湖の子守唄

琵琶湖・湖北での生活、四季おりおりの
風景の移り変わり、旅先でのふれ逢いなど、
つれづれなるままに、語りたい。

村八分

2012年03月30日 | 詩歌・歳時記

                

東京からここ滋賀県の湖北地方に移転してから24年が経つ。 けったいなことの連続でした。

葬式がある。村のひとびとが集まり、山へしきびの木を切りにゆく人、町へ葬式の品を買いに

走るひと、まぁー、手際がよいのさ。私は、デザインの仕事をしてきたので、堤燈に貼る、

その家の家紋を金紙を刻んで作っていた。虚しい作業さ。

                    春がすみ

           遠山さらに遠くいて

           生きる由なぞ問ふもおろかよ

        

80軒ほどの村では、夜回りが廻ってくる。拍子木叩いて、村を歩くのだが、それって、何の

意味があるのかいね? ちなみに国道をはさんだ私の家では、一度も聞いたことのない

拍子木の音。母の顔をたてただけの愚かな一夜のひとこまでした。

          春雪やカモメは常に一羽飛ぶ

人が死ぬと、ふたり一組で、堤燈にローソクたてて一軒一軒、翌日の通夜をふれて歩くのさ。

お前らは、犬神家の一族? いきなりだと、ゾッとするんだよ。

 

母が死んで、私には縛りがなくなりました。でね、区長に「逆村八分」を請願しました。

これよりは、村の作業・寄り合いには、一切係わり合いをいたしません、ということ。

                       

家へやってきた区長を、ようやく説得して、晴れて「村八分」の身分になれました。

神も仏も、一切信じていない私には、ようやくこの地が、安住の地になれましたのさ。

ちなみに、残りの二分というのは、葬式と火事ということです。

          滝壺に落ちて走れよ春の水

古い因習と、くだらないしきたりに縛られたこの地区で、交通事故とか、なにかがあれば、

勿論、私に出来ることであれば、出張ってゆきます。それは人として、当然のことですから。

村のごみ集積所に、ごみは持っていかない!!と胸を張った私ですが、そこは市の管轄で、

市民税を払っている私には、利用する権利はあるのですね。さて、はて・・・・・。  

村八分になって、100パーセントの人間性を回復いたしました。  


「太秦婦人」・・・・・作詞

2012年03月24日 | 詩歌・歳時記

大手精密機械メーカーの長浜工場に勤務していた時、派遣会社からやってきた、

京都・太秦出身の女性と知り合ったことがあった。 夫とふたり、仕事をしていた。

仕事の合い間、ちょっとした立ち話で、太秦の町のようすを、懐かしげに語る彼女。

                         

どこか、商家のお嬢様育ちという風情である。夫の方は番頭とはとても思えない、せいぜい

手代という感じだった。でね、想像力たくましく、一編の詩を書き上げたのだった。

    「太秦婦人」

    1  うすむらさきの 絵日傘を

       ひとつ廻して うつむいて

       「いけないひと」 と、つぶやいた

       あぁ 太秦婦人 いま、いづこ

    2  世間のうわさ 気にやんで

       涙で愛した ひとだった

       「いのちのひと」 と、抱きしめた

       あぁ 太秦婦人 いま、ひとめ

    3  北山杉に 春時雨

       ひと目をさけた 山路で

       「もうお別れ」 と、ささやいた

       あぁ 太秦婦人 いま、いちど

                 

詳しい生い立ちを、聞いたわけではなかったが、この詩をあげた時、えらく感激してくれた。

「私の人生を、すべて見通したみたいな詩。なんでなの??」 と、彼女は言った。 

ああ、俺の感性も・・・・まだ、鈍ってはいないのだなぁー!!・・・・と、にんまりしたものである。

 


藍の詩・・・・・母の句集 ②

2012年03月12日 | 詩歌・歳時記

                 彦根城 

名も知らぬ兵士の墓や椿満つ

少年の夢まっすぐに松の花

七十年生きて今年の梅を干す

                        

青葉風大湖をのぞむ尼の寺            八幡山 門跡寺院

なごり雪病む子を思ひ針はこぶ

なつめ熟れつい口づさむ水師営

           花の生涯 碑

木枯らしや晴れ着の仕立てせかさるる

雪晴れやいま留袖を縫ひ上げし

わが腕のいまだ枯れざる針供養

                    

夫の忌を忘れずほたるぶくろかな

甥逝きて魚津の海に冬の虹

とじ糸の藍あざやかに蒲団干す

              

金婚の能登路の旅や桐の花

平成の子は使わざる天花粉

鯨尺当てて餅切る大晦日

 

わくら葉にひとの情けの初日の出       2012.1.1 絶唱


藍の詩・・・・・母の句集 ①

2012年03月06日 | 詩歌・歳時記

2月7日、91歳で旅立った、わが母の俳句を読んでください。

                    

赤かぶら干して近江の冬構へ

掘り立ての芋たまわりぬ泥の手で

赤紫蘇をもむ手にそよぐ厨風

     

桑の実に口染めし日や母の居て

格子戸に紫蘭ゆかしき城下町

天平の色して紅葉輝ける

                          

ゆかた縫ふ指先藍のうつりきて

梅雨晴れ間仕立ててうれし訪問着

憂きことの皆忘れたり藤の花

                

生かされて八十路となりぬ稲の花

若葉風童女となりて逝きし姉

水ぬるむ戸締りいらぬ生家かな