goo blog サービス終了のお知らせ 

湖の子守唄

琵琶湖・湖北での生活、四季おりおりの
風景の移り変わり、旅先でのふれ逢いなど、
つれづれなるままに、語りたい。

彦根・袋町不思議空間

2010年06月11日 | 詩歌・歳時記
   芹川の堤を歩む青年武士、長野主馬の姿を
遊郭の一軒の二階から、なぜか心惹かれて見送る村山たか女。
船橋聖一の名作「花の生涯」の冒頭シーンである。

      海の音はるかに聴ゆ
     観音の
     腰から背への豊かなる張り

 所は彦根・袋町。今もバーや料亭の並ぶ、歓楽街だ。
その一角に偶然見つけたのが、商人宿「よろず屋」さんだった。
古風なたたずまいに、気を惹かれて、少し大き目の戸をひき開けてびっくり。
広い三和土、左手に格子がはまった座敷があり、二階の端には露台が。

 むかしの遊郭のまま、出張の会社員や長期の工事のひとの宿だった。

 友とふたり、一晩をすごした訳だが、見るもの聞くもの驚きの連続だった。
いくつにも折れ曲がった廊下。あまつさえ、曲面しているのだ。
歩きにくいたっらあらぁしない。なぜ、そんな造りなのか?判りますよネ、
 二階は四畳半が並んでいるとか、所謂、ちょんの間というやつ。
 私達が通されたのは、次の間付の座敷だったのだが、
酒屋へビール頼むやら、あちこちから料理取り寄せるやら、
よく気のつく明るいおかみさんには、えらいご迷惑おかけした。

     雷鳴は鈴鹿の山へ去りゆけり
     湖を大きく
     架け渡す虹

 柱のひとところ、深い傷口が。酔った軍人が斬りつけた跡とか。
トイレの扉には、雪隠の札が。玄関のバルコニーは、朝、帰る客を見送る
遊女の立つところとか。
 宿にまつわるエピソードが面白く、夜は更けていったことだった。

一年後、東京の句会仲間が大挙して押し寄せ、みんなご満悦。
不思議な空間での句会は、大いに盛り上がったことだ。
残念ながら、今は営業されていない由。親戚の家へ遊びに行くごとく、
もう一度、一晩を過ごしてみたいものである。