ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

障害者自立支援法への違憲提訴(1)<「応益負担」原則について>

2008年11月05日 | 社会福祉士
 2005年に成立した「障害者自立支援法」では原則1割の自己負担を取る、応能負担制度が導入された。それまでは、本人の所得に基づく、応益負担制度であり、所得の低い人は無料や安い利用料を負担し、所得の高い人は高い負担料になっていた。当然、応能負担の時代には、多くの障害者は就労へのバリアがあり、所得が低く、無料で利用する人も多かった。

 このことに対して、10月31日に、障害者自立支援法は最低生活を保障する憲法に反するとして、30名の障害者が8つの地裁に提訴した。これについて、私の基本的な思いを述べておきたい。

 障害者同様に、高齢者についても介護保険制度が始まった2000年より、保険制度となり、障害者に先立って応能負担から応益負担に変わった。その時も、施設入所していた者の負担は、低所得者世帯は増え、高額所得世帯は下がった。ただし、保険という元来の仕組みは、保険料を払う被保険者間での相互扶助の仕組みであるため、被保険者間で負担も原則平等であることはやむを得ないと思った。一方、保険といいながら、公費が半分投入されている以上、低所得者が1ヶ月ごとにさほど高い負担をしなくて済むように1か月に利用者が支払う利用料の上限を決めておく高額介護サービス費制度の充実を図ることを願っていた。できる限り多様な低所得者別に分け、さらに上限額を抑えることである。一応、この制度ができているが、十分かどうかは議論の分かれるところである。

 今までの発想では、保険では応益負担になり、租税では応能負担になると考えていたが、障害者自立支援法で応益負担制度を導入し、その考え方を転換した。これは、介護保険制度という保険の世界に応益負担を導入したのとは異なり、租税の世界に導入したことである。ただし、保険=応益、租税=応能といったことは幻想であり、多くのサービスを考えた場合、税金で行う多くの行政サービスを応益で実施していることも確かである。そのため、租税に基づくサービスに応益負担を導入すること自体は否定するものではない。

 一方、障害者の場合には、租税でもって様々なサービスが提供されているが、これは児童領域も同様であるが、児童領域での例えば保育所の保育料の自己負担は応能負担が今も続けられている。ここに、児童福祉のサービスは応能負担で、障害者福祉は応益負担であるのかの説明がつきにくい。これは、障害者のサービス利用は契約によると説明すれのであれば、児童領域でも保育所の利用については契約の仕組みとなっており、説明理由にはならない。

 保育所に子どもを入所させている世帯は共働き世帯が多く、こうした世帯に比べて、障害者の所得が相対的に低いことを考えると、租税で実施する福祉サービスの中で、障害者に特化して応益負担を導入するのには、配慮が欠けているのではないかと思う。理論的には、児童領域も含めて、応能負担から応益負担の議論をすべきであると考える。

 さらに、福祉サービス制度を応能負担から応益負担に切り替えていくとするのであれば、増加する負担分を払うことができるよう、基本となる低所得者の所得を補償していくことが前提である。障害者の場合には、障害者手当なりの充実により、誰もが一定の所得をもつことの実現を前提にして、応能負担の仕組みが議論されるべきであると考える。

 私の思いは、社会保障財源をできる限り抑制しなければならないという社会状況については理解できるが、困っている人にやさしさをもった社会を国民すべてで作り出していくべきであると思っている。その意味では、障害者への応益負担は、社会の側での配慮が欠けるものと思っている。