金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

米新規住宅販売件数堅調で株価大幅反発

2016年05月25日 | 投資

昨日(5月24日)朝方発表された4月の新規住宅販売件数が2008年1月以来の高水準に達したことなどから大幅に反発した。

ダウは213.12ポイント(1.22%)上昇し、17,706.05で引けた。S&P500は28.02ポイント(1.37%)上昇し、引け値は2,076.06ポイントだった。

また米国の利上げ観測からユーロに対してドルが強含み、ユーロ安を好感して欧州株が上昇したことや、ORBの世論調査で英国がEUに残ることを支持する人の割合が55%、離脱を支持する人の割合が42%であることが分り、Brexit(英国のEU離脱)の可能性が後退したことも好材料だった。

米国の4月の新規住宅販売件数は、前月比16.6%増。年率換算で61.9万戸となった。米国の住宅市場における新規住宅の比重は市場全体の1割程度と大きくないが、景気や雇用見通しを図る指標として市場が着目しているものだ。

米国株については、6月の利上げ観測が高まり、頭が重たくなっている。S&P500については、このところ2,040-2,100のレンジで上下しており、昨日の反発もレンジ内の動きで相場のトレンドを変えるものではないようだ。

ところで米国の新規住宅販売件数・年換算62万戸という数字は、日本の新規住宅着工件数88万戸(平成26年)に較べると極めて少ない数字だ。

新規住宅の供給が少ないので、住宅価格は上昇している。4月の新規戸建の中央値は321千ドルで1年前に較べて9.7%上昇している。

米国では環境保護規制などのハードルが高く、新規住宅の供給は限られているので住宅価格は上昇傾向にある。

一方日本では800万戸を超える空き家がありながら、毎年巨大在庫の1割以上の新規住宅を作っている。「空き家は人が住みたがらないところで増え、人が住みたがる大都市周辺ではまだ新築需要がある」ということが、空き家の在庫拡大と新築住宅の併進の大きな原因だ。だが税制面などで新築住宅の取得が既存住宅の購入より優遇される面があることも見逃せないだろう。大都市周辺でもリノベーションをすれば、十分住み続けることができる住宅が簡単に廃棄されているのは、勿体ないことである。

国民経済レベルで考えると、アメリカ人が既存住宅を新築住宅より安い価格で手に入れて、その差額分を他の消費に回す余地を生み出しているのに較べ、多くの日本人は既存住宅を購入しリノベーションすることで相対的安く住宅を取得するという選択を捨て、高い新築物件を購入し、他の消費支出を削減しているということができそうだ。

 

 

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「殿、利息でござる」面白い映画だったが、少し深読みしてみると・・・

2016年05月23日 | 映画

昨日(5月22日)「殿、利息でござる」を観た。面白い映画だったし、昔の日本の私財をはたいて村を救済した人がいたことに感激した。また現在のお金で3億円という大金を仙台藩に貸し付け、その金利で年貢を相殺するという金利感覚にも感心した。

だが少し深く考えてみると、この話の裏には「江戸時代の税制の歪み」があったと思われる。

江戸時代の税の基本は年貢と諸役(小物成、夫役など)でその主な担い手は農民であった。この映画で問題になったのは隣の宿場から運ばれてくる年貢米を次の宿場に搬送する「伝馬役」という諸役である。農民による労働力の拠出である。

ただしこので伝馬役等の夫役については江戸後期以降は金銭で代納することが多くなってきたようだ。これを夫役銭と呼ぶ。

この映画では当初は労働力を提供していたが、仙台藩に千両を貸し付けた後は利息相当分が夫役銭になり伝馬役が免除となる。

これを経済的に見ると「村が藩に資金を貸付て利息を受け取る」「税金を労働力の提供から金銭納付に変える」という二つの取り決めに分解することができる。更にいうと仙台藩は40年後にこのアレンジメントを一旦保護にしたというから、前者は「利息付き納税資金の前納」ということもできる。

さて本題は村のために税金を支払った商人たちの行為は手放しで「私財を投げ打った美談」と考えてよいかどうか?という点である。

その問題は「商人たちは本来自分たちが支払うべき税金をそれまで十分支払ってきていたか?」という問題である。

このケースにおいて「商人たちが十分税金を支払っていたかどうか」は分らない。だが二つのことが言える。まず一般論として江戸時代の税は「田畑の大きさ」に比例して課税される年貢と役務提供力に対して課税される夫役が中心でその担い手は農民だったということだ。商人については「上納金」という形で一時的に課税されることがあったが、一般的には農民の納税負担に較べると極めて軽かったと言われている(時代や地域によって当然異なるが)

次に貧しい宿場町の商人でも10人集まれば3億円の資金が拠出できたということは、造り酒屋や金貸し業は農民に較べればもの凄く儲かる仕事だったということができる。

もし江戸時代に現在のような累進型の所得課税制度があれば、彼等商人たちは沢山の税金を払うことになり、結果的には農民が夫役を提供することなしに済んだことになるだろう。そうするとこの映画もなかった訳だが・・・・

つまり江戸時代の商人は「道路網、港湾施設、治安」といった幕府や藩が提供するインフラに対し相当タダ乗りしていた面が多く、そのしわ寄せは農民にいっていたいうことができる。

従って今日の公共経済学や税制を踏まえて考えると商人たちの行為は本来負担するべき課税義務を履行したともいえるのである。もっとも商人が税金を支払わなかったのは商人の責任ではない。商工業に担い手に対する有効な課税手段を作り出すことができなかった幕藩体制に責任がある。農地課税を政策の根幹に据えて変更することができなかった幕藩体制が商工業の発展とともに崩壊に向かったのは必然の帰結である。

面白い映画の感想にしては理屈っぽい話になってしまいました・・・・

 

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TPPの影響は経済全体では限定的、ただし勝ち組は農業、負け組は工業~米ITCの予測

2016年05月22日 | 国際・政治

先週米国の国際貿易委員会ITC(超党派的な政府の調査機関)は、TPPが批准された場合の米国のGDPや産業に与える影響をまとめたレポートを発表した。

それによると批准された場合の米国のGDPや雇用に与える影響は限定的なものだ。

レポートによるとGDPは2032年までに427億ドル(0.15%)増加し、フルタイムの仕事は128千人純増する。

産業セクター別では2032年までに、ビジネス・サービスでは116億ドル産出量が増加し、農業・食品では100億ドル増加する。また小売り・卸売りの増加は74億ドルと予想される。

一方産出量が減ると予想されるのは、電子部品(37億ドル)、金属・金属製品(37億ドル)などで工業全体としては108億ドルの産出量の減少が予想される。

TPPについては、11月の大統領選挙の候補と予想される民主党のヒラリー・クリントン、共和党のドナルド・トランプともTPPに反対しているので、大統領選挙が終わるまで議会で審議されることはないだろう。ただITCがこのタイミングでTPPの影響に関するレポートを発表した背景には、オバマ政権が議会内のTPP支持者を増やそうとする試みと考えてよいだろう。

来週の伊勢志摩サミットに出席するオバマ大統領にはG7以外に二つの大きなミッションがある。一つは広島訪問でもう一つはベトナム訪問だ。これは日本とベトナムとの連携を強化することで、東太平洋において軍事的プレゼンスを高める中国に対して、戦略的な橋頭堡を構築するためだ。

オバマ政権が特に期待を寄せているのはベトナムとの関係強化だ。オバマ政権はベトナムに対する武器輸出規制を緩和するのではないか?という観測もある。

またTPPが批准されるとベトナムからの工業製品の輸出が増えることで、ベトナム経済は10%程度拡大すると予想されている。ベトナムがTPPで受ける恩恵は極めて大きいようだ。

さてITCのレポートが米国の選挙民や議会メンバーにどのように解釈されるかは分らない。

全体的に米国経済成長や雇用に与える影響はそれほど大きくなく、むしろ業界別にプラスマイナスが大きくでるので止めるべしという意見が強まるかもしれないし、計数化されていない中国への抑止力として、批准すべしという意見をサポートするかもしれない。

ただし「中国への抑止力」という狙いは計数化できないのでどれ程訴求力があるかは疑問だが。

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米国最大級の民間総合年金基金が事実上破たん?

2016年05月21日 | ライフプランニングファイル

米国最大級の民間総合年金基金セントラル・ステート・ペンション・ファンドが破綻の危機に瀕している。

同基金はトラック業界を中心とした1,500の事業者・40.7万人の加入者がいる確定給付年金基金だ。大雑把な言い方をすれば、トラック業界総合年金基金である。

同ファンドのホームページによると、2014年末で同基金の資産残高は178億ドル(約1.9兆円)で年金債務は350億ドル(約3.9兆年)。毎年28億ドルの年金支給を行っている。同基金の構成メンバーの運送会社が1980年代以降の規制緩和の影響で破綻したところが多く、掛け金収入が低迷していた。CNNによると、3ドルの年金支給に対し掛け金収入は1ドルという割合になっていたという。これでは破綻は避けられないとして、同基金は財務省に大幅な給付減額によるリストラ案を申請していたが、財務省はその給付減額案でも破綻を回避できないとして、リストラ案を却下した。

その結果CNNは「40万人の年金加入者は実質的に年金額ゼロになる」と報じている。

退職者が増え続ける米国で大型基金の破綻は、多くの人々にあらためて老後資金の安全性を考えさせるだろう。

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米政府、残業手当要件の変更を発表。数百万人が残業代支払対象に。

2016年05月19日 | ニュース

昨日(5月18日)米国政府は残業手当支払ルールの変更を発表した。

現在の米国では原則として週40時間を超えて働くと「残業手当」を支払うことになっている。ただし年収2万3660ドル=週給455ドル(1ドル=110円として260万円)以上の管理職はこの対象外になっている。

昨日米国政府はこの年収制限を倍の47,476ドル=週給913ドル(520万円)に引き上げた。

残業手当が支払われる年収制限(以下閾値)は10年ぶりのことで、過去40年の中で3回目の引き上げだ。

バイデン副大統領のエコノミストを務めたJared Bernstein氏は「この法改正は、ヘルスケア法の改正とともにオバマ政権が中産階級支援のために達成した最も重要な施策だ」と評価した。

新しい残業手当支払いルールは今年12月1日から実施される予定だ。米国労働省によると「新しい閾値の導入により、現在の年収制限の元では7%だった残業代支払対象者は35%に増加する」と予想している。また労働省はこれにより420万人の勤労者の所得が増加すると予測している。

残業手当の増加は、懐具合の苦しい雇用者を直撃する。「上に政策あれば下に対策あり」というのは有名な中国の諺だが、米国の雇用者も色々対策を考えるので、果たして労働省の計算通りに行くかどうかは疑問が残る。

CNN Moneyは閾値の改正により雇用者が4つの対応をとる可能性があると示唆している。

1)雇用者がそのまま新ルールを受け入れるケース

現在年収ベースで2万3660ドルから47,476ドルの間にいる勤労者は、週40時間を超える勤務を行うと残業分につき1.5倍at time and a halfの残業手当を支給される。また「管理者」として残業手当支給対象外になっていた人も年収がこのレンジにある場合は「残業手当支給対象者」に再分類される。

2)雇用者が年収を引き上げて閾値以上の年収にするケース

勤労者の年収が新しい閾値の47,476ドルに近い場合、雇用者は基本給を閾値以上に引き上げ、残業手当支給対象から外すという対応をとることが予想される。この場合勤労者の年収アップは現在の年収と閾値+アルファの差に留まる。

3)残業廃止

新しいルールで今まで残業手当対象外になっていた「管理者」が残業手当支払対象者になる場合、雇用者は残業を止めさせ、時間内勤務に収めるよう指示するケース

この場合は年収の増加はなしだ。ただ労働力不足を補うため雇用者はパートタイマー等を採用する必要に迫られる。

4)残業代を払う代わりに基本給を下げるケース

雇用者が残業代支払対象者になった場合、雇用者は基本給を引き下げ、残業代込で前の年収と変わらないレベルにするという対応をとる可能性もあるそうだ。随分乱暴な話に聞こえるが、最低賃金法に抵触しない限り違法ではないということだ。

ただし勤務者側は当然不満なので、労働市場が好調であれば、転職という手に出るだろう。

★    ★    ★

以上のように見ると残業手当支払に関する年収制限が倍に引き上げられたからといって、今まで残業していた分にまるまる残業手当が支払わるとは限らない。しかし「みなし管理職」として残業手当なしに残業を強いられてきた勤務者にとっては朗報であることは間違いない。

日本でも労基法を改正して年収1000万円以上のプロフェッショナルについては残業代を支払わなくても良いという制度の導入が検討されたようだが、ホワイトカラーエグゼンプションという言葉が示すとおり、これはアメリカ発の制度である。今そのアメリカで大きな改正が行われている。

約520万円という残業手当対象外という閾値の設定も参考になると思うが、数字をこねるだけでなく、考え方の背景や雇用者の対応まで注意深く研究する必要があるだろう。

 

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