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Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

中桐雅夫「遍歴」

2016年08月20日 19時55分15秒 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等
 遍 歴    中桐雅夫

夜から夜へ
いかに多くの夜を眠つても
人は新しいものを作りだすことはできない
悩みから悩みへ
いかい多くの悩みを求めても
人は新しい悩みを得ることはできない

 「人は多くのことを忘れてゐるのである
 人を滅ぼすものは
火の空から落ちてくる岩ではない
ひそかな冷たい痛みである
 人を殺すのは去つてゆく時ではなく
 ひたひた迫つてまる一瞬の時である

けふの部屋から明日の部屋へ
いかに多くの旅を重ねても
人は新しいベツドに眠ることはできない
愛から愛へ
いかに多くの愛を求めても
人は新しい愛を得ることはできない

 「人は多くのことを忘れてゐるのである
 独りの眠りの間にも
 紐のやうな二本の皺が
 額ひに深く深く刻まれてゐるのである
 人と人との結婚によつて
 人は新しい敵を得るのみである

人は独り立つことはできない
しかし人の手を握ろうとするな
四方に固い壁をつくれ
恐怖にも汝の歯を見せず
汝の波立つ血をしづめよ しづかに
汝の柩を汝の血で満たせ


 私が23歳の頃に一生懸命に眼を通した「荒地詩集1952」。隔月で復刊されるこの詩集は職場になかなかなじめない私にとっては、自分の世界に浸ることのできる大事な刊行物であった。
 なぜに当時の詩が今になって懐かしく思い出されるのか、やはり私にとっての出発点の一つだったからだと思うしかない。10代後半の読書体験と共に、この20代前半の読書体験はとても私にはいとおしいものである。どんなに「若い」と揶揄されようが手離せないものである。
 この詩も、最後の6行「人は独り立つことはできない/しかし人の手を握ろうとするな/四方に固い壁をつくれ/恐怖にも汝の歯を見せず/汝の波立つ血をしづめよ しづかに/汝の柩を汝の血で満たせ」はどんな処世訓よりも私には忘れられないものである。


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