伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

元銀行支店長弁護士が教える 融資業務の法律知識

2022-04-19 22:04:08 | 実用書・ビジネス書
 銀行の融資担当者が融資や条件変更、債権回収などの際に考慮すべき法律等について解説した本。
 あくまでも銀行の側から、銀行にとってのリスクや法的手段等を説明したものですが、借り手側から見て参考になる情報もあります。法令ではないものの日商(日本商工会議所)と全銀協(一般社団法人全国銀行協会)が事務局を務める経営者保証に関するガイドライン研究会発表の「経営者保証に関するガイドライン」が中小企業が破産等の法的手続または準則型私的整理手続(再生支援スキーム、事業再生ADR等)を行っていいる場合の経営者である個人保証人について「華美でない自宅」と一定期間の生活費に相当する現預金(経営者が45歳以上60歳未満の場合462万円、60歳以上の場合363万円がめやす)等を手元に残せる(220~223ページ)とか。もっと実際の運用について詳しく教えてくれるといいのですが。銀行が不良債権回収の段階に入った場合、利息より先に元本に充当する(実際には「不良債権」になったら系列の保証会社に代位弁済させて銀行の手を離れるので、あまり意味はないですけど)のは、債務者/借主のためじゃなくて「そのほうが不良債権を減少できるからです」(245ページ)って。なるほどです。
 著者はみずほ銀行に長年(興銀時代と通算して24年)勤務していたとのことですが、融資先に法令違反があるときの例として「利息制限法に違反する高利の貸付を行っている消費者金融業者へのバックファイナンス」を挙げた上で「法令違反が絡む投資へのバックファイナンスとして融資をしてはいけません」と述べています(27ページ)。少なくともみずほ銀行の支援を受け今はみずほフィナンシャルグループ企業となっているオリコが「利息制限法に違反する高利の貸付を行っている消費者金融業者」であったことは言い逃れの余地はないと思いますが(まさか、オリコは「信販会社」だから「消費者金融」ではない、とか言いませんよね。いくら何でも)、そこは「よく言った」と評価しておきましょう。
 離婚の際の住宅ローンへの対応について、居住する方の収入で返済が無理な場合は、夫婦間の協議結果に関わりなく銀行としてはローンの組み替えはもちろんのことローン支払いの継続にも応じないで売却をすすめるとしています(190~192ページ)。事業者でない個人には徹底して回収優先の冷酷な姿勢ですね。銀行の本音が見えます。
 弁護士の書いたものとしては、期限の利益の喪失について「銀行が期限の利益を喪失する」「銀行が期限の利益を喪失した」という表現が出てきたり(例えば100~101ページ)(銀行は借主の期限の利益を「喪失させる」のが通例ですし、もし銀行側の期限の利益についてなら「放棄する」が通例)、「分割会社に対し債務の履行をできる債権者」(183ページ)(「債務の履行を請求できる」か「分割会社から債務の履行を受けられる」だと思いますよ。常識的には)とか、意味わかってる?って疑問に思う表現が見られます。他人に/素人のライターに書かせて弁護士が「監修」してるのなら見落としかな(それでもこういうの見落とすかな)と思いますが、弁護士が自分で書いてこういう言葉使うか?と思いました。


池田聡 日本実業出版社 2022年3月20日発行
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これだけは知っておきたい「性病」の症状と予防法

2022-04-18 20:56:55 | 実用書・ビジネス書
 性病の症状と感染リスクについて解説した本。
 「ヘルペスウィルスは、粘膜と粘膜の接触で感染することがあり、キスはもちろんのこと、同じコップで飲み物を飲む『回し飲み』の行為でも感染するケースが報告されています」(24ページ)、「ヘルペスは、感染当初は無症状で、数年後に再発するというケースもあります」(83ページ)って。え~っ、私らの世代では、回し飲みなんてごくふつうだったけど。昔のそれが原因で今頃なんてこともあるのか…
 「性病は単純な性行為だけでなく、様々な要因が重なって発症することもあり得る病気なのです。まだまだ研究途上で、ブラックボックスのままはっきりしていない部分もたくさんあります。おまけに、病原体がさらなる進化を遂げて、現状では予想もしない経路で感染するウィルスや細菌が誕生してもなんら不思議ではありません。そういうわけですから、性病が発覚したからといって、安易にパートナーの浮気を疑うのは、正しい判断ではありません」(84ページ)というのも、そういうものかとも、そう言われてもとも…
 「HIVに感染していながら、感染対策を講じずに、不特定の人と性行為をしている人がいる」「当院での治療経験令(ママ)から考えても、決してその数は少なくありません」(96ページ)というのも恐ろしい。
 温泉で体質に合わないボディソープで性器を洗いすぎてしまい細菌が入り込んで細菌性亀頭包皮炎にかかってしまったという症例の紹介(72ページ)や、ウォシュレットでの洗いすぎやトイレットペーパーでの拭きすぎで粘膜に傷ができて細菌やウィルスの侵入の危険が生じるという指摘(98~99ページ)も、性病というのとは違うんでしょうけど、気をつけようと思いました。


蓮池林太郎 セルバ出版 2022年1月28日発行 
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野口整体を40年探求してきた医師が教える 素晴らしい「介護と看取り」

2022-04-17 21:37:00 | 実用書・ビジネス書
 高齢者が自然に枯れるように安らかな死を迎えられるような健康法・生活習慣を論じた本。
 「はじめに」では、悲惨な介護殺人のことを紹介し、悲惨な介護を解消するための方法を語るとし、その方法としては25人の高齢者が共同生活をしてお互いに協力しながら看取る「二十五三昧講」の実施を進めているように見えるのですが、この本全体としては、前半で介護殺人事件の哀しい事例、終末医療の問題などを述べた後に、自然死とそれを受け入れていた過去の日本の文化や野口整体の考え方などを紹介した上で、後半は老化を防ぐ健康法を説明し、むしろそちらに焦点が行く作りとなっています。
 その中で、「病気が治るイコール健康ではない」「病気をしないことが健康でもない。風邪をひくような状態に体がなったら風邪をひくのが整った体です」(106ページ)、「治す力があるからこそ病気になり、病気は治るのが当たり前となります」(107ページ)というのは驚きでした。「春の季節の変化にあわせてひく風邪は、冬の間に溜め込んだ栄養や老廃物を排泄する脱皮のようなものだと考えることもできます」(167ページ)、「九月にひく風邪は、夏の疲れの清算という意味合いがあります」(178ページ)って。おぉ…でも、歳をとるにつれて、一度風邪をひくと長引くんですよね。
 「冬の間に溜め込んだ皮下脂肪や余計なものを、春になると体外に排泄します。その際、下痢になることがよくあります」「それ故、春先の下痢は薬で止めてはいけない」(169ページ)と。人間は、ときおり病気になるのが自然で、人間の体は病気を活用しているというのです(109ページ等)。う~ん、でもそう言われてもそこまで達観できないなぁ。
 健康法でもいろいろ書かれていて、すべてを実践するのは難しそう(例えば1か月小麦を絶てとか:126~130ページ)ですが、空腹感を感じる食生活をし(始終食べるのではなく食間を空けるということですね)、お腹がすいたら(お腹がすいてから)食べることを実践する(120~123ページ)のは、私はすでにしています(平日はふだんお昼抜き:健康法の本ではあまり好感されていないようですけど)。睡眠2時間前にはパソコンの使用はやめる、寝る前に本を読むのもよくない(141~143ページ)は、私には無理でしょうね。


三角大慈 KKロングセラーズ 2022年3月1日発行
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面白い物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術 上下

2022-04-16 22:34:57 | 実用書・ビジネス書
 「ハリウッドの虎の巻」とも呼ばれ創作講座などでも教科書として採用されていた映画、脚本等の創作テクニックを紹介するロングセラーを出版したものだそうです。
 そういう紹介を見て、またタイトルに惹かれて読み始めると、今ひとつつかみは弱いしすでにどこかで聞いたようなことがくどくど言われている感じで、残念に思えました。
 神話学研究者のジョーゼフ・キャンベルが書いた「千の顔をもつ英雄」が分析したヒーローズ・ジャーニーの展開:日常世界→冒険への誘い→冒険の拒否→賢者との出会い→戸口の通貨→試練、仲間、敵→最も危険な場所への接近→最大の試練→報酬→帰路→復活→宝を持っての帰還が繰り返し語られてストーリーテリングの基本とされ、ロシアの研究者ウラジミール・プロップがおとぎ話を分析して論じたキャラクターの類型化(敵対者、贈与者、支援者、姫君と父王、派遣者、主人公、偽の主人公/偽の主張者/第二の敵対者)や31の「機能」(ヒーローズ・ジャーニーの12ステージより詳細な31の段階)、レスボス島出身のアリストテレスの弟子テオプラテスの「キャラクターたち」に記載された30のキャラクター類型(皮肉屋、へつらい屋、無駄口屋、粗野な人間、お愛想を言う人間、無頼の人間、おしゃべり好き、噂好き、恥知らず、けち、いやがらせをする男、タイミングの悪い人間、おせっかい、愚か者、へそまがり、迷信深い人間、不平屋、疑い深い人間、不潔な人間、無作法な人間、見栄っぱりな人間、しみったれ、ほら吹き、横柄な人間、臆病者、独裁者(権力好き)、年寄りの冷や水をする人間、悪態好き、悪人びいき、貪欲(欲深)な人間)など、この本で創作の基本とされ、また面白そうなアイディアは、いずれも過去のあまり読まれていなかった文献から抜き出したものです。
 まぁ、創作と言っても一から作れるものは少ないですし、過去の研究・知見は公共の財産(パブリック・ドメイン)ですから、いいと言えばいいのですが。ディズニー映画などを手がけたハリウッドの人の著作と聞くと、ディズニーでハリウッドな手法だねと妙に納得してしまいます。


原題:Memo from the Story Department : Secrets of Structure and Character
クリストファー・ボグラー、デイビッド・マッケナ 訳:府川由美惠
角川新書 2022年2月10日発行(単行本は2013年9月、原書は2011年7月)
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見えない地下を診る 驚異の物理探査

2022-04-15 20:50:28 | 実用書・ビジネス書
 地下の構造や資源等の存在を、地表面から地震波や重力、磁気、電気等を測定しその測定結果を解析することによって調査して行く手法について解説した本。
 第1章が、何を測定することで何がわかるかというような話、第2章が物理探査がどのような場面でいかに役に立つかの話、第3章がそれぞれの探査方法の説明という構成です。一応理屈として別の話なんでしょうし、立場上物理探査がいかに価値があるかを言いたい(サブタイトルにもその興奮・高揚が表れています)のもわかるんですが、結局第1章と第3章はずいぶんと被る感じがします。むしろ地下の何を探査するためにはこういう調査方法があって、それがどういうふうに役に立っているということを括って説明した方が読みやすく理解も深まるんじゃないかという気がしました。それで何ができるって自慢話だけじゃなくて、このあたりが現状では技術的・コスト的な限界で、それをどうやって補っていて、今後技術の進歩でどういうことが予測されるとか、測定方法のもっと具体的な話とか取れる生データはこういうものでそれをどう処理して分析してるなんてところまで書いてくれると(第1章、第2章、第3章に分けたために無駄にかぶってるところを省けばそれくらいの紙幅はできそうに思えます)よかったんだけどと思いました。


公益社団法人物理探査学会 幻冬舎ルネッサンス新書 2022年1月26日発行
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枳殻家の末娘

2022-04-14 22:36:16 | 小説
 1年前に死んだ若者たちの心をつかんだロック歌手小諸初とセックスしていた17歳の女「キリコ」を、妹を殺した人物を殺害した過去のあるムショ帰りの中年ライター小暮京一郎がインタビューして手記を書くという設定の官能小説。
 京一郎とキリコの会話というか掛け合いで進む冒頭から第4章1まで(99ページまで)とキリコのひとり語りの形式になる第4章2から第7章まで(233ページまで)、京一郎視点の形式に戻る第8章以降で印象が大きく違います。キリコひとり語りの部分は、17歳の女性の語りとは思いにくく、文体も乱れ、官能小説としてみても、ふつうの小説としてみても入りにくく退屈な感じがします。このあたりはなんか、雑な仕事っぽい。ここは中年男が話を聞いて手記にまとめたから語りとして今ひとつでおじさんぽさが出るという趣向であえてこういう文章にしてるというつもりかもしれないけど、そうとしても滑ってるように私には思えます。ふつうの小説としても、官能小説としても、読みどころは第4章1までと第9章以降でしょうね。
 作者が2021年8月に亡くなったのを見て、1993年の28年も前のスポーツ紙連載を急遽単行本として出版というのは、「まこと素晴らしき英断」(西村賢太の寄稿文:339ページ)なのか、出版社の商魂たくましさなのか…


高橋三千綱 青志社 2022年1月26日発行
サンケイスポーツ連載
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あなたの愛人の名前は

2022-04-13 22:52:06 | 小説
 3歳年上の幼なじみで今では「気の合う親友のよう」で「ほとんど体を重ねない」夫がいるが友人の澤井から紹介された女性用風俗に通う石田千尋、ハルちゃんに拾われなついているが赤ん坊が生まれると冷たくされて悲しむ猫のチータ、同棲している婚約者がいるがバーで一緒にいた美人の友人江梨子に声をかけてきた男浅野を自分から誘ってセックスのための逢瀬を続ける瞳、仲の悪い母と妹との関係に悩みつつ瞳との関係を続ける浅野、通い客の教師鈴木絵未に名前も聞けないまま思いを寄せるバー経営者黒田、中学時代の友人絵未に連れられて黒田の店に行きそこで黒田の友人友永と出会う浅野の妹藍の6編の短編連作。
 女性たちの夫や婚約者は善良な男に見え、それでも不満を持たれている設定に、男の目からはやるせないものを感じます。
 石田千尋の「足跡」は、妻がいても性風俗に通う夫が責められない(近年はどうかと思いますが)社会へのプロテストとして妻の性風俗通いを描き、それに違和感を持つ者に夫の場合との比較/ダブルスタンダードに思い至らせる狙いがあるの、かもしれません。しかし、そうだとしても、というかそういう狙いであるとすればますますというべきか、夫が結婚する大学の後輩と結婚式のスピーチの打ち合わせをすると聞いていて(夫は隠してもいない)喫茶店で話しているのを見つけて、「夫はテーブルを挟んで、誠実な距離を保ったまま話していた」(37ページ)というのに、それを見た石田千尋がその場で携帯で性風俗の予約を入れるというのは、どうかと思う。夫がただ喫茶店で女性と話している、それもそのことを隠し立てもせずに伝えてそうしているということと、自分は夫に隠れて性風俗の店に行くということが、等価だというのでしょうか。「目には目を」ではなくて、自分が目をやられたら相手には死を望むという姿勢に見えます。まぁ人間そんなものだから、それを抑えるためにハムラビ法典ができたというのですが。


島本理生 集英社文庫 2021年12月25日発行(単行本は2018年12月)
「小説すばる」連載
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兇人邸の殺人

2022-04-12 22:16:59 | 小説
 「屍人荘の殺人」でゾンビ軍団に襲われてから、その生物兵器開発の黒幕とおぼしき「班目機関」を追う新紅大学ミステリ愛好会の剣崎比留子と葉村譲が、班目機関の研究成果を奪いたい企業幹部に誘われて班目機関の研究者だった者のアジトに乗り込み、例によってそこで殺人事件が発生し窮地に陥るというミステリー小説。「屍人荘の殺人」のシリーズ第3弾。
 オカルト的な研究にも手を出していたという班目機関の絡みで、やはり無理がある設定に思えますが、そこを乗り越えられれば、丁寧な展開と謎解きに感心します。研究の被験者/犠牲者となる者への視線にも共感を覚えました。
 前回に続き、ラストで「続く」を強くアピールしています。それも、次作の書き出しを強く拘束しそうなエンディングです。すでにもう書けているというならわかりますが、そうでない限り、執筆の自由度がなくなって苦しむだけだと思います。
 「屍人荘の殺人」(剣崎比留子2年生の8月)から第2弾「魔眼の匣の殺人」(剣崎比留子2年生の11月末)まで、お話の中では3か月余、現実世界では1年4か月余、その後「兇人邸の殺人」(剣崎比留子2年生の3月)まで、お話の中では3か月余、現実世界では2年5か月余が経過しています。次作は、「兇人邸の殺人」末尾の予告がそのまま活かされるなら「兇刃邸の殺人」の直後ノータイムになります(でも現実世界では果たして…)。剣崎比留子が大学を卒業するまでに、これまでの3か月おきで第10巻か11巻、ノータイムで続けなら ∞! その間に実世界では浦島太郎ほどの年月が流れるか…


今村昌弘 東京創元社 2021年7月30日発行
 
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心の病気にかかる子どもたち 精神疾患の予防と回復

2022-04-11 22:17:48 | 実用書・ビジネス書
 高校生と教師、保護者向けに、精神疾患への罹患はむしろ若い世代に多いことなど、精神疾患についての知識を持ってもらうために説明した本。
 2022年4月から新学習指導要領に基づいて高校の保健体育で精神疾患が教えられることになったことを機会に教科書に併せて理解を深めてもらうために書かれたそうです。
 第1章で「心の病気」にこんな思い込みをしていない?として7つの思い込みを書いているのですが、最初の3つは答ではっきりと否定されているのに、後の4つ「精神疾患の人は危険」「精神疾患にかかると治らない」「精神疾患になると人生をあきらめなければならない」「精神疾患の人に周囲ができることはない」の答はあいまいであったり話をそらせているような感じがして、今ひとつスッキリしません。簡単な問題ではないということではあるのでしょうけれども、あえて「思い込み」といってQ&Aを作るのなら、もう少しはっきりした答を書くか、少なくともはぐらかされた感のない答を書くべきなんじゃないでしょうか。
 精神疾患別の総患者数の推移のグラフが31ページに掲載されています。入通院者数なので、実際の罹患者数とは異なるのでしょうけれども、近年でも認知症よりも統合失調症の方がまだ多いのですね。ちょっと驚きました。


水野雅文 朝日新聞出版 2022年1月30日発行
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医療情報を見る、医療情報から見る エビデンスと向き合うための10のスキル

2022-04-10 21:39:33 | 実用書・ビジネス書
 一般的に流布されているものや学術論文も含め、医療に関する情報を評価する際に頭に置いておいた方がよい、医学情報というものの性質、実験・研究が持つありがちな偏りや限界などについて解説した本。
 がん治療に関するインターネット情報の信憑性について検討された日本の研究によれば、検索上位に表示される情報は、信憑性の高い情報サイトよりも科学的根拠に乏しい有害なサイトの方が多いことが示されているそうです(2ページ)。いくつかのキーワードで検索上位20位までのサイトを評価したところ、有害な情報を提供していると考えられるサイトは3割を超え、信頼できる情報を提供しているサイトの割合(紹介されている研究結果では1割台)よりも、遙かに多いという結果だったんだそうです(3~4ページ)。
 え~っ。エビデンスと向き合う姿勢で検証してみようと思うのですが、ここで紹介されているとおりに「がん治療」でGoogle検索した上位20サイトの運営者を列挙すると
1位:国立がん研究センター
2位:ファイザー製薬
3位:日本癌治療学会
4位:小野薬品工業・ブリストルマイヤーズスクイブ
5位:北海道大野記念病院札幌高機能放射線治療センター
6位:兵庫県立粒子線医療センター
7位:日本癌治療学会
8位:がん研究会有明記念病院
9位:新緑脳神経外科横浜サイバーナイフセンター
10位:国立病院機構東京医療センター
11位:国立がん研究センター
12位:がんプラス(医療メディア)
13位:SBI損保
14位:免疫療法コンシェルジュ(医療法人珠光会の患者有志)
15位:日本がん治療医認定機構
16位:厚生労働省
17位:アフラック
18位:株式会社エース・フォース(がん治療費.com)
19位:静岡県立静岡がんセンター
20位:JA広島総合病院
でした(2022年4月10日実施)。これで3割が有害な情報を提供しているサイトだったら、心底怖い…
 すべての米国人に良質な医療が無償で提供されたとしても、早期死亡を減らすことができるのは10%にすぎないと言われている、医学的介入がもたらす健康への影響よりも、患者の健康関連行動や社会的環境が占める割合の方が大きいと紹介されています(95~96ページ)。また、薬が飲んだ人すべてに効くように思っているのはある種の錯覚、考えても見てください、副作用は薬を飲んだ人すべてに発生するわけではありません、有効性についても同じことなのです(130ページ)というのも、なるほどと思います。そこで説明されている平均的な心血管リスクを有する50歳の男性に対して心血管死亡が30%減るような医学的介入(例えばスタチン系の薬剤の投与など)を行うとその後の獲得余命は平均して7か月と見積もられた研究の実際の内容がその治療を受けた集団の7%が平均99か月の余命を獲得し残り93%の獲得余命は0ということ(129ページ:一定の効果があるといわれる治療法が実は大半の人にはまったく効果がない)はちょっと衝撃的ですが。
 統計的に有意差があると考える基準とされる5%は「経験的に」用いられている、言い換えれば何か決定的な根拠があって5%とされているわけではなくある意味で「恣意的」な基準(120~121ページ)という説明も、目からウロコの思いです。以前からなぜ5%(95%)なのかというのは疑問に思ってはいたのですが、はっきり恣意的なものといわれてみると、ストンと落ちます。
 製薬会社から医師に食事(お弁当)が提供されると医師の処方行動が変化する、たった1回の食事提供でも医師がその製薬会社の薬剤を処方する割合が有意に増えたとか(114ページ)。人間って哀しいですね。
 さまざまな点で気がつかされ刺激されることの多い本でした。


青島周一 金芳堂 2020年1月30日発行
 
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