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『日本語は亡びない』

金谷 武洋、2010、『日本語は亡びない』、筑摩書房 (ちくま新書)

本書は、いうまでもなくベストセラーとなった水村美苗の『日本語が亡びるとき』をふまえて、水村のそれが、バイリンガルとして近代日本文学に耽溺したいきさつをふまえて、現代日本語の問題が取り上げるのに対して、本書は、国外で日本語教育に従事する著者がそれに反論する形をとっている。しかし、考えてみると、水村のそれが、現在生きている日本語が、近代日本文学に比較して変化していることを取り上げるのに対して、本書の著者は、書かれた文字よりも、日本語運用の問題としてとらえていて、文字言語に関するポイントがずれているように思われる。ここで述べようとすることは、どちらが間違っているというのではなく、むしろ、両書が相補的に読まれてしかるべきと思うということを述べたい。

まず、書かれた文字についていえば、我々人類は、まだまだ適応過程にあるといえよう。そもそも文字が誕生して5千年程の時間しか経っておらず、この間、人類の脳が、文字の誕生にたいしてその適応度をあげてくるには時間が短すぎて、文字に対する適応障害が少なからず見られることは、まさに、このことの証であろう。いわゆる、「識字障害(ディスクレシア)」というのは、学習障害ではなく、人類の言語進化と脳機能進化の問題として考えるべきものだろう。

NHKスペシャル|病の起源 第4集 読字障害 ~文字が生んだ病~:http://www.nhk.or.jp/special/onair/081012.html
ディスレクシア - Wikipedia:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%82%A2

世界の近代化は、人々に平均的な能力の発揮を求めており、文字による教育を義務化し、さらには、文字認識のレベル(リテラシー)において差別化をおこなってきたわけで、その意味で、近代システムは、文字による支配をさらに強化してきたものといえよう。情報化社会は文字情報だけではなく多角的なメディアを提供するよう展開しているものの、基盤となるコンピュータ言語はまさに文字によって定義されているのであって、文字以外の多角的メディアの存在はあくまでも表面的には卓越しているとしても、その基盤はあくまでも文字であることに違いはない。

人類の言語は文字言語が誕生する前は、音声言語と身振り言語が人類のコミュニケーションの手段であった。これがどのくらい続いたのか不明ではあるが、しかし、文字言語の歴史は実に短い。音声言語ですらも、危機言語(話者が減少するなどして、言語が失われていく可能性が高い言語)が叫ばれるが、それでも、人類の言語の歴史からしてどれほどの言語が失われてきたことか。もちろん、機器言語の数が増しているのは、世界が流動し人口流動が甚だしくなったことのけっかではあるけれど。
そうした中で、文字言語もまた、盛衰をきわめてきたはずで、何も日本語だけの問題ではない。私は『日本語が滅びるとき』も手に取ったのだが、すぐに、これは、私の関心ではないと読むのをやめた。一見、バイリンガルである著者の言語問題である富みえたのだが著者の問題関心が日本語といっても、文字で書かれた日本文学に焦点が絞られていると思えたからである。もちろん、文字で書かれた日本文学もまた、日本語である。

わたしが、ここで、本書と合わせて読んではどうか、といっているのは、この点である。この両書が似たようなトピックを取り上げている(たぶん、これは、出版社の営業政策)にもかかわらず、なんとなく、議論がすりあわないのは、片やアイデンティティと日本語の問題および英語の支配する世界(『日本語の亡びるとき』)をとらえて「亡びる」といっているのに対して、日本語教育の現状および日本語教育の問題に焦点を当てて「亡びない」といっているからである。

日本語は亡びない (ちくま新書)
金谷 武洋
筑摩書房

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日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で
水村 美苗
筑摩書房

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2010-03-21 22:17:06 | 読書 | コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


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