
昨日はショパンの4曲の即興曲を取り上げた。4曲一組の即興曲の形をショパンはシューベルトの「4つの即興曲」を念頭に作曲したといわれている。
ショパンの4曲の即興曲は1837年から1842年にかけて作られている。一方シューベルトの「4つの即興曲」(D899)ははじめの2曲が1827年に出版され、4曲揃っての出版は1855年まで待たなくてはならない。また「4つの即興曲」(D935)は1838年に出版されている。
ショパンは即興曲という形式の示唆はD899から受けたかも知れないが、念頭に置いたのはシューベルトの遺作といわれるD935の方かもしれない。断定は私などには難しい。
D899は30分ほどの曲。ショパンの4つの曲すべて合わせても20分ほどの曲と比べて10分ほどの長いだけの曲だが、印象はシューベルトの方がずっと大曲に聞こえる。それは最初の曲が10分以上という長さであることにある。第4曲が極めて印象深い曲想でフィナーレのように余韻を感じるためでもある。シューベルト自身はD899の時には特に4つまとめる意志はなかったようであるが、結果としては第2曲、第3曲から受ける印象からも4曲まとめて聴くのに適した有機的な構成になったと感じる。即興曲という名称を付すことで、ソナタなどの3楽章で一曲、という趣向ではなく、分離してもまとめて聴いても良いという自由度の高い曲の有機的な構成を自覚的に追求しようとしたのではないか、私は想像している。
D935は合わせて36分ほどの曲になる。こちらはの4つの曲の関連はどうだろう。より緊密だという捉え方とそれほど重視しない捉え方とがあるようだ。第3曲は11分ととても長い。変奏曲という形式により第3曲だけでひとつ世界が成り立っている。有名な甘美なメロディーは、4曲の中ではちょっと異質に聴こえる。しかし私はひとつの曲として意識して聴くようにしている。
こんなことを考えながら、ショパンの念頭にあったというこのシューベルトの2つの「4つの即興曲」を聴いている。
ショパンもシューベルトも、即興曲は最晩年に造っている。小品によるピアノ曲が大きな流れとなる始めと全盛期に位置すると云われる二人の曲を並べて聴くのもいいものである。
なお、このCDの演奏はラドゥ・ルプー、1982年の録音となっている。

