伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

あなたの愛人の名前は

2022-04-13 22:52:06 | 小説
 3歳年上の幼なじみで今では「気の合う親友のよう」で「ほとんど体を重ねない」夫がいるが友人の澤井から紹介された女性用風俗に通う石田千尋、ハルちゃんに拾われなついているが赤ん坊が生まれると冷たくされて悲しむ猫のチータ、同棲している婚約者がいるがバーで一緒にいた美人の友人江梨子に声をかけてきた男浅野を自分から誘ってセックスのための逢瀬を続ける瞳、仲の悪い母と妹との関係に悩みつつ瞳との関係を続ける浅野、通い客の教師鈴木絵未に名前も聞けないまま思いを寄せるバー経営者黒田、中学時代の友人絵未に連れられて黒田の店に行きそこで黒田の友人友永と出会う浅野の妹藍の6編の短編連作。
 女性たちの夫や婚約者は善良な男に見え、それでも不満を持たれている設定に、男の目からはやるせないものを感じます。
 石田千尋の「足跡」は、妻がいても性風俗に通う夫が責められない(近年はどうかと思いますが)社会へのプロテストとして妻の性風俗通いを描き、それに違和感を持つ者に夫の場合との比較/ダブルスタンダードに思い至らせる狙いがあるの、かもしれません。しかし、そうだとしても、というかそういう狙いであるとすればますますというべきか、夫が結婚する大学の後輩と結婚式のスピーチの打ち合わせをすると聞いていて(夫は隠してもいない)喫茶店で話しているのを見つけて、「夫はテーブルを挟んで、誠実な距離を保ったまま話していた」(37ページ)というのに、それを見た石田千尋がその場で携帯で性風俗の予約を入れるというのは、どうかと思う。夫がただ喫茶店で女性と話している、それもそのことを隠し立てもせずに伝えてそうしているということと、自分は夫に隠れて性風俗の店に行くということが、等価だというのでしょうか。「目には目を」ではなくて、自分が目をやられたら相手には死を望むという姿勢に見えます。まぁ人間そんなものだから、それを抑えるためにハムラビ法典ができたというのですが。


島本理生 集英社文庫 2021年12月25日発行(単行本は2018年12月)
「小説すばる」連載
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