

長谷川等伯の描いた「波濤図」(禅林寺)と「波濤図屏風」を並べてみる。
上が、2010年東京国立博物館で開催された「長谷川等伯」展の図録から取った「波濤図」(禅林寺大方丈中之間の(現在は掛幅)襖絵、重要文化財)である。
金箔による雲霞が水墨画の岩の存在を際立たせているが、このような作例は等伯以前には見当たらないとのことである。
鋭利で荒々しい岩と、繊細で曲線で描かれる波が好対照である。波は北斎の富嶽三十六景の「神奈川沖浪裏」のストップモーションをかけられたような波を彷彿とさせる。岩のタッチは他の作品「四愛図襖」「山水図襖」などにも同じような岩が描かれており、等伯独特の描き方らしい。
下は今回の出光美術館に出展された「波濤図屏風」。こちらの方が全体として丁寧に仕上げられている。雲霞も雲のように明確に描かれ、明るい。波もはっきり書かれ、うねりが少し大きい。波の先端の表現はほぼ共通している。こちらは着色画であり、波の先端は白くふちどりされ、上の図よりも波が強調されている。
また上の絵よりも奥行き感が増している。
両方の絵で共通するのは、共に中央やや右寄りの大きな岩。これが共通している。そして岩と波、雲以外の景物が何もない。樹木も、動物も、人間もいない。太陽も月もない。
このような絵が襖に描かれている部屋、あるいは屏風が置いてある部屋、一日眺めていたらどうだろう。時間による光線の具合も考えると、一日いや数日いても飽きることなどまず考えられない。 こんな体験を是非してみたいものである。
