的・人種的多様性、⑨ソーシャルワークの価値と倫理的行動綱領について基準を遵守した教育、としている。

 さらに社会福祉領域でも国際化が進む中で、国家試験がある日本、韓国、中国との間においてさえも、資格の互換性が議論されていない。さらには、認証制度(アクレデーション)であるアメリカやイギリスの認証ソーシャルワーカーとの互換性も当然無く、国際化に中でこれらの互換性を作り出していくためには、上記のような国際的な一定の基準でもって共通した科目履修や実習を整え、国際的な資格制度を指向していかなければならない。

5 まとめ
 以上のような問題提起は、ソーシャルワーカー育成を一体的なものとすることであり、ソーシャルワーカー全体としてのアイデンティティの確立を教育の側から目指すことであり、それに寄与する一つの個人的な意見である。教育、就労、司法領域等の社会福祉六法以外の領域でもソーシャルワーカーに対する期待が高まりつつあり、これに応えていくためには、社会福祉士養成教育の見直しを契機に、社会福祉領域の教育全体での見直しをしていく好機にある。この絶好の機会を生かすタイミングを逃がせば、また「空白の20 年」を生み出すことになるのではないかと危惧する。また、これらの改革は、外からの力ではなく、大学等の自らの力で創造していくものであることの自覚がなければ、この改革は進まないであろう。(完)