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Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

「図書4月号」から その1

2020年03月31日 12時02分45秒 | 読書



いつものように覚書として。

・水の夢 1            司  修
「家族三人の中に、見知らぬ男が入っていて、私の「夫」であるといいます。妻も娘もそれは認めていて、「夫」は私の書棚の本を売りはらい、やたらと研究書を買い、四六時中読書です。‥「夫」は書斎を実験室にしてしまい、ドアから無臭の煙を出すようになりました。私はその煙を吸うと、近くの川辺を歩かなくてはならなくなりました。‥ついに川に落ちてしまうのでした。‥‥T氏は、何気なくハリガネ虫の話ををしてくれたのです。カマキリに寄生するその虫は、カマキリを殺さぬようほどほどに栄養をとりながら育ち、受精産卵期を迎えると、ある物質をカマキリの脳に送り込んで、カマキリが川辺に近づいて落ちるよう操作するというのです。水の中でハリガネ虫はニョロニョロとカマキリのお尻から出て、産卵行動をとるらしいのです。私はハリガネ虫の仕組みが、原発とその利益の構造に似ていると思ったのでした。」

・幻の松林             野見山暁治
「この先、どうやって生きてゆけばよいのか。砂丘のゆったりとした凹みに、いくらか体を埋めて、丘陵をおおったこの松林がどこまで続いてくれれば、と願っていた。‥戦地で、まったくの廃品となったぼくは、ソ満国境の置き忘れられたような陸軍病院の一角に、漂流物のようにしがみついていた。生死の争いが、日々ぼくの体内で過ぎていったのか、本人にはもう関連のない時間帯だったのだろう。それまでぼくのいた兵舎には凍てついた絶壁が、すぐ目の前に立ち塞がり、見渡すかぎり続いていた。ソ連領。壁面の随所にあけられた穴ぼこの暗い影からは、銃口が一斉に、その遥か下で動いているぼくたちに照準を合わせているはずだった。‥ほぼ垂直なその岸壁をよじ登り、そのどこかでぼくは射抜かれ、はるか下を流れる川に落ちてゆく姿を、病室の壁にありありと見ていた。‥つい先ごろ何気なく歩いていて、松林の中に踏み込んだ。あれほどに泌々と、体ごと入り込んだ今わの景色とは、違うのは間違いない。ぼくは生きていたのか。あれはずっと昔のことだ。ぼくが大人になりかけた頃。嘘だろ。じゃあ、それまでの長い歳月はどこへ行ったか。」



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