伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

わたつみ

2022-04-21 23:33:26 | 小説
 東京の芸術系大学の映像学科を出て映画を1本撮り映画監督として生きていくことを志したが失敗して京都駅から特急に乗り2時間半の日本海に近い故郷の田舎町に戻り株式会社わたつみの海産物加工工場に勤める33歳の田嶋京子が、同僚の女たち、両親と3歳年下の妹らと間合いを計りながら暮らす日常を描いた小説。
 第1章から第4章では、前半(1)で田嶋京子の失意と諦めと煩悶の日々を、後半(2)でいずれも工場での同僚の、中学の同級生だったシングルマザーの青山美津香、東京の専門学校から夫と戻ってきて自然食カフェを経営している4歳年下の甲斐くるみ、管理者木下順平に淡い思いを持つ30歳過ぎの処女沼田千里、夫と3人子どもがあるが出会い系サイトで男を漁り続ける45歳の大久保幸子の嫉妬と鬱屈にまみれた性生活を描き、第5章以降、田嶋京子の話に集中していくという構成です。
 田嶋京子が東京から故郷に戻ることとなった原因が、私が悪い、全部、私が悪い、だからこれから罰を受けに行く(10ページ)、本当のことなどいえない(23ページ)、事故を起こして怪我をした(65ページ)、親を悲しませ、負担をかけ、自分自身も傷つき落ち込んで周りに対しても理由を明かせない(100ページ)…と抽象的なほのめかしを続けていて、謎として先送りされ続けますが…そうされると何かすごい種明かしを期待してしまいます。しかし、実際のところは、単に、明かすタイミングを失ってしまったという感じがします。
 主人公の田嶋京子よりも脇役の同僚たち、特に青山美津香の屈折した思いやたくましさの方が読みどころかもしれません。そういうところも含めて平凡に見える名もなき女たちの嫉妬とセックスをめぐるエネルギーを感じさせる作品です。


花房観音 コスミック文庫 2021年12月25日発行(単行本は2017年2月:中央公論新社)
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