Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

犬塚勉展-純粋なる静寂-

2011年09月18日 20時08分36秒 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等
 友人に奨められて日本橋高島屋で開催中の絵画展、犬塚勉展-純粋なる静寂-を見た。1949年生まれというから私の二歳上だ。そして1988年38歳の時谷川岳で遭難死を遂げる。
 大学卒業後美術教師として出発し、スペイン遊学を経て仏像がなどの試行錯誤を繰り返しつつ、突如として1984年頃から登山の趣味から生まれたスーパーリアリズムとも言うべき精緻な筆致の絵を描き始める。
 それまでの試行錯誤からは突然の転位を果たす。この転位後の第一作とも言うべき「ひぐらしの鳴く」と題された絵は、草の一葉一枚、茎の一本、花の花弁一枚一枚まで取り付かれたように精緻に、絵自体の構図や中心的題材など眼中にないように、画面いっぱいに描きつくす。
 展覧会の副題にもあるようにそれは静寂に包まれた草原の一瞬の光のもとの光景に見える。どこか懐かしく、その中に寝転んで見たい衝動にかられる絵である。転位後は対象を見る視点の低さが特徴だ。
 私は最晩年の1986年作の「銃走路」が気に入った。その後作者は山の木の切り株やブナの大木、そして絶筆となる「暗く深き渓谷の入口Ⅰ」のような大きな岩へと絵の対象、関心の対象を広げていって突如として遭難死という終焉を迎える。
 一連の木の切り株の絵やブナの大木の絵、巨岩の絵は、スーパーリアリズムから一歩超えた自然に対する畏敬の念を超えた、ある種の象徴性を暗示させるものがあるだけに早すぎる死は残念でならないと感じた。