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伊東良徳の超乱読読書日記

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ソクラテスからの質問 「価値は人それぞれ」でいいのか

2022-12-13 22:14:49 | 人文・社会科学系
 「いつどこで誰が聞いても絶対感動する歌」はあるかというような100%全員が一致して賛同する価値を持つものは存在するかという問い、「美味しい料理が美味しいのはなぜか」といったようなものごとの真の原因(理由)は何かという問い、この2つの問いに答えることをテーマとした哲学の入門書。
 著者は、前者の問いについて、自分が誰もが感動するに違いないと確信している歌を学生約100人に聴かせたが感動したと答えた学生は約80人にとどまった(その80人という数字が学生の著者への遠慮・忖度により水増しされたものではないかを検討もしていないあたり、吟味し続けるのが哲学者だというこの本の主張が実践されているのか疑問に思えましたが)ということを、1名でも反対するなら他の全員に当てはまると言えないと考えつつ、他方でこの約20名はよさに気付いていないだけだ、彼らは何がいい曲なのかということがまるでわかっていないのだとも考えるとしています(30~33ページ)。この例に見られるように、この本の中で、前者の問いは、現実に感動したかという問題(事実)と、本来は感動すべきものであるという問題(価値観)をそのところどころで使い分けているというかごっちゃにしてわかりにくくしているように思えます。
 そして、著者の解説するソクラテスは、知っていること等の概念を通常世間で考えられているのとは異なる極端な現実には不可能なような定義をし(知っているということは実行できるということ、実現できないならば知らないということ等)、それにより相手の主張を否定しつつ、自らが問われれば、自分は無知であるが無知であることを知っている、真実を知ることに向けて吟味し続けることが大事であるということで、端的にいえばどんな主張に対しても反駁否定できるメソッドであり、著者の解説するプラトンは、後者の問いについて料理が美味しいのは「美味しさのイデア」があるからであると答え、そのイデアはむしろ標準的な概念でそれは人が生来的に知っている、思い出せないだけで答は自分の中にあると禅問答のように答えることで、端的にいえばどんな答えもイデアが宿っている、それにあなたは気がついていないだけだと言い張ることで正当化できるメソッドであるように思えます。著者は、ソクラテスとプラトンを、差別主義やホロコーストを支える思想も価値があり尊重しなければならなくなるリスクをはらむ「相対主義」への反論の可能性を切り開くものと評価していますが、その議論自体も観念的な自己満足に陥りかねないように思えますし、著者の議論自体がまた新たなリスクをはらむようにも思えます(著者自身その危険も指摘してはいますが:172ページ等)。
 この本は、「ネム船長の哲学航海記Ⅰ」とされ、3冊のシリーズにすると予告されています。


根無一信 名古屋外国語大学出版会 名古屋外大ワークス 2022年8月31日発行
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